平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

文字の大きさ
上 下
146 / 163

3-42

しおりを挟む
「邪魔をするな!」

ヴェイル様が、私達の周りに集まった影を焼き払う。でも、払っても払っても新たな影が、私達の足に絡みついてきて、行く手を阻み続けた。


「クソッ!クソッ!いい加減にしろ!」

何度も異能の力を使うヴェイル様の顔色が悪い。私は、荒い呼吸を繰り返すヴェイル様にしがみ付いて、彼を止めた。
すると、影はまた、私達の周りに大量の闇を吐き出す。


このままじゃ、ヴェイル様の体がもたない。
ヴェイル様の体もミシャの闇に、侵食され始めていた。彼に触れた所から闇の力が流れてくるのだ。
でも、周りの闇が濃過ぎて、私ではヴェイル様を浄化しきれない。


どうしたらいいの?
ヴェイル様を助けたいのに。
せめて、ヴェイル様だけでも…。

そう考えて、私は頭を振る。


駄目よ。
ずっと一緒にいるって約束したんだから。
自分だけ犠牲になればいいだなんて、以前の私のような考えではいけないのよ。
私達が、みんなが、助かる方法を考えなきゃ!

ヴェイル様の腕の中で、必死に思考を巡らせていると、彼が一際大きな青炎を燃え上がらせた。
青の大火は、空高く上りキラキラと輝く火の粉を散らせる。それが、頭上から光の雨のように大地と私達に降り注いだ。

一気に空気が澄み、私の心臓の痛みも和らぐ。その時ふと、私はある可能性に気付いた。


「ヴェイル様、ミシャの闇を全て浄化しましょう。」

「ステラ、駄目だ!貴女の体は、もう限界だ。このまま、この闇から一度離れるぞ。」

「でも、私達なら…。」



「それは無理だぞ。」

話の途中で突然、ミシャの声が聞こえた。そして、目の前の闇が左右に割れ、地面に広がる影の一部が盛り上がる。その影の中から、所々体が崩れた満身創痍のミシャが、姿を露わにした。


「もう、この闇は、フローラに与えた我の核から離れない。フローラを主人と定めた。フローラは、この地を汚す魔の一部となるのだ!ハハ。」


「そんな事はさせない。俺は、必ずステラを守りきる。彼女を幸せにすると約束したからな。だから、お前達、魔の者には、決してステラは渡さない。」

ヴェイル様は、強く宣言すると、私を抱き抱えたまま、剣を上空へ翳した。そして、ミシャ目掛けて、青炎の刃を斬りつけた。
炎刃をまともに受けたミシャの体から青炎が噴き上がる。その美しい炎の中で、笑顔に狂気を混ぜながら、ミシャは笑い続けていた。自分の死など、どうでもいいと言うかのように。


「いずれまた…、魔、と共に。その日、まで、苦し、め。」

ミシャは、最後に私達へ呪詛を吐き、崩れながら影に溶けていった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...