92 / 163
3-3
しおりを挟む
地上の生命に、神が異能の力を与え、魔が払われた後、神は生き残った人々に、予言を残した。
それは、後の世に、三つの災厄が訪れるという人々に向けた警告だった。
それから百年後、復興を果たした国々を一つ目の災いが襲った。
それは、魔が消えても尚残る魔物によって齎された疫病だった。
その後、やってきた二つ目の災いが飢饉だ。
突然降った黒い雨に大地が汚染され、田畑だけでなく野山の植物も枯れてしまった。数百年経った今でも、その爪痕はしっかり残されている。
一つ目も二つ目も、大勢の人が命を落とした。予言されていても防げなかったのだ。
そして、とうとう三つ目の、最後の災いがやってくる。
姫様は、はっきりと、そう告げた。
「神によると、今世を生きる私達に迫り来る災厄は、魔物の王だそうよ。」
「魔物の王?魔が消えた今、そんな強力な魔物が生まれるのですか?」
「いいえ、既にいるのよ。王はね、ずっと存在していたの。大昔の異能者達によって、魔物の大半は狩り尽くされたわ。でも、王だけは、生き残って長い眠りについていた。魔物の王は、きっとこの日を待っていたんじゃないかしら。異能者の数が減った、今を。」
魔物の王。
気が遠くなる時を越えてきたそれは、いったいどんな存在なんだろうか。
禍々しい岩竜を思い出して、私の背筋が一気に冷える。
でも、その王と私の死に何の関係が?
魔物の王にとって、私なんて、ただの虫けら程度のはず。
私の疑問を感じ取った姫様が、眉間に何本も皺を寄せて、その美しい顔を鬼のように歪ませた。
「全部、全部、あの腐れ外道のせいよ!あのクソジジイと血が繋がっているのかと思うと虫唾が走る!アイツの死体を掘り起こして、魔物の王に食わせてやりたいわ!」
「エレン、気持ちは分かるが、アイツの死体は、塵も残さず燃やした。その魂すらな。」
「あら、そうだったわ!残念。」
お二人がアイツと語る方は、先々代王のことだ。先々代王は、処刑後も、その罪の重さから、サージェントの王族の中では禁忌扱いされている。
もちろん、私も思い出したくない存在だった。
「ステラ、貴女の体に、結晶化した魔石があるのは、分かっているわよね?」
私は、実験の中で、魔石の粉を血液中に流されていた。その粉が体内で結晶化して、今、私の魔力貯蔵器官になっている。
その魔石が、丁度私の心臓にピッタリくっついて存在しているのだ。
「あのクソジジイは、ステラの体に、魔物の王の魔石を使ったみたいなの。」
姫様は、私の隣に座り直すと、私の胸に手を当てた。
「これは、かつての大戦の中で、魔物の王が落とした命の一部。目覚めた王は、必ずこれを取りに来るわ。」
魔物の一部が、私の中に?
そんなものが、私の中にあるの?
一気に込み上げる吐き気に、私は口を両手で押さえる。
そんな私を姫様が、優しく抱きしめてくれた。
それは、後の世に、三つの災厄が訪れるという人々に向けた警告だった。
それから百年後、復興を果たした国々を一つ目の災いが襲った。
それは、魔が消えても尚残る魔物によって齎された疫病だった。
その後、やってきた二つ目の災いが飢饉だ。
突然降った黒い雨に大地が汚染され、田畑だけでなく野山の植物も枯れてしまった。数百年経った今でも、その爪痕はしっかり残されている。
一つ目も二つ目も、大勢の人が命を落とした。予言されていても防げなかったのだ。
そして、とうとう三つ目の、最後の災いがやってくる。
姫様は、はっきりと、そう告げた。
「神によると、今世を生きる私達に迫り来る災厄は、魔物の王だそうよ。」
「魔物の王?魔が消えた今、そんな強力な魔物が生まれるのですか?」
「いいえ、既にいるのよ。王はね、ずっと存在していたの。大昔の異能者達によって、魔物の大半は狩り尽くされたわ。でも、王だけは、生き残って長い眠りについていた。魔物の王は、きっとこの日を待っていたんじゃないかしら。異能者の数が減った、今を。」
魔物の王。
気が遠くなる時を越えてきたそれは、いったいどんな存在なんだろうか。
禍々しい岩竜を思い出して、私の背筋が一気に冷える。
でも、その王と私の死に何の関係が?
魔物の王にとって、私なんて、ただの虫けら程度のはず。
私の疑問を感じ取った姫様が、眉間に何本も皺を寄せて、その美しい顔を鬼のように歪ませた。
「全部、全部、あの腐れ外道のせいよ!あのクソジジイと血が繋がっているのかと思うと虫唾が走る!アイツの死体を掘り起こして、魔物の王に食わせてやりたいわ!」
「エレン、気持ちは分かるが、アイツの死体は、塵も残さず燃やした。その魂すらな。」
「あら、そうだったわ!残念。」
お二人がアイツと語る方は、先々代王のことだ。先々代王は、処刑後も、その罪の重さから、サージェントの王族の中では禁忌扱いされている。
もちろん、私も思い出したくない存在だった。
「ステラ、貴女の体に、結晶化した魔石があるのは、分かっているわよね?」
私は、実験の中で、魔石の粉を血液中に流されていた。その粉が体内で結晶化して、今、私の魔力貯蔵器官になっている。
その魔石が、丁度私の心臓にピッタリくっついて存在しているのだ。
「あのクソジジイは、ステラの体に、魔物の王の魔石を使ったみたいなの。」
姫様は、私の隣に座り直すと、私の胸に手を当てた。
「これは、かつての大戦の中で、魔物の王が落とした命の一部。目覚めた王は、必ずこれを取りに来るわ。」
魔物の一部が、私の中に?
そんなものが、私の中にあるの?
一気に込み上げる吐き気に、私は口を両手で押さえる。
そんな私を姫様が、優しく抱きしめてくれた。
114
お気に入りに追加
665
あなたにおすすめの小説
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。
キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。
離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、
窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語
どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語
buchi
恋愛
借金だらけの貧乏伯爵家のシエナは貴族学校に入学したものの、着ていく服もなければ、家に食べ物もない状態。挙げ句の果てに婚約者には家の借金を黙っていたと婚約破棄される。困り果てたシエナへ、ある日突然救いの手が。アッシュフォード子爵の名で次々と送り届けられるドレスや生活必需品。そのうちに執事や侍女までがやって来た!アッシュフォード子爵って、誰?同時に、シエナはお忍びでやって来た隣国の王太子の通訳を勤めることに。クールイケメン溺愛偽弟とチャラ男系あざとかわいい王太子殿下の二人に挟まれたシエナはどうする? 同時に進む姉リリアスの復讐劇と、友人令嬢方の推し活混ぜ混ぜの長編です……ぜひ読んでくださいませ!
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
政略結婚の相手に見向きもされません
矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。
政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。
国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。
だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる