平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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*ヴェイル視点 20

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俺にしがみ付いて泣くステラが愛おしくて、彼女を慰めていたはずの俺も、気付くと腕の中の温かな体に縋り付いていた。
暫くそうしていると、俺から離れようとステラが身動ぐ。その小さな抵抗に気付かないふりをして、俺は更に彼女の体を引き寄せた。そこから感じるステラの少し早い鼓動に、俺はどうしようもないほどの安堵と怒りを覚えた。


狂おしいほど、番が愛しい。
そんな番を泣かせたのは、誰だ?

再度湧き上がった黒い怒りが、俺の理性を塗り潰していく。すると、その怒りが、隅からごちゃごちゃ騒いでいる女の声を拾った。

ステラを傷付けた女。
ステラを殺そうとした女。
この女、キャロライン・バルガンデイルは、必ず俺の手で始末してやる。
だが、その前に…。

俺は、ニルセンが苦戦している相手に目を向けた。
その男は、山のようにでかい体を巧みに動かし、素早い攻撃を繰り出してはいるものの、ニルセンがここまで手こずる相手には見えない。それだけニルセンの調子が悪いのだろう。

俺は、ステラから離れ難い気持ちを圧して、彼女の体を抱き上げる。そして、視界を遮るよう俺のマントを頭からすっぽり被せた。その際、ステラには、しっかり目を瞑っているよう伝える。
その言葉に素直に従ったステラの頭に、俺は気付かれないようそっと、唇を寄せた。


それから、怒りに身を任せた俺は二人の戦いに割り込んだ。


「おいおい、邪魔すんじゃねえよ!それとも黒髪の兄ちゃんが、先にぐちゃぐちゃになるか?」
そう挑発してきた小物の首を、俺は何の躊躇いもなく切り落とす。
男の首から吹き出した血が、ステラにかかっていないことを確認すると、綺麗な床に彼女を下ろし、ニルセンに託した。
そして、俺の怒りが向かう先、キャロライン・バルガンデイルの下へ足を向ける。


「わたくしの愛しい方…。」
床に這いつくばっていたキャロラインは、爪が真っ赤に染まった気色の悪い手を俺に伸ばしてきた。
その手がステラを傷付けたのかと思うと、俺の中で、今すぐ切り落としたい衝動が湧き出す。
そんな俺に、キャロラインは、愚かにも愛していると告げてきた。
それを聞いた俺は、思わずキャロラインの手首を握り潰していた。


「キャー!痛い!痛い!」
耳障りな声で泣き叫ぶキャロラインを、俺は憎悪を込めた目で見下ろす。すると、キャロラインは、あまりにも馬鹿馬鹿しいことを言い出した。
俺を支えられるのは、自分だけだと。純粋な獣人族の自分なら異能者の子が生めると、虫唾が走る言葉を吐いた。

キャロラインは、俺の婚約者を自称するだけでなく、異能者の子を生める自分こそが、俺を王にしてやれるのだと言ってのけた。賢王である兄上が我が国にはいるというのに。

俺は荒れ狂う殺意を込めて、キャロラインに剣を向ける。
もちろん、このまま一思いに首を落としてやるなんて慈悲深い殺し方はしない。
ステラの苦しみを全て返してから、泣いて、這いつくばって、自ら死を望んで、やっと死ぬことを許してやる。

俺は、無様に赦しを乞うキャロラインに、狂気を宿した手を伸ばした。

その時、やたらと着飾ったバルガンデイル公爵が、取り巻きの貴族を大勢引き連れて現れた。






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