平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

文字の大きさ
上 下
14 / 163

1-12

しおりを挟む
「魔石?なぜ、他人の魔力が入った魔石を身に付けている?」

「こ、これは、ただのお守り、です。」
私は慌てて魔石をしまって、胸元のボタンを閉めた。


「ああ、恋人からの贈り物という訳か。」
ヴェイル殿下の声に、私への蔑みが現れる。ただでさえ低い部屋の温度が、更に下がったような気がした。


「こ、恋人!?いいえ、まさか!この魔石を下さったアレン様には、素敵な婚約者様がいらっしゃいます。私のような下賤な者が、アレン様の恋人だなんてありえません!」

私が、アレン様と恋仲だなんてとんでもない!
アレン様の婚約者は、マイヤ様なのだから。


「そうか。ならば何故、そんな物を?他人の魔力など不快でしかないはずだ。以前、お前からは、その魔石とは違う者の魔力を感じた。いったいそれに、どんな理由がある?」


普通、他人の魔力を自分の体に取り込むような事はしない。自分が持つ魔力と他人の魔力が反発して、どんな方法を取っても、不快感と痛みを感じてしまうからだ。しかも、魔力の相性によっては、酷い拒絶反応を起こすこともあるのだとか。

でも、私は生まれ持った体質と事故の後遺症のせいで、どんな魔力に触れても問題なかった。


それを今ここで、話さなきゃ駄目だろうか。
私は、チラリとヴェイル殿下を窺う。
ばっちりと合ったヴェイル殿下の目には、言い逃れは許さないという意思が、はっきりと浮かんでいた。


「あ、あの...。不快に思われるかもしれないのですが...。」

「構わない。話せ。」

「...はい。」
最後の足掻きをばっさり切り捨てられた私は、渋々話を始める。


「その...。私は、生まれつき魔力がないのです。お恥ずかしい話ですが、私は今までずっと、親切な方々に魔力を分けて頂きながら生きてきました。魔力無しの私では、魔道具は起動出来ませんので。」

「お前、魔力欠如症なのか!?」
ヴェイル殿下は、眉間に深い皺を寄せ、眼光鋭く私を見下ろす。



やっぱり不快に思われてしまった。
だから、話したくなかったのに。

でも、ヴェイル殿下は私から他人の魔力が漏れている事に気付いていた。きっと、魔力検知能力に優れているのだろう。なら、私が魔力無しである事は、いつかはバレていたはず。

私は諦めの境地で、ヴェイル殿下の質問に頷いた。




魔力とは、神から全ての命に与えられた祝福だ。
動物や植物ですら、微力な魔力を持って生まれる。それにも関わらず、魔力を全く持たない私のような存在が、稀に生まれることがあった。
その『魔力無し』という存在は、神から見放された異端者として昔から人々に忌避されていた。

しかし近年、その偏見が問題視され、忌み名であった『魔力無し』という存在は、『魔力欠如症者』と認識を改められることとなった。
それでも、魔力欠如症に治療法はない。魔道具が生活の大半を支えているこの世界で、魔力を生み出せない魔力欠如症者は、結局、無能者なのだ。



「黙っていて申し訳ありませんでした。今後も、私は皆様の目に留まらぬように致します。」
私は、下げていた頭を更に深く下げる。

私が頭を下げている内に、ヴェイル殿下は無言で部屋を出て行った。


だから、不快な思いをしますよって言ったのに。

ヴェイル殿下が出て行った扉に背を向けて、私は残りの仕事をこなした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

処理中です...