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大樹に宿る精霊の光が、私の目覚めを祝福してくれた後、私達は大騒ぎになる前に王宮へ戻った。
とは言え、あれだけ大樹が光っていたら、手遅れな気もするけど。でも、もう仕方ない。


ヴェイル様の転移で戻った場所は、以前来たことのある彼の部屋だった。そこは、ヴェイル様の匂いに満ちていて、とても落ち着く。本来なら、こんな豪華な部屋は苦手なはずなのに。

帰ってこられたという実感を噛み締めていると、突然強く抱き締められた。その縋るような抱擁に、私はヴェイル様の背中を少しだけ強く撫でる。彼が落ち着くまで、何度も何度も。


「心配をかけてごめんなさい、ヴェイル様。少し、道に迷ってしまって。私は、どれくらい眠っていましたか?あれから、どうなりました?」

ヴェイル様は、私の質問には答えてくれず、私に抱き付いたまま動かない。私の耳には、ヴェイル様の呼吸音だけが聞こえていた。

暫くの間されるがままでいると、ノロノロと顔を上げたヴェイル様が、私の顔を覗き込んだ。その顔は、迷子の子供のように頼りない。
そんなヴェイル様の頬を撫でると、彼は、お互いの鼻が触れそうな程、顔を寄せてきた。鼻を鼻で擽ぐられ、私の背中に甘い痺れが走る。私は、その感覚に抵抗することなく瞳を閉じた。
それとほぼ同時に、私の唇に熱が灯る。
触れるだけのキス。
それは、あまりにも優しくて、繊細で、涙が出るほど幸せだった。


「ヴェイル様…」
私の口から彼の名前が出た瞬間、私の足が宙に浮いた。そして、気付いた時には、ヴェイル様に押し倒される形で、ベッドに横たわっていた。


「ステラ…」

ヴェイル様は大きな体を丸め、私の心臓の上に耳を重ねる。そのまま彼の両腕が私の体をすっぽりと包み込んで、私は動けなくなってしまった。
けれど、そこに性的な触れ合いはない。何だか、大きな猫に甘えられているような気分だった。

私は、ヴェイル様のちょっと元気のない耳に優しく触れる。


「ヴェイル様、私の心臓はちゃんと動いていますよ。大丈夫です。私は、ここにいます」


「ああ、そうだな。ステラは、俺の腕の中にいる。これからも、ずっと…」

「はい」

「ステラ…」
ヴェイル様は、切ない声で私を呼んだ後、突然、体を起こし、今度は私をベッドの淵に座らせた。
それを不思議に思った私は、すぐ目の前に立つヴェイル様を見上げる。すると、彼は徐に片膝を床に突いた。その真剣な表情に、私は息を呑む。


「こんな場所で、しかも、贈り物も用意していない状態で言うことではないと、分かっているんだ。だが、俺は確かな形が欲しい。今、すぐに。だから、どうか、どうか、頷いて。俺は貴女を愛してる。ステラ・バレリー嬢、サウザリンド王弟ヴェイル・サウザリンドの妃となってくれないか?」


愛する人からの結婚の申し入れ。
それは、大好きな人と共に生きていく約束。

花も求婚の贈り物も、それこそ、この場は情緒的な場所ですらない。
何もない求婚。

でも、幸せ。
ヴェイル様の真心が籠った言葉と、愛溢れる瞳と、私を求める手だけで、十分だった。


「はい」

私は、精一杯、心を込めた一言を返した。
涙の先に見たヴェイル様の顔を、私は一生忘れることはない。





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