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窓から入り込む心地良い午後の風と、お腹いっぱい昼食を食べた余韻で、ウトウトと眠気に襲われていると、どこからともなく大量の書類が運ばれて来た。
騎士団での仕事は初めてだけど、結構、書類仕事が多かった。
私も、ニルセン様に倣って、書類を分類毎に分けていく。
「バレリーさんがいてくれて助かります。この時期は、部署移動の兼ね合いで、細かい仕事が多いのですよ。ほら、騎士達の目が死んでいるでしょう?」
獣人騎士団団長の執務室の中を見回すと、ヴェイル様の補佐官達が疲れた顔で、机に向かっていた。
「わ、私で、お力になれるなら頑張ります。」
「ええ、ありがとうございます。では、早速、逃げ出した団長を捕まえて来てくれますか?訓練場にいると思うので。」
「え?あっ...。」
そう言えば、ヴェイル様の姿がない。机の上の書類は全く減っていないのに。
期日厳守のものもあったけど、大丈夫なのかしら?
「えっと、じゃあ、行ってきます。」
私は一度手を止めて、騎士団棟の隣にある訓練場に向かった。
石畳の道を進み、高い壁に囲まれた無骨な建造物に入ると、野太い歓声と高い金属音が大きく反響し合っていた。
「あっ、バレリー殿、こちらですよ!」
柱の間から中を窺うと、私に気付いたメルデン様に呼ばれた。
「すみません、メルデン様。ヴェイル様を知りませんか?」
「団長なら、あそこです。」
メルデン様が指差した先は、訓練場の中心。そこには、ヴェイル様を囲うように、五人の騎士が剣を構えていた。
次の瞬間、騎士の一人が、ヴェイル様に向かって剣を振る。それを皮切りに、騎士達がヴェイル様に向かって行った。
「あ、あの!ヴェイル様は、武器を持っていないようなのですが!?」
「大丈夫ですよ、安心して下さい。ほら。」
迫り来る剣をギリギリのところで躱し続けていたヴェイル様が、一人の騎士を投げ飛ばした。そして、一人二人と素手で倒していく。あっという間に五人全員を倒すと、ヴェイル様は平然とした足取りで、壁際にあるベンチに向かって行った。
「バレリー殿、団長にこのタオルを持っていってくれませんか?」
「は、はい。」
どうしよう、ドキドキする。
ヴェイル様、凄く格好良かった。
高鳴る胸を押さえながら、タオルを抱えて訓練場の中に入ると、すぐにヴェイル様と目が合った。
「どうした、ステラ?」
「あ、あの、これを。」
おずおずとタオルを渡すと、ヴェイル様は嬉しそうに受け取ってくれた。
「ニルセンに言われて来たのか?」
「あ、はい。実は...、ヴェイル様を連れ戻してほしいと。」
「ステラをよこされちゃ戻るしかないな。仕方ない、残りの仕事を終わらせるか。おいで、ステラ。」
立ち上がったヴェイル様が、右手を私へ差し出した。
私は迷うことなく、その手に私の手を乗せる。この手は、私を受け入れてくれた優しい手だから。
私は、以前より近くなったヴェイル様との距離にドキドキしながら、執務室までの道を一歩一歩噛み締めるように歩いた。
騎士団での仕事は初めてだけど、結構、書類仕事が多かった。
私も、ニルセン様に倣って、書類を分類毎に分けていく。
「バレリーさんがいてくれて助かります。この時期は、部署移動の兼ね合いで、細かい仕事が多いのですよ。ほら、騎士達の目が死んでいるでしょう?」
獣人騎士団団長の執務室の中を見回すと、ヴェイル様の補佐官達が疲れた顔で、机に向かっていた。
「わ、私で、お力になれるなら頑張ります。」
「ええ、ありがとうございます。では、早速、逃げ出した団長を捕まえて来てくれますか?訓練場にいると思うので。」
「え?あっ...。」
そう言えば、ヴェイル様の姿がない。机の上の書類は全く減っていないのに。
期日厳守のものもあったけど、大丈夫なのかしら?
「えっと、じゃあ、行ってきます。」
私は一度手を止めて、騎士団棟の隣にある訓練場に向かった。
石畳の道を進み、高い壁に囲まれた無骨な建造物に入ると、野太い歓声と高い金属音が大きく反響し合っていた。
「あっ、バレリー殿、こちらですよ!」
柱の間から中を窺うと、私に気付いたメルデン様に呼ばれた。
「すみません、メルデン様。ヴェイル様を知りませんか?」
「団長なら、あそこです。」
メルデン様が指差した先は、訓練場の中心。そこには、ヴェイル様を囲うように、五人の騎士が剣を構えていた。
次の瞬間、騎士の一人が、ヴェイル様に向かって剣を振る。それを皮切りに、騎士達がヴェイル様に向かって行った。
「あ、あの!ヴェイル様は、武器を持っていないようなのですが!?」
「大丈夫ですよ、安心して下さい。ほら。」
迫り来る剣をギリギリのところで躱し続けていたヴェイル様が、一人の騎士を投げ飛ばした。そして、一人二人と素手で倒していく。あっという間に五人全員を倒すと、ヴェイル様は平然とした足取りで、壁際にあるベンチに向かって行った。
「バレリー殿、団長にこのタオルを持っていってくれませんか?」
「は、はい。」
どうしよう、ドキドキする。
ヴェイル様、凄く格好良かった。
高鳴る胸を押さえながら、タオルを抱えて訓練場の中に入ると、すぐにヴェイル様と目が合った。
「どうした、ステラ?」
「あ、あの、これを。」
おずおずとタオルを渡すと、ヴェイル様は嬉しそうに受け取ってくれた。
「ニルセンに言われて来たのか?」
「あ、はい。実は...、ヴェイル様を連れ戻してほしいと。」
「ステラをよこされちゃ戻るしかないな。仕方ない、残りの仕事を終わらせるか。おいで、ステラ。」
立ち上がったヴェイル様が、右手を私へ差し出した。
私は迷うことなく、その手に私の手を乗せる。この手は、私を受け入れてくれた優しい手だから。
私は、以前より近くなったヴェイル様との距離にドキドキしながら、執務室までの道を一歩一歩噛み締めるように歩いた。
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