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腹ペコハンターは伊達じゃない

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 朝食は俺に一人前、マシロとノア合わせて一人前、リズに一人前、そして余りの二人前を俺達の中央に置いた。

「「「「いただきます」」」」

 俺は目の前の料理に手をつける。
 うん、旨い。我ながら美味しく出来たとお思う。
 他の皆も手を止めることなく食べているから、それなりに満足してくれているはずだ。
 だけどその中でも、リズがどれくらい食べるか気になって、つい視線を向けてしまう。しかし今の所、美しい所作で食べているだけで大食いには見えない。
 だが俺はこの時見誤っていた。何故ならリズの皿の中は既に空だったからだ。

「あの⋯⋯おかわりをしても大丈夫でしょうか?」

 リズは控え目に皿を出し、語りかけて来る。
 少しだけ他の人と比べて食べるとリズは言っていたが、もしかしてこれは少しでは済まないかもしれない。
 でも食べ物に関しては心配しなくて大丈夫と口にしたんだ。その責任を取ってリズにはお腹一杯食べて貰おう。
 それに作った物を美味しく食べてもらえるのは、俺も嬉しいからな。

「大丈夫だよ。足りなかったらまた作るから言ってほしい」
「わかりました。それではその⋯⋯よろしくお願い致します」

 この後、俺はさらに二人前の朝食を作るが、リズはペロリと平らげてしまう。どうやら腹ペコハンターの称号は伊達じゃないと理解するのであった。

 朝食を食べ終えた俺達は、再びローレリアへと向かう。
 そしてその道中で一つの村が見えてきた。
 外套で顔を隠しているとはいえ、もしリズの正体がバレたら面倒なことになるので、どこに寄らず素通りする予定だった。しかしその予定を狂わす事態が起きてしまう。

「やめて下さい!」

 突如大きな声が聞こえてきたため、俺達は足を止める。

「何かあったのでしょうか?」
「人が集まっている。行ってみよう」

 何が起きたのか気になって、騒ぎが起きている場所へ向かう。
 だけどその前に。

「リズは絶対に手は出さないでくれ。正体がバレたら大変なことになるからな」
「わかりました」

 俺は改めてリズに忠告する。
 本当はこの騒ぎにリズを連れていきたくはない。だけど出会った時、王国に住む人達が安心して暮らしているか知りたいとリズは言っていたからな。ここは無視することは出来ないだろう。

 俺達は人垣を割って進んでいく。
 するとそこには地面に倒れた少女がおり、その側には身なりの良い太った男と数人の兵士の姿が見えた。

「ニナ、金は用意出来たのか? 税金を納めないものはこの村から⋯⋯いや、この国から出ていってもらわないとな」
「税金? 毎月銀貨二枚の税金なんて払える訳ないでしょ!」
「それがこの国の新しい法律だ。そしてこのアホード様がカザフ村の管理を任されている。金を払えないなら別のもので払ってもらうしかないな。ひっひっひ⋯⋯」

 アホードという奴が薄気味悪い笑みを浮かべて、舐めるような視線でニナという少女を見ている。
 毎月銀貨二枚の税金だと? そんなもの一般の家庭が払えるものではない。
 新しい国王はいったい何を考えているんだ。

「何故このような国になってしまったんだ」
「前の国王様は俺達のことを第一に考えてくれた。むしろ不作の時は税を優遇してくれたのに」

 周囲から悲痛の声が聞こえてくる。
 この言葉をリズはどんな気持ちで聞いているのだろう。
 だけど今は外套で顔が見えないため、何を考えているのかわからない。
 まだ目の前の現状しか把握していないが、これがこの国全土で行われてたとしたら、とんでもないことだぞ。

「お前も両親もバカだよな。前国王の味方についたがために殺されたんだからな」
「お父さんとお母さんはバカじゃない!」
「現実を見たらどうだ? 新国王のリスティヒ様についた俺は貴族になり、前国王についたお前の両親は殺されたんだ。どちらが賢い選択をしたか一目瞭然だろう」
「くっ!」

 ニナはアホードを親の仇のように睨み付ける。

「だけど優しい僕がお前にチャンスをやろう⋯⋯僕の女になれ! そうすればこれから貴族として愚民どもを支配する側になれるぞ」
「お断りです!」
「なんだと!」

 ニナは考えるそぶりもせず、即答でアホードの提案を拒否していた。

「これが最後のチャンスだ。お前のことは前から気に入っていたんだ。僕の女になれ!」
「しつこい! 誰があなたなんかと。あなたと添い遂げるくらいなら死んだ方がマシです!」
「バカな女だ。それなら死んだマシだと思うような苦痛を与えてやるよ! ひぃっひっひ!」

 アホードは狂気染みた笑みを浮かべ、兵士からムチを受け取った。
 そして地面をムチで叩き、ゆっくりとニナへと向かう。

「や、やめて!」
「どうした? さっきの強気な態度は? 泣いて土下座をすれば許してやってもいいぞ」
「だ、誰が謝るものですか!」

 口では威勢のいいことを言っているが、ニナがアホードに恐怖を感じているのは誰の目から見ても明らかだ。
 このままではあの柔肌が、ムチによって切り裂かれるのは時間の問題だろう。

「や、やめろ!」
「横暴だぞ!」
「ニナちゃんに手を出したら許さないぞ」

 この状況を見かねてか、周囲の村人達が声を上げた。

「なんだ貴様ら。ニナを助けたいのか? ならば勝手にするがいい。だがこの村の者が一人でもニナを助けたら、連帯責任として来月の税は倍とする。それでもいいなら僕を止めるがいい」

 税が倍⋯⋯その言葉を聞いて、誰も口を開くことが出来なくなってしまった。

「ふん! 覚悟がないなら初めから吠えるな。そこでニナが傷つく所を見ているがいい」

 村人達は悔しそうな表情をするが、ペナルティーが嫌なのか誰も動くことが出来ない。

「そうだ。どうせ僕の物にならないなら、ムチで服を切り裂いて辱しめにあわせてやろう。お前を助けてくれなかった村人達の前で、醜態を晒すといい」
「や、やめて⋯⋯お願い」

 アホードのムチがニナに迫る。
 ニナは目を閉じて、ムチから逃れることは出来ないと諦めていた。
 そして周囲の者達もどうすることも出来ず、ただ見ているだけと思われた。
 しかしアホードのムチが迫る中、二人の人物がニナを守るように立ち塞がるのであった。
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