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カーテンの隙間から入ってきた朝日に、私の瞼がゆっくり上がる。
先ず目に入ってきた見慣れた自室の天井が、私に少しの落胆を齎した。少し前までは、悪夢から現実に戻ってきた時の目印として、見る度に安堵していたというのに。
私は、落ち着かない気持ちを宥めつつ、眠気が消えた体を起こした。

まだ寝ているルームメイトのアンナを起こさないように、静かにベッドから抜け出すと、備え付けの鏡に近付いた。
そこに写るのは、いつも通りの冴えない私。でも、平凡なはずの瞳の色だけが変わっていた。
 


ヴェイル様に別れを告げてから、私はゼイン先生に帰国したいと訴えた。
どれだけ我儘を言っているかは分かっていた。でももう、少しの時間もヴェイル様の側にはいられなかった。
心がバラバラになりそうで。

ゼイン先生は、しつこいくらい何度も、私の気持ちを確認していた。それでも、私の意志が固いと知ると、すぐに帰国の手続きを終えてしまった。
サージェント王国行きの長距離転移魔法陣の使用許可を取ると、その日の内に、私をサージェント王国へ連れ帰ってくれたのだ。


突然帰国した私を、主人をはじめ、みんなが温かく迎えてくれた。
それに安心した私は、情けなくも三日ほど熱を出して寝込むことになる。
そして、回復後に気付いたのだ。私の両目の瞳孔に、金の冠が入っていることに。
その金色を見る度に、私は、ヴェイル様の瞳を思い出してしまっていた。




「おはようございます、ゼイン先生。」
サージェントの王城の一画にある医務室に入ると、ゼイン先生がカルテの整理をしていた。


「おはよう、ステラ。今日は、これから仕事かい?」

「はい、今日は、この後夜勤です。」

「じゃあ、そこに座って。」

診察用の丸椅子に座ると、ゼイン先生が私の瞳を覗き込んだ。


「金冠の色が、濃くなっているね。ヴェイル殿下の魔力が、ステラの体に影響を及ぼしているんだろう。なにしろ、ステラの魔力貯蔵量は、常人の数十倍あるんだ。その中に、ヴェイル殿下の魔力が大量に溜まっているんだから、その影響が出てきてもおかしくはないんだよ。体に違和感はあるかい?」

「いいえ、ありません。」
むしろ、体調は今までで一番良いと言えるほど、体が軽い。
今、ヴェイル様の魔力が、私の体を生かしてくれているのだ。
私は、力強く鼓動する胸に、そっと手を当てた。


「これだけ魔力の相性がいいんだから、適当に利用しておけば良かったのに。あっちは、見返りなんて求めてなかったんだからさ。便利だったでしょう、ヴェイル殿下は?」

「先生…。」
王族を、しかも、世界の至宝の異能者を便利って…。
私は呆れた目で、ゼイン先生を見つめた。


「まあ、治療法は、他に無いわけじゃないからね。ステラ、私は諦めていないよ。だから、ステラも自分の命を諦めちゃダメだよ。いいね?」
真剣な表情のゼイン先生に、私はしっかり頷いて返した。





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