上 下
110 / 163

3-18

しおりを挟む
「おい、じじい。わざわざこっちが出向いてやったんだ。話を聞け。」

「何だ、ニルセン、いたのか?」

「チッ、あんたの葬式でも帰ってきたくなかったけどな。こっちも訳ありなんだ。協力しろ。」


え?
ニルセン様の声で、ビックリする程、乱暴な言葉が聞こえた…。

いつもと全く雰囲気の違うニルセン様を、唖然と見つめていると、ヴェイル様に袖を引かれた。


「ニルセンは、あれが素だ。初めて俺に会った時も、あんな態度だった。」

ニルセン様が!?
あのいつも穏やかなニルセン様が!?
信じられない…。


「こうなると長いからな、仕方ない。止めるか…。」

私の横にいたヴェイル様が動いた瞬間、カーネリアン王が、持っていた本をニルセン様に向かって投げつけた。
それをニルセン様が易々と叩き落とす。その弾みで、本は音を立てて私の足元に滑り落ちてきた。
呆然としていた私は、この一連の流れをただ見ていることしか出来なかった。



「おい、ニルセン!ステラが怪我をしたらどうする!」
私の足先に当たった本を見て、ヴェイル様が、ニルセン様に激怒する。
怒声を浴びせられ、我に返ったニルセン様は、すぐに私とヴェイル様に向かって頭を下げた。


「カーネリアン王、貴方も俺を侮辱しているのか?」

「前触れもなく、訪ねてきたのは、そちらだ。わしは忙しい。早く帰ってくれ。」

「前触れを出せば、貴方は拒否するだろう?世界の危機なんだ。協力してくれ。」

「世界の危機か…。そういえば、災厄が来るとイザリアの巫女から連絡が来ていたな。世界が滅ぶというなら、わしは最後の瞬間まで知識に触れていたい。邪魔をするな。」

「まったく、貴方は…。」

「このクソじじい!」

ヴェイル様の呆れを含んだ溜息と、ニルセン様の怒声が、同時に部屋の中に響く。

二人が、カーネリアン王を非難しているのを横目に、私は足元の本を拾い上げた。


天候予測法?

緊迫した空気の中、不謹慎とは思いつつも、私はパラパラとページを捲る。
その内容に、私は以前、仕事で読んだ資料を思い出していた。
何となしに開いたページの文字を追っていると、平坦な声で呼びかけられる。
慌てて顔を上げた先にあったのは、カーネリアン王の無感情な眼差しだった。


「お嬢さん、それを返してくれるか?続きが気になるんだ。」

「あ、はい。」

「おい、じじい!この期に及んで、まだ本かよ!」

相変わらず独特な空気で二人を無視するカーネリアン王に、ニルセン様が怒りをぶつける。
けれど、そんなことは気にならないのか、カーネリアン王は、本に手を伸ばしてきた。


「ありがとう。」

「あ、あの、差し出がましいとは思いますが、その…。」

私は本を差し出しながら、思い出した事を告げてみた。
一介の人間の私に対して躊躇なくお礼を言ったカーネリアン王に、どこか惹かれたから。


「その天候予測法に新しい理論が発表されたのはご存知でしょうか?半年程前、ミラベルという人間の国から出た新説で、気象予報論と言うのですが。」

「何!?それは本当か!従来のものとは、何が違う!?」

ずっと机から動かなかったカーネリアン王が、私の言葉を聞いた瞬間、機敏な動きで私の下へ近寄ってきた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語

buchi
恋愛
借金だらけの貧乏伯爵家のシエナは貴族学校に入学したものの、着ていく服もなければ、家に食べ物もない状態。挙げ句の果てに婚約者には家の借金を黙っていたと婚約破棄される。困り果てたシエナへ、ある日突然救いの手が。アッシュフォード子爵の名で次々と送り届けられるドレスや生活必需品。そのうちに執事や侍女までがやって来た!アッシュフォード子爵って、誰?同時に、シエナはお忍びでやって来た隣国の王太子の通訳を勤めることに。クールイケメン溺愛偽弟とチャラ男系あざとかわいい王太子殿下の二人に挟まれたシエナはどうする? 同時に進む姉リリアスの復讐劇と、友人令嬢方の推し活混ぜ混ぜの長編です……ぜひ読んでくださいませ!

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。 政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。 国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。 だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...