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*ヴェイル視点 19
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「ステラ!」
駆け込んだ俺の寝室には、誰の気配もない。バスルーム、衣装室、応接間、どこを見渡しても、ステラを見つけることは出来なかった。
「だ、団長!」
肩に深い傷を負った部下が、俺の前に一本の折れた剣を差し出す。
「何があった!?」
「突然、賊に襲われました。」
「賊だと!?ここは王宮だぞ!?」
しかも、最も外部からの侵入が難しい王族のプライベートエリアだ。
ここへ入れる者は限られている。
つまりは、その内の誰かが、賊をここまで引き入れたことになる。
「ニルセンはどうした!?」
「ニルセンは、バレリー様と共に捕まっています。現在、彼がばら撒いてくれた血を追って、数名の騎士が二人を追跡しています。」
「分かった。俺も出る!」
嗅覚が鋭い獣人騎士に、ニルセンの血を追わせた結果、辿り着いたのは、バルガンデイル公爵家の邸だった。
そうか…。
あの女は、ステラを傷付けただけでは飽き足らず、ステラの居場所も奪おうというのか…。
俺は甘かったんだな。
心のどこかで、部下や貴族が、俺を裏切るはずがないと思っていたのだ。
その結果、ステラは何度も傷付けられ、現在やつらに捕まっている。
全ては、俺の甘さが招いた事態だった。
俺は、ステラを歴史に名を残すような女性にしようとした。
誰にも蔑まれず、堂々と生きていけるように。
好きな事をして笑っていられるように。
魔力欠如症が完治したら、歴史上初の完治者として、その治療の協力者の一人として、ステラの存在を周知させる予定だったのだ。
そのために、彼女を目立つ俺の側に置いていた。
それが、嫉妬の目を集めるということに気付かないまま。
これは、俺の誤算だ。
こんな事で、ステラを失うのか?
俺のせいで…。
心が絶望に沈みそうになった時、ステラの声が聞こえたような気がした。
死にたくないと。
その時の俺は、考えるよりも先に、体が動いていた。
バルガンデイル公爵邸の結界の解除をしていた騎士を押し退け、結界ごと外門を押し通る。そして、駆け出した勢いのまま、エントランスの扉に体当たりした。
反発してくる二層目結界に、俺は自分の魔力をぶつける。結界の表層に広がった炎は、やがて、それを紙くずのように黒く燃やしていった。
「ステラーーー!」
飛び込んだ邸の中で、初めに目に入ったものは、踏みつけられたステラの姿だった。
無我夢中で、ステラの上に乗る邪魔なものを跳ね除け、彼女の温もりを確かめる。
ああ、温かい。
良かった…。
生きていてくれて。
俺に会えないまま死ぬのが怖ったと泣くステラを、俺は、強く、強く抱き締めた。
駆け込んだ俺の寝室には、誰の気配もない。バスルーム、衣装室、応接間、どこを見渡しても、ステラを見つけることは出来なかった。
「だ、団長!」
肩に深い傷を負った部下が、俺の前に一本の折れた剣を差し出す。
「何があった!?」
「突然、賊に襲われました。」
「賊だと!?ここは王宮だぞ!?」
しかも、最も外部からの侵入が難しい王族のプライベートエリアだ。
ここへ入れる者は限られている。
つまりは、その内の誰かが、賊をここまで引き入れたことになる。
「ニルセンはどうした!?」
「ニルセンは、バレリー様と共に捕まっています。現在、彼がばら撒いてくれた血を追って、数名の騎士が二人を追跡しています。」
「分かった。俺も出る!」
嗅覚が鋭い獣人騎士に、ニルセンの血を追わせた結果、辿り着いたのは、バルガンデイル公爵家の邸だった。
そうか…。
あの女は、ステラを傷付けただけでは飽き足らず、ステラの居場所も奪おうというのか…。
俺は甘かったんだな。
心のどこかで、部下や貴族が、俺を裏切るはずがないと思っていたのだ。
その結果、ステラは何度も傷付けられ、現在やつらに捕まっている。
全ては、俺の甘さが招いた事態だった。
俺は、ステラを歴史に名を残すような女性にしようとした。
誰にも蔑まれず、堂々と生きていけるように。
好きな事をして笑っていられるように。
魔力欠如症が完治したら、歴史上初の完治者として、その治療の協力者の一人として、ステラの存在を周知させる予定だったのだ。
そのために、彼女を目立つ俺の側に置いていた。
それが、嫉妬の目を集めるということに気付かないまま。
これは、俺の誤算だ。
こんな事で、ステラを失うのか?
俺のせいで…。
心が絶望に沈みそうになった時、ステラの声が聞こえたような気がした。
死にたくないと。
その時の俺は、考えるよりも先に、体が動いていた。
バルガンデイル公爵邸の結界の解除をしていた騎士を押し退け、結界ごと外門を押し通る。そして、駆け出した勢いのまま、エントランスの扉に体当たりした。
反発してくる二層目結界に、俺は自分の魔力をぶつける。結界の表層に広がった炎は、やがて、それを紙くずのように黒く燃やしていった。
「ステラーーー!」
飛び込んだ邸の中で、初めに目に入ったものは、踏みつけられたステラの姿だった。
無我夢中で、ステラの上に乗る邪魔なものを跳ね除け、彼女の温もりを確かめる。
ああ、温かい。
良かった…。
生きていてくれて。
俺に会えないまま死ぬのが怖ったと泣くステラを、俺は、強く、強く抱き締めた。
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