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*ヴェイル視点 32
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ステラが湖の側に佇んでいる姿を、俺は固唾を呑んで見守っていた。
ステラが魔力封じの魔石を外せば、魔物の王は直ぐにステラの下へやって来るだろう。
俺は、いつでも駆けつけられるよう体勢を低くしてその時を待った。
本当は、ステラを囮になどしたくはなかった。彼女には、穏やかで安全な楽しいだけの日々を送ってほしかったのだ。
しかし、俺は、ステラの「何かしたい」という熱意に負けてしまった。
閉じ込めてでも、危険から遠ざければ良かった…。
今の俺は、大丈夫だと、通信機を通してステラを励ますことしか出来ない。心細そうに佇むステラの姿に、後悔が募る。
その時、俺の周囲の空気が動いた。
「ヴェイル殿、あまり気負い過ぎるな。これだけの異能者が集まっているのだ。いくら魔物の王でも、勝ち目はない。」
「フェーイレーン殿…。」
振り返ると、竜人族の異能者フェーイレーン殿が、気配を消して俺の側に近付いてきていた。
巫女が密に連絡をとっていたフェイと言う人物が、まさか竜人族の長だったとはな。
少し意外だった。
戦闘部族である竜人族の独特な雰囲気に気を取られていると、不意に、フェーイレーン殿が、ステラのいる湖の方へ顔を向けた。それに釣られて、俺もステラに視線を戻す。
「エレンから話は聞いていたが、ステラは強い子だな。」
「…あ、ああ、俺の自慢の番だ。」
「そうだな。」
フェーイレーン殿は、一瞬、表情を緩めると、踵を返して戻っていく。その背を何ともなしに見送っていた俺に、フェーイレーン殿は、あたかも今思い出したという体で、一つの助言を残した。
「ステラの側に、俺の魔力の半分を注いだ拘束魔法を仕掛けておいた。魔物の王が、ステラに近付けば、すぐに発動する仕組みだ。ヤツが、ステラに指一本触れることはない。だから、安心して見守っていればいい。」
「…すまない、助かる。」
フェーイレーン殿の光の異能は強力だ。
魔物の王でも、簡単には防げない。
だが…。
「なぜ、先程からフェーイレーン殿は、ステラを呼び捨てで呼ぶ!?俺の番だぞ!」
先程から、ステラ、ステラと、馴れ馴れしい。
魔物の王と纏めて、お前もやるぞ!
俺の怒りを感じ取ったフェーイレーン殿は、一度こちらに振り向くと、腹立たしい笑顔を見せてから、今度こそ持ち場に戻っていった。
クソッ!
ステラは、俺のだというのに。
やはり、ステラはどこかに閉じ込めよう。
ステラ本人が、囚われていることに気付かなければ問題ない。
二人だけの世界で、真綿に包んで、幸せにしてやるんだ。
そのためには…。
「来るなら来い。ステラには、触れさせない。直ぐに闇へ返してやる。」
決意を新たにした時、ステラが魔力封じの魔石を外した。その時見えたステラの覚悟を決めた横顔に、自然と俺の前足が力み出す。
フッと、風が止んだ。
鳥の声が消えた。
先程まで微かに感じていた神の恩恵が、澱んだ空気にかき消されていく。
すると、ステラの足元の影が、段々と広がり始めた。しかし、ステラは、それに気付いていない。
そこから音もなく這い出てきた魔物の王が、ステラの背後に立つと、彼女の耳元に顔を寄せる。
その瞬間、俺は、ステラの下へ駆け出していた。
ステラが魔力封じの魔石を外せば、魔物の王は直ぐにステラの下へやって来るだろう。
俺は、いつでも駆けつけられるよう体勢を低くしてその時を待った。
本当は、ステラを囮になどしたくはなかった。彼女には、穏やかで安全な楽しいだけの日々を送ってほしかったのだ。
しかし、俺は、ステラの「何かしたい」という熱意に負けてしまった。
閉じ込めてでも、危険から遠ざければ良かった…。
今の俺は、大丈夫だと、通信機を通してステラを励ますことしか出来ない。心細そうに佇むステラの姿に、後悔が募る。
その時、俺の周囲の空気が動いた。
「ヴェイル殿、あまり気負い過ぎるな。これだけの異能者が集まっているのだ。いくら魔物の王でも、勝ち目はない。」
「フェーイレーン殿…。」
振り返ると、竜人族の異能者フェーイレーン殿が、気配を消して俺の側に近付いてきていた。
巫女が密に連絡をとっていたフェイと言う人物が、まさか竜人族の長だったとはな。
少し意外だった。
戦闘部族である竜人族の独特な雰囲気に気を取られていると、不意に、フェーイレーン殿が、ステラのいる湖の方へ顔を向けた。それに釣られて、俺もステラに視線を戻す。
「エレンから話は聞いていたが、ステラは強い子だな。」
「…あ、ああ、俺の自慢の番だ。」
「そうだな。」
フェーイレーン殿は、一瞬、表情を緩めると、踵を返して戻っていく。その背を何ともなしに見送っていた俺に、フェーイレーン殿は、あたかも今思い出したという体で、一つの助言を残した。
「ステラの側に、俺の魔力の半分を注いだ拘束魔法を仕掛けておいた。魔物の王が、ステラに近付けば、すぐに発動する仕組みだ。ヤツが、ステラに指一本触れることはない。だから、安心して見守っていればいい。」
「…すまない、助かる。」
フェーイレーン殿の光の異能は強力だ。
魔物の王でも、簡単には防げない。
だが…。
「なぜ、先程からフェーイレーン殿は、ステラを呼び捨てで呼ぶ!?俺の番だぞ!」
先程から、ステラ、ステラと、馴れ馴れしい。
魔物の王と纏めて、お前もやるぞ!
俺の怒りを感じ取ったフェーイレーン殿は、一度こちらに振り向くと、腹立たしい笑顔を見せてから、今度こそ持ち場に戻っていった。
クソッ!
ステラは、俺のだというのに。
やはり、ステラはどこかに閉じ込めよう。
ステラ本人が、囚われていることに気付かなければ問題ない。
二人だけの世界で、真綿に包んで、幸せにしてやるんだ。
そのためには…。
「来るなら来い。ステラには、触れさせない。直ぐに闇へ返してやる。」
決意を新たにした時、ステラが魔力封じの魔石を外した。その時見えたステラの覚悟を決めた横顔に、自然と俺の前足が力み出す。
フッと、風が止んだ。
鳥の声が消えた。
先程まで微かに感じていた神の恩恵が、澱んだ空気にかき消されていく。
すると、ステラの足元の影が、段々と広がり始めた。しかし、ステラは、それに気付いていない。
そこから音もなく這い出てきた魔物の王が、ステラの背後に立つと、彼女の耳元に顔を寄せる。
その瞬間、俺は、ステラの下へ駆け出していた。
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