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何もない誰もいない寂しい街で、私は、ただひたすら、前に進み続けていた。
日が落ちないこの街では、時間の感覚は疾うに無くなってしまった。
でも、私は歩いた。気持ちが挫けそうになったら、力の限り走った。ヴェイル様に会うことだけを考えて。

そんな時間が何時間も、何日も過ぎ去った頃、私を導いていた微かな光に、小さな光の玉が現れるようになった。
それは、少しずつ増えていき、私の周りを光の海に変えていく。


これ…、精霊?
ヴェイル様と豊穣祭で見た精霊の光に似てる。

フワフワと寄ってきた光に手を伸ばすと、それは、私の指にそっと止まった。そして、何かを語るように点滅を繰り返す。
その無垢な光に、我慢出来なくなった私は、抑えていた想いを吐露してしまった。


「お願い…。お願いします、精霊様。私を、どうか、ヴェイル様の下へ返して下さい。お願いします。帰りたいの…。彼に会いたい…」
言葉と一緒に涙まで出てしまいそうで、私は唇を噛み締めて耐えた。
泣いてしまったら、きっと座ってしまう。そうなったら、もう歩けない。

藁にも縋る想いで、精霊に願った私は、暫く下げていた顔を恐る恐る上げた。すると、指に止まっていた光は、もう何処かに行ってしまっていた。重い失望感が私を包む。

その時、再び私に精霊が寄って来た。私は、導かれるように視線を動かすと、そこには眩い光を放つ扉があった。その扉は、丁度私の背丈に合わせたように小さい。

私は、一歩、その扉に近付いた。
すると、ヴェイル様の声が聞こえた。ヴェイル様が、私の名前を呼んでいる。何度も、何度も。

その声を聞いた瞬間、私の体は扉に向かって走っていた。そして、無我夢中で扉のノブを掴み、それを開け放った。

扉の先は、眩しい光と溢れた涙で見えない。でも、嗅ぎ慣れてしまった香りと、私の居場所だと実感出来る腕の温もりで、自分が今、何処にいるのかは、すぐに分かった。


「ヴェ、イル様…」

次第に結ばれた焦点に、ヴェイル様の顔が映り込む。ヴェイル様は、その綺麗な顔に、深いクマを刻み、軽く髭まで生やしていた。

髭はあまり似合ってないなと思いながら、私は一房落ちた彼の黒髪を耳に掛けてあげる。ヴェイル様は、その手に自分の頬を擦り寄せてきた。

そんな彼に、私はずっと言いたかった言葉を告げた。

「ただいま」と。

すると、ヴェイル様の目から、涙が雨のように私の頬へ落ちてきた。その涙の一粒一粒に、彼の気持ちが溶け込んでいて、私の中に浸透してくる。

私は、彼の涙を止めることはせず、ただそっと拭い続けた。




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