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首元が落ち着かない。
歩く度に肩を擽る髪が、違和感でしかない。
私は、馬上から短くなった髪先に何度も触れた。
「もうすぐ、ヴァングレーフの領土だ。頑張れるか、ステラ?」
「はい、大丈夫です。」
サウザリンド王国の西側にあるヴァングレーフ王国を目指す私達は、国境の森まで転移魔法陣を使って移動し、その後、馬に乗って森の小道を進んでいた。
そんな私達の前を、ヴェイル様は生き生きと走り回っている。
ヴェイル様は黒豹姿を隠すため、イザリア聖国からずっと、荷物の中に紛れていたから、相当ストレスが溜まっていたのだろう。
今は、尻尾がご機嫌に揺れている。
私は、馬上からヴェイル様の可愛らしい姿を眺めていた。
ヴァングレーフ王国は、森の中にある小さな国で、人口の大半を占める蛇族が国を束ねている。外交に積極的ではなく、唯一、サウザリンド王国とだけ、希少な薬草の取引をしているのだそうだ。
ニルセン様は、やっぱり、そのヴァングレーフ王国の王族だった。現王の孫に当たるのだとか。
「王国と言っても、国土も国民も少な過ぎて、国と言うより一つの集落のようなものですね。ただ、国民は皆、同じ志を持っています。厄介なので、バレリーさんは、団長の側にいて下さいね。」
「わ、分かりました。」
志って何だろう。
疑問に思ったけど、ヴァングレーフ王国が近付くにつれ、ニルセン様の態度がピリピリし出して、気軽に話しかけられるような雰囲気ではなくなってしまった。
踏み固められただけの山道を進んでいくと、国境から割とすぐの場所に、石を高く積み上げた堅牢な城壁が見えてきた。
その上から私達を見下ろす警備兵に向かって、ニルセン様が叫ぶ。
「ニファスの3番目の息子ニルセンが、サウザリンドのヴェイル殿下をお連れした!」
ニルセン様の言葉を聞いた警備兵が、慌てた様子で城壁の中へ消えていくと、暫くして、大きな門がゆっくり開いた。
「王が、お会いになるそうです。」
大きく口を開けた門の中に、無愛想な男性が一人、佇んでいた。その男性の後に続いて城壁内に入ると、簡素な街並みが見えてきた。
看板が出ている所は、お店?
それにしても、あまり人がいない。
だからといって、寂れているわけではない不思議な空気感がそこにはあった。
ニルセン様が言っていたように、国民が少ないからかしら?
日が影ってきた街並みを眺めながら、私達は、大通りの先にある唯一、背の高い建物を目指した。
「カーネリアン王、久しぶりだな。」
「その太々しい態度は…、ヴェイル王子か?暫く会わない内に、サウザリンドの獣人は嗜好を変えたのか?獣の姿を晒すとは珍妙な。」
「…そんな事より、話がしたい。」
「うむ、手短にな。わしは忙しい。」
私達が通されたのは、謁見室ではなく、沢山の本に囲まれた書斎のような部屋だった。
その部屋の奥に置かれたマガホニーの机には、カーネリアン王と呼ばれた立派な顎鬚を持つ小柄な老人が、本を片手に腰を下ろしていた。
カーネリアン王は、一目、ヴェイル様の姿を確認すると、次の瞬間には、興味を失ったかのように持っていた本に視線を移してしまう。
部屋に沈黙が訪れる中、ニルセン様が一歩、カーネリアン王に近付いた。
歩く度に肩を擽る髪が、違和感でしかない。
私は、馬上から短くなった髪先に何度も触れた。
「もうすぐ、ヴァングレーフの領土だ。頑張れるか、ステラ?」
「はい、大丈夫です。」
サウザリンド王国の西側にあるヴァングレーフ王国を目指す私達は、国境の森まで転移魔法陣を使って移動し、その後、馬に乗って森の小道を進んでいた。
そんな私達の前を、ヴェイル様は生き生きと走り回っている。
ヴェイル様は黒豹姿を隠すため、イザリア聖国からずっと、荷物の中に紛れていたから、相当ストレスが溜まっていたのだろう。
今は、尻尾がご機嫌に揺れている。
私は、馬上からヴェイル様の可愛らしい姿を眺めていた。
ヴァングレーフ王国は、森の中にある小さな国で、人口の大半を占める蛇族が国を束ねている。外交に積極的ではなく、唯一、サウザリンド王国とだけ、希少な薬草の取引をしているのだそうだ。
ニルセン様は、やっぱり、そのヴァングレーフ王国の王族だった。現王の孫に当たるのだとか。
「王国と言っても、国土も国民も少な過ぎて、国と言うより一つの集落のようなものですね。ただ、国民は皆、同じ志を持っています。厄介なので、バレリーさんは、団長の側にいて下さいね。」
「わ、分かりました。」
志って何だろう。
疑問に思ったけど、ヴァングレーフ王国が近付くにつれ、ニルセン様の態度がピリピリし出して、気軽に話しかけられるような雰囲気ではなくなってしまった。
踏み固められただけの山道を進んでいくと、国境から割とすぐの場所に、石を高く積み上げた堅牢な城壁が見えてきた。
その上から私達を見下ろす警備兵に向かって、ニルセン様が叫ぶ。
「ニファスの3番目の息子ニルセンが、サウザリンドのヴェイル殿下をお連れした!」
ニルセン様の言葉を聞いた警備兵が、慌てた様子で城壁の中へ消えていくと、暫くして、大きな門がゆっくり開いた。
「王が、お会いになるそうです。」
大きく口を開けた門の中に、無愛想な男性が一人、佇んでいた。その男性の後に続いて城壁内に入ると、簡素な街並みが見えてきた。
看板が出ている所は、お店?
それにしても、あまり人がいない。
だからといって、寂れているわけではない不思議な空気感がそこにはあった。
ニルセン様が言っていたように、国民が少ないからかしら?
日が影ってきた街並みを眺めながら、私達は、大通りの先にある唯一、背の高い建物を目指した。
「カーネリアン王、久しぶりだな。」
「その太々しい態度は…、ヴェイル王子か?暫く会わない内に、サウザリンドの獣人は嗜好を変えたのか?獣の姿を晒すとは珍妙な。」
「…そんな事より、話がしたい。」
「うむ、手短にな。わしは忙しい。」
私達が通されたのは、謁見室ではなく、沢山の本に囲まれた書斎のような部屋だった。
その部屋の奥に置かれたマガホニーの机には、カーネリアン王と呼ばれた立派な顎鬚を持つ小柄な老人が、本を片手に腰を下ろしていた。
カーネリアン王は、一目、ヴェイル様の姿を確認すると、次の瞬間には、興味を失ったかのように持っていた本に視線を移してしまう。
部屋に沈黙が訪れる中、ニルセン様が一歩、カーネリアン王に近付いた。
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