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第2章. 新妖怪ワリメ

026. 若い有権者たちの会話

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 毎度お騒がせ中の絵露井えろい宅なのだが珍しく今日は比較的、静けさの漂う状況が今のところ保たれている。栗花と吾郎が話しているのはワリメに関する話題。
 3人目の若者として四穂が傍観している。なぜならここは彼女の部屋だからだ。

「ねえ吾郎」
「なんだよ栗花」
「あ? 偉そうな口利いてると、タマ3個とも潰してやるよ!」
「くっ、栗花姉さん、なんですか」
「次の新月の夜にまたワリメがくるのよね?」
「ああくるよ」
「アタシにも会わせてよ」

 果たしてワリメは神であるのか妖怪であるのか――そんなことはどちらでもよいと栗花は思っている。ただ単にワリメを見てみたいと思っているのだ。

「それは無理だな」
「どうしてよ?」
「ワリメ神様しんさま様はシャイな神様だからな。これからエッチするのを他人に覗かれたくないんだ」
「ふうん。で、いつくるの?」
「次の新月の夜だ」
「それいつ?」
「次の日曜だよ」
「そう」
「覗くなよ!」
「判ったわ」
「本当か?」
「本当よ」
「次の日曜と云えば、衆議院総選挙の投票日ですね」

 珍しいことに四穂が横から入ってきた。たぶん栗花と吾郎のバカっぽさ丸出し会話を遮りたくて、話に加わるタイミングを窺っていたのだろう。
 この3人の若者は皆これでも立派な有権者だ。少しは政治に関心を持つのがよいと四穂は思っている。

「私、初めての総選挙です」
「ああオレもな。と云うか、生徒会長選挙以外の選挙自体が生まれて初めてだ」
「アタシもよ。去年だったかな、都知事選があったけど、アタシ投票行かなかったし。今回どうしよっかなあ~」
「オレは絶対に行くぜ。小選挙区は筋好すじすき太郎たろう、そして比例代表は自共党に入れるんだ」
「私は、どちらも主権党にしようと思います」
「じゃあアタシも四穂に1票」
「バカか、四穂ちゃんは立候補してねえんだよ」
「アタシも四穂に賛成で主権党に入れるってことよ、カバ野郎、バーカー!」
「誰がカバ屋ロースバーガーやねん!」

 せっかく衆院選の話題になったのに、やはりバカ話になってしまう。
 結局イマイチ盛り上がらず、栗花が強引に別の話を始めようと狙っているのだ。

「ねえ四穂ちゃん、お風呂に入ろうよ」
「えっ!」
「アタシが四穂の陰核の周囲を、指テク使って綺麗にして上げるのよ!」
「いやオレこそが、四穂ちゃんの陰核と云う陰核のすべてをナメナメして垢と云う垢のすべてを取り除いてやるんだ!」
「ちょっと、2人ともやめてください! 自分でちゃんと洗えますから!」

 純情な四穂にしてみれば、男に陰核を洗ってもらうなどとは800%以上の論外で、相手が同性の女だろうが恥ずかしくて、そんなことを任せるなんてできっこないのだ。まあそれが普通だろう。
 そもそも四穂は他の人と一緒にお風呂に入ることに多大な抵抗を感じている。それは彼女の秘密の1つである。

「それなら、陰核と小陰唇の周辺だけは四穂が自分で洗えばいいわよ。アタシは他のところを洗って上げるから。肛門とか乳首とか。それならいいでしょ、ね?」
「いやですぅ!」
「うん判った。それじゃオレが背中だけ洗ってやるよ。それならいいだろ?」
「それでもダメですぅ! 男の人とお風呂に入るだなんて、絶対にいやです、死んだってダメなんですっ! たとえ私が399回死んで400回目にまた女の子として生まれてきたのだと仮定しても、それだけは絶対の絶対の超絶対的に無理なんです!」

 いつも隣りの芝生を眺めているだけの大人しいネコよりも、さらに20倍も大人しすぎるはずの四穂が声を荒げている。ピュアなロリータの恥じらいは3度や4度くらいの死で揺らぐことがない――その理屈はよくよく判ることだが、毎日欠かさず死に続けて1年間を越えてなお無理だと断言するのには、曲がりなりにも充分な事情があるはずと栗花の持つ高感度ロリコンセンサーが察知した。

「ねえ四穂ちゃん、男と一緒と云うかゲテモノ半妖怪のカバ野郎と一緒のお風呂なんて、そんなのが絶対の400乗よりも絶対零度以下に冷たいほどいやだってことくらいは、アタシでもよく判るわ。でも、どうして女同士なのにアタシと一緒のお風呂でもダメなの?」
「そ、それは……」
「それは?」
「それは、その……」
「その?」
「その、あの……」
「あの?」
「……」

 ついに四穂が黙りこくってしまった。
 これにも栗花の持つ高感度ロリコンセンサーがピクピク反応する。

「陰核が勃起しちゃったの?」
「ちち、違いますぅ! 私、もうすぐ20歳になると云うのに、でもまだが生えてこないから」
「お毛けって、下の?」
「はい……」
のことか?」
「いやーっ!」
「ちん毛がいやなのか?」
「いやですぅ!」
「吾郎やめなさい! 女の子のお毛けはなのよ!」
「いやーっ! どっちもダメですぅ!」

 結局こうしてスケベ話で盛り上がる絵露井の若者たちなのだ。
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