59 / 163
2-12
しおりを挟む
「お祭りですか?」
最近、恒例化しているお茶休憩で、唐突に話題を振られた。首を傾げている私に、ヴェイル様は持っていたカップを置いて、説明し始める。
「ああ。王都では、明後日から三日間、豊穣祭が行われる。この日のために持ち込まれた各領地の特産物が、所狭しと市場に並ぶんだ。領主達も自領の品を売り込むために、力を入れているから、中々見応えがあるぞ。」
「それは、凄いですね!あっ!でも、そうなると、騎士団は警備で忙しくなるんでしょうか?」
「いや、王都の警備は、警邏担当の騎士団が担うから、俺達に仕事は来ないな。」
「そうですか。では、私達の仕事は、いつも通りなのですね。」
「ああ、それで、なんだが...。」
ヴェイル様が、何かを言いにくそうに呟くと、一緒に休憩を取っていた補佐官達が、そそくさと席を立ち出した。
「え?え?皆さん、どうしたんですか?ヴェイル様、一体何が?」
その状況に慌てた私を、ヴェイル様の手が押し留める。
「聞いてくれ、ステラ。そ、その、良ければ、俺と一緒に祭りに行かないか?夜は皆、仮面を付けるから、正体はバレない。ステラも気軽に楽しめると思うんだ。ただ、その…、以前の夜会のことがあるだろう?ステラは、俺に誘われるのは嫌か?」
ヴェイル様が、私を窺うように見つめる。その表情は、普段のヴェイル様からは考えられないような弱気な顔だった。
ヴェイル様は、終幕の夜会のことを、まだ気にしているのだ。私に許可なくドレスを贈ったことに、罪悪感を感じているらしい。
あれは、私が悪いのに。
私は、ヴェイル様に、なるべく気を遣わせないように、明るく答えた。
「私は、ヴェイル様に、誘ってもらえて嬉しいです!お祭り、凄く楽しそうですね!」
でも、ヴェイル様は、私と一緒でいいのかしら?迷惑にならない?
私は、その疑問を素直に口に出した。
「迷惑になど、なるはずがない。一緒に楽しもう、ステラ。」
優しい笑顔を浮かべて、そう言ってくれたヴェイル様に、私は精一杯の笑顔で応える。
「はい!ぜひ、連れて行って下さい!」
それから、私は時間も忘れて豊穣祭の事を色々聞いた。私のしつこい質問にも、ヴェイル様は丁寧な回答をくれた。
それがまた嬉しくて。完全に私は、浮かれきっていた。
だから、いつもの休憩時間を大幅に超えていたことに気付いた時は、焦り過ぎて大声を上げてしまった。
もちろん、迷惑をかけた補佐官達にはしっかり謝った。
それから数日、獣人騎士団の仕事は、いつもと変わらなかった。
でも、騎士達がどこか浮き足立っている気がする。
「恋人とデートの予定でもあるのではないかと。」
少し変わった空気を疑問に思っていた私に、ニルセン様が、そう教えてくれた。
「デートですか?だから皆さん、ソワソワしているのですね。」
「ええ、彼らはきっと、この豊穣祭でプロポーズでも計画しているのでしょう。」
「ふふ、それは素敵ですね。上手くいってほしいです。」
「そうですね。ですが、それはバレリーさんもでしょう?」
「へ?」
騎士達の甘い話を聞いていると、突然、思いも寄らない事を言われて、裏返った声が出てしまった。
「バレリーさんも、デートに誘われたのでしょう?」
「ち、違います!デートじゃありません!ヴェイル様が、正体を隠せる夜なら気兼ねなく行けるからと、案内を買って出てくれたんです!」
「ふふ、それでもいいのですがね。バレリーさん、豊穣祭は、愛を結ぶ祭でもあるのですよ。だから、気のない異性を誘うような事はしません。ぜひ、団長と楽しい時間を過ごして下さいね。」
私とヴェイル様がデート?
愛を結ぶだなんて...。
豊穣祭までの間、ニルセン様に言われた言葉が、私の中でずっと燻り続けていた。
最近、恒例化しているお茶休憩で、唐突に話題を振られた。首を傾げている私に、ヴェイル様は持っていたカップを置いて、説明し始める。
「ああ。王都では、明後日から三日間、豊穣祭が行われる。この日のために持ち込まれた各領地の特産物が、所狭しと市場に並ぶんだ。領主達も自領の品を売り込むために、力を入れているから、中々見応えがあるぞ。」
「それは、凄いですね!あっ!でも、そうなると、騎士団は警備で忙しくなるんでしょうか?」
「いや、王都の警備は、警邏担当の騎士団が担うから、俺達に仕事は来ないな。」
「そうですか。では、私達の仕事は、いつも通りなのですね。」
「ああ、それで、なんだが...。」
ヴェイル様が、何かを言いにくそうに呟くと、一緒に休憩を取っていた補佐官達が、そそくさと席を立ち出した。
「え?え?皆さん、どうしたんですか?ヴェイル様、一体何が?」
その状況に慌てた私を、ヴェイル様の手が押し留める。
「聞いてくれ、ステラ。そ、その、良ければ、俺と一緒に祭りに行かないか?夜は皆、仮面を付けるから、正体はバレない。ステラも気軽に楽しめると思うんだ。ただ、その…、以前の夜会のことがあるだろう?ステラは、俺に誘われるのは嫌か?」
ヴェイル様が、私を窺うように見つめる。その表情は、普段のヴェイル様からは考えられないような弱気な顔だった。
ヴェイル様は、終幕の夜会のことを、まだ気にしているのだ。私に許可なくドレスを贈ったことに、罪悪感を感じているらしい。
あれは、私が悪いのに。
私は、ヴェイル様に、なるべく気を遣わせないように、明るく答えた。
「私は、ヴェイル様に、誘ってもらえて嬉しいです!お祭り、凄く楽しそうですね!」
でも、ヴェイル様は、私と一緒でいいのかしら?迷惑にならない?
私は、その疑問を素直に口に出した。
「迷惑になど、なるはずがない。一緒に楽しもう、ステラ。」
優しい笑顔を浮かべて、そう言ってくれたヴェイル様に、私は精一杯の笑顔で応える。
「はい!ぜひ、連れて行って下さい!」
それから、私は時間も忘れて豊穣祭の事を色々聞いた。私のしつこい質問にも、ヴェイル様は丁寧な回答をくれた。
それがまた嬉しくて。完全に私は、浮かれきっていた。
だから、いつもの休憩時間を大幅に超えていたことに気付いた時は、焦り過ぎて大声を上げてしまった。
もちろん、迷惑をかけた補佐官達にはしっかり謝った。
それから数日、獣人騎士団の仕事は、いつもと変わらなかった。
でも、騎士達がどこか浮き足立っている気がする。
「恋人とデートの予定でもあるのではないかと。」
少し変わった空気を疑問に思っていた私に、ニルセン様が、そう教えてくれた。
「デートですか?だから皆さん、ソワソワしているのですね。」
「ええ、彼らはきっと、この豊穣祭でプロポーズでも計画しているのでしょう。」
「ふふ、それは素敵ですね。上手くいってほしいです。」
「そうですね。ですが、それはバレリーさんもでしょう?」
「へ?」
騎士達の甘い話を聞いていると、突然、思いも寄らない事を言われて、裏返った声が出てしまった。
「バレリーさんも、デートに誘われたのでしょう?」
「ち、違います!デートじゃありません!ヴェイル様が、正体を隠せる夜なら気兼ねなく行けるからと、案内を買って出てくれたんです!」
「ふふ、それでもいいのですがね。バレリーさん、豊穣祭は、愛を結ぶ祭でもあるのですよ。だから、気のない異性を誘うような事はしません。ぜひ、団長と楽しい時間を過ごして下さいね。」
私とヴェイル様がデート?
愛を結ぶだなんて...。
豊穣祭までの間、ニルセン様に言われた言葉が、私の中でずっと燻り続けていた。
149
お気に入りに追加
665
あなたにおすすめの小説
どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語
buchi
恋愛
借金だらけの貧乏伯爵家のシエナは貴族学校に入学したものの、着ていく服もなければ、家に食べ物もない状態。挙げ句の果てに婚約者には家の借金を黙っていたと婚約破棄される。困り果てたシエナへ、ある日突然救いの手が。アッシュフォード子爵の名で次々と送り届けられるドレスや生活必需品。そのうちに執事や侍女までがやって来た!アッシュフォード子爵って、誰?同時に、シエナはお忍びでやって来た隣国の王太子の通訳を勤めることに。クールイケメン溺愛偽弟とチャラ男系あざとかわいい王太子殿下の二人に挟まれたシエナはどうする? 同時に進む姉リリアスの復讐劇と、友人令嬢方の推し活混ぜ混ぜの長編です……ぜひ読んでくださいませ!
政略結婚の相手に見向きもされません
矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。
政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。
国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。
だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。
キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。
離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、
窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
龍王の番
ちゃこ
恋愛
遥か昔から人と龍は共生してきた。
龍種は神として人々の信仰を集め、龍は人間に対し加護を与え栄えてきた。
人間達の国はいくつかあれど、その全ての頂点にいるのは龍王が纏める龍王国。
そして龍とは神ではあるが、一つの種でもある為、龍特有の習性があった。
ーーーそれは番。
龍自身にも抗えぬ番を求める渇望に翻弄され身を滅ぼす龍種もいた程。それは大切な珠玉の玉。
龍に見染められれば一生を安泰に生活出来る為、人間にとっては最高の誉れであった。
しかし、龍にとってそれほど特別な存在である番もすぐに見つかるわけではなく、長寿である龍が時には狂ってしまうほど出会える確率は低かった。
同じ時、同じ時代に生まれ落ちる事がどれほど難しいか。如何に最強の種族である龍でも天に任せるしかなかったのである。
それでも番を求める龍種の嘆きは強く、出逢えたらその番を一時も離さず寵愛する為、人間達は我が娘をと龍に差し出すのだ。大陸全土から若い娘に願いを託し、番いであれと。
そして、中でも力の強い龍種に見染められれば一族の誉れであったので、人間の権力者たちは挙って差し出すのだ。
龍王もまた番は未だ見つかっていないーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる