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あの後、姫様はすぐに、私をサージェント王国の隣、イザリア聖国へ向かわせた。今、私は、森に囲まれたこの地で、災厄など無縁の穏やかな日を過ごしている。
私は、使わせてもらっている神殿の客室の窓を大きく開け放った。そこからは、生き生きとした緑輝く森と、大きな湖が見えた。
イザリア聖国は、サージェント王国の王都程の国土しかない小さな国だ。魔道具による技術革新が遅れているようで、私が生まれた辺境の田舎町に、雰囲気がよく似ていた。
けれど、この地は不思議なほど、空気が澄んでいる。清らかな力を感じるというか、ここにいるだけで、体が浄化されるような感覚を覚えた。
それは、この地に神が降臨したからなのだろうか。
大昔、神は、魔物から逃げ惑う人々を救うため、ここに湖を生み出したとイザリア聖国では伝わっていた。聖国の国民は、日々、この湖を見守りながら神に支えている。
姫様は、そんな聖国の国民の下で修行を積み、巫女として、その力を世界のために使ってきたのだ。
「つまらないでしょう?そろそろ飽きてきたかしら?」
ぼうっと窓の外を眺めていたら、姫様がティーセットを乗せたトレイを持ってやってきた。
「姫様、それは私が!」
「いいの、いいの。暇なんだから。それにこの国って、便利な物は、なんにも無いから、自分のことは、自分でやらなきゃ駄目なのよ。」
言葉通り、姫様は手際よく、二人分のお茶を用意してしまった。
「嵐の前の静けさってところかしらね。せっかくだから、今の内に散歩でもしてきたら?この国は、どこも安全だから、女性が一人で出歩いても大丈夫よ。ステラも神に選ばれた存在だから、この地でなら、神の声を聞けるかもしれないわね。」
姫様はそう言ったけど、神様が私に声を掛けてくれるとは思えない。
だって、私はあんなにも神様を恨んだんだもの。
それに、もし今、神様に会ってしまったら、それこそ、酷い文句を言ってしまいそう。
私は、姫様の言葉に、苦笑いを浮かべた。
姫様とお茶を楽しんだ後、私は早速、湖に行くことにした。
透明度の高い綺麗な水を湛えた湖は、不思議なことに生き物がいない。水底には、苔すら生えていなかった。
けれど、この水を使うと、植物がよく育つのだそうだ。確かに、この湖の周りには青々と木々が茂っている。
私は、湖の水に、そっと手を浸けてみた。
ひんやりした水の気持ち良さに浸っていると、後ろから近付いてくる気配を感じた。
振り返ると、私のすぐ後ろに、風に靡く金の髪が美しい精悍な青年が立っていた。
目を奪われるほど美しい容姿を持ったその青年は、人とは違う異様な気配を放ちながら、真っ黒に澱む瞳を私に向けていた。
そして、私を見てにっこり笑った青年が、両手をこちらに伸ばしてきた。
私は、使わせてもらっている神殿の客室の窓を大きく開け放った。そこからは、生き生きとした緑輝く森と、大きな湖が見えた。
イザリア聖国は、サージェント王国の王都程の国土しかない小さな国だ。魔道具による技術革新が遅れているようで、私が生まれた辺境の田舎町に、雰囲気がよく似ていた。
けれど、この地は不思議なほど、空気が澄んでいる。清らかな力を感じるというか、ここにいるだけで、体が浄化されるような感覚を覚えた。
それは、この地に神が降臨したからなのだろうか。
大昔、神は、魔物から逃げ惑う人々を救うため、ここに湖を生み出したとイザリア聖国では伝わっていた。聖国の国民は、日々、この湖を見守りながら神に支えている。
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「姫様、それは私が!」
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言葉通り、姫様は手際よく、二人分のお茶を用意してしまった。
「嵐の前の静けさってところかしらね。せっかくだから、今の内に散歩でもしてきたら?この国は、どこも安全だから、女性が一人で出歩いても大丈夫よ。ステラも神に選ばれた存在だから、この地でなら、神の声を聞けるかもしれないわね。」
姫様はそう言ったけど、神様が私に声を掛けてくれるとは思えない。
だって、私はあんなにも神様を恨んだんだもの。
それに、もし今、神様に会ってしまったら、それこそ、酷い文句を言ってしまいそう。
私は、姫様の言葉に、苦笑いを浮かべた。
姫様とお茶を楽しんだ後、私は早速、湖に行くことにした。
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けれど、この水を使うと、植物がよく育つのだそうだ。確かに、この湖の周りには青々と木々が茂っている。
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振り返ると、私のすぐ後ろに、風に靡く金の髪が美しい精悍な青年が立っていた。
目を奪われるほど美しい容姿を持ったその青年は、人とは違う異様な気配を放ちながら、真っ黒に澱む瞳を私に向けていた。
そして、私を見てにっこり笑った青年が、両手をこちらに伸ばしてきた。
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