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14巻
14-2
しおりを挟む「刀自は参戦なされないので?」
キャベンディッシュは老女に訊ねた。
彼は老女が数世代前の装甲乙女騎士団の参謀だったことを知っていた。乱闘の現場を見詰める眼差しの鋭さを見れば、並大抵の使い手ではないことも分かる。
「いいえ。ある方と、二度と力を振るわないと約束しましたので」
「そうですか、それはもったいない」
老女の来歴は、議員たちの間ではそれなりに有名だった。乙女騎士だった頃、当時の皇王との間に子を儲け、しかし皇妃となることを拒んで退役したことも知られている。
当時の真相は分からないが、退役後に皇王府から援助を受けつつ女手ひとつで子どもを育て上げ、唯一の男だった人物の意志に添うべく人々を救う慈善団体を作り上げた。
その功績もあって多くの人に慕われ、支援者からの熱意の籠もった説得もあり議員に立候補し、当選した。
「ああ、まだ机が壊れましたね」
老女が困ったように笑う。
議員たちが使う緩やかな曲線を描いた机は、精緻な彫刻が施された一枚板の天板と、やはり緻密な彫刻が施された縦板でできている。巨人族議員に放り投げられた巨漢の議員が落下して、その天板を打ち割り、木片を周囲に散乱させる。
だが、まだ乱闘は収まらず、それどころか新たな参加者が次々と現れる始末だ。
「まあ、今日はお隣から乱入もないようですし、そのうち収まるでしょう」
老女がそう言って視線を向けた先には、貴族議会があるはずだった。
「貴公らは始原貴族の名をどう考えているのか!」
拡声器も使わずに議場に轟く雷声。
発生源は、扇型に配置された貴族議会議員席をおおよそ四つに分割したうちのひとつ、通称リンドヴルム翼の最上段近くであった。
声の主はリンドヴルム公爵、カール。自ら皇国に降り、議会に席はあっても姿を見せない〝大公〟を除けば、彼以上の貴族はここにはいない。
「いえ、始原の名は我々もこの上なく重く受け止めており、それ故に大身であるパルパート伯爵を推挙したわけでして……」
雷鳴の標的となっている演壇の上で、ひとりの壮年貴族――カント男爵が、額から大粒の汗を噴き出しながら答弁を行っていた。一応彼は、派閥的にはレヴィアタン公爵系に属しているが、そもそも貴族議会での派閥などあってないようなものだ。
それでも一縷の望みを抱いて、演壇から見て右端――レヴィアタン翼最上段にいるレヴィアタン公爵マリアに縋るような視線を向ける。だが、ただにこやかな笑みを浮かべるだけのマリアから、救いの手が差し伸べられることはなかった。
「では、貴公は当家が大身故に初代陛下よりリンドヴルムの名を与えられたと申すか!」
「いえ! いえ! まさかそのようなことは……」
拡声器を用いるカント男爵と、地声で話すカール。しかし明らかにカールの声の方が大きく、聞いている人物の脳を揺らしている。
議場にいる議員たちは、摂政レクティファールが入室したことにも気付かないまま、その声に身を縮こまらせていた。
「あの、公? 何か白龍の殿様の機嫌悪くありませんか?」
「んあ?」
隣に座る従弟に話しかけられたスヴァローグ公フレデリックは、持っていた雑誌と口を開いたままそちらに顔を向けた。
「いえ、今日のカール様は妙にピリピリしているなぁと」
議場の中で、カールの怒声にまったく応えていないのは、カール以外の三公爵と比較的長い議員経験を持つ一握りの貴族だけだ。彼らはエルフや天族、魔族などの力ある種族が大半である。ただ、それらの種族の中でも比較的若い者になると、その他大多数と同じように嵐が過ぎ去るのを待っている状態だった。
「そりゃヒトだもの、機嫌が悪い日ぐらいあるだろ」
フレデリックはそう答え、従弟の言葉を意に介した様子を見せない。
「そういう問題では……」
彼――ウォルンド・ギア・カティーナは、スヴァローグの分家であるカティーナ伯爵家の当主であり、もちろん龍族だが、カールの豪声には身体がびくりと震えてしまう。隣にいるフレデリックが落ち着いているからこそ、辛うじて平静を保っているに過ぎない。
「んー、もしかしたら、これかもしれないな……」
フレデリックがそう言って手渡してきた雑誌を受け取り、はてこれは何であろうかと、中身を読む。
「んなぁっ!?」
思わず上げたウォルンドの声に、周囲の視線が集中する。
慌てて愛想笑いを浮かべて誤魔化すも、彼の内心は大きく動揺していた。
「こ、ここ、公……! これは……」
「おう、艶小説ってやつだな。さすがの俺でも、議会で艶本を読む気にはなれなかったぜ」
けらけらと笑うフレデリックだが、ウォルンドが求めていた答えはそれではない。
確かに、議会で艶本の類を読むことに対して言いたいことはあるが、元来フレデリックが議会で重要な役目を果たすことは稀である。
多くの場合は顔見せであり、何かするとしてもスヴァローグ系の議員たちが無茶をしたときに後始末をする程度だ。彼らは紅龍公の気質が伝染したかのように勇猛果敢であり、議会を牽引することも多かった。だからこそ、紅龍公は常に彼らの抑制装置だったのだ。
もっとも、今の議場でもっとも苛烈に進軍を続けているのは、スヴァローグ系議員ではなく白龍公カールであり、血気盛んな若い議員たちは揃って彼の姿に怯えている有様だ。
そしてその理由は――
「しかし、メリエラ様を題材にするとは……」
フレデリックが渡した艶小説の題材は、白銀の髪を持つ貴族の姫君で、文章を読めば読むほどそれがメリエラを指したものだと分かるようになっていた。
もちろん、直截な表現がなされているわけではない。貴族の中で白銀の髪を持つ姫君はそれなりに存在するし、いくらでも言い訳はできる。
それに、貴族はこうした談話の題材にされることに慣れているし、一部では義務のように受け止めている者たちさえいた。特異な例では、自分たちの生活をおもしろおかしく描いた戯画を売り出し、一財産を築いた家まであったのだ。
「そりゃ、皇族になったらさすがに出版社が止めるだろうし、ネタとしても今が旬、出さないわけないだろ。ていうか、我らが主君の恋人たちは皆ネタにされてるぞ」
フレデリックは何でもないことのように告げるが、それは彼自身の娘が含まれていることも示していた。ただ、自分たちが世間でどれだけ話の種にされようと、いちいち意に介する必要性を感じていないだけだ。
これが別の国であれば、肖像権をはじめとする諸権利によって保護されるのだが、皇国にはより広範な意味での権利が名誉権として記載されているだけで、直接個人の私事を保護する権利は存在しなかった。
「それに、カールがブチ切れてるのはそれ自体が原因じゃなくてな」
「は?」
ウォルンドは雑誌をちらちらと読みながら、首を傾げた。
ならば何故、あれほどまでに荒ぶる龍と化しているのだろうか。
フレデリックはにやりと笑みを浮かべ、従弟の疑問に答えた。
「ちょっと通信でその雑誌の話になったとき、メリエラお嬢が『そういう作法もあったか』って顔してたんだと」
より正確に言うならば、『そういった状況』にも耐えられるよう後宮の設備を改修しようということらしい。
「昔っからこういう話は女の方が乗り気でなぁ。後宮の地下だって、女皇陛下や歴代の妃たちが張り切って拡張と改装してたし」
「そういうものですか……」
ウォルンドにも、理想の貴族令嬢の姿がある。
ある程度歳を経ており、現実も理解しているのだが、やはり理想というのはいつまでも心の一部を占めているようだ。そんな理想に少しだけひびが入ったように感じ、彼は少し引き攣った笑みを浮かべた。
「俺たちからすればお妃連中がそういうのに夢中になってる方が幸せなのは間違いない。だから、面倒事は全部陛下にぶん投げるんだよ」
このフレデリックの考えは、皇国の国民のものに近かった。
皇国の民の大多数にとって、夫婦間のあらゆる交渉が円滑に進むように努力するのは美徳のひとつであり、それを掣肘するような要素はほとんど存在しない。
海の向こうの宗教国家では、『結婚もその後の交渉も神聖なもの』という価値観を浸透させることで、一種の社会制御装置としているのだが、どちらが正しいのか結論が出ることはないだろう。
「幼年院のお遊戯みたいに『みんな仲良く』ってやつだ」
「仲良くなれるんですかね」
「そのときだけ仲良くなれればいいのさ。女心は簡単に裏返ったり戻ったりするから、常に同じ状態にしておこうなんて考えるのは無駄の極みだぜ?」
そう呟くフレデリックの目は、遥か遠くを見ていた。
彼自身、ふたりの妻の間で奔走する日々である。重要性はよく分かっていた。
「その雑誌な、うちのが買ってきたんだ。街に出て何してるのかと思ったら、義理の娘になる連中を題材にした艶本やら何やら買い漁ってるんだぜ? 俺もう色々諦めたよ」
はは、と乾いた笑い声を発し、フレデリックは沈黙した。
彼の邸宅では、議会期間中、妻のうち最低でもどちらかひとりは滞在し、様々な訪問者をもてなしている。そして夜は娘たちの今後について妻たちと延々議論を重ねているのだ。
「ぜってー俺らの話もしてるぜ」
貴族の娘が母親やそれに類する人物から夜の手ほどきを受けるというのは、もはや伝統と言っても良いかもしれない。
各々の家に独自に作り上げた手順書が存在し、嫁入り前の娘に教え込むのである。なお、母がいないメリエラはカールの依頼を受けたウィリィアの母ルイーズから、フェリスは祖母であるマリアから色々教わっているはずである。
教えてもらっていないのは、夫となるレクティファールだけだった。
「お前も娘が生まれたら頑張れよ。助けてやらねぇけど心の中で応援だけしておいてやる」
「そんな……」
こうした貴族の男たちの悲哀もまた、受け継がれる伝統だった。
「ふふふ、楽しそうねぇ」
マリアは、カールがカント男爵に止めを刺し、連名で議案を提出してきた他の貴族たちに舌鋒を向けた段階で、席を移動していた。貴族議会には定められた席など本来は存在せず、慣例的に同じ席に座っているに過ぎない。
新人議員は大抵、同じ派閥の議員から選ばれた教育係の隣に座り、以降ずっとその席に座り続けるようになるだけだ。
「どう? あなたも交じってみたら?」
「いい」
一翼分移動したマリアは、ニーズヘッグ翼の最上段近くにいたアナスターシャの隣に座りながら訊いた。返答は予想通りのもので、当然マリアに気分を害した様子はない。
「相変わらずあなたのお仲間は静かねぇ」
そう言ってマリアは、ニーズヘッグ翼に座る議員たちを眺めた。
彼らは非常に落ち着いた様子で帳面に記録を取ったり、資料を捲ったりしている。そして、ほとんどがカールの怒声に怯えていないようだった。少なくとも外見はそうだ。
「昔からあなたのところは学者系の議員が多いし、うちと少し交換して欲しいくらいよ」
「それは、構わない……でも、多分誰も行かない」
「でしょうね」
マリアはアナスターシャの言葉に心の底から同意する。
ニーズヘッグ公爵系議員は、学者系の貴族が大半を占めており、政情分析などの正確さでは他のどこにも負けていない。ただ、こうした政治的権威の是非を議論する場合は、政治学者と歴史学者の一部が時折話し合いに参加する程度で、ほとんどの議員は機械的に議案を検証する程度に留まる。
他方、マリアのレヴィアタン公爵系は、商人から身を興した貴族が多く、大抵の議案に口を挟んでは騒動を大きくするという特徴があった。
また、議会に提出する議案の半分以上がレヴィアタン公爵系議員の手によるものであり、彼らほど貴族議会で目立つ存在はない。
「カント男爵はもう少し根回しを覚えるべきね。まだまだ若いからしょうがないけど、カールちゃんの機嫌が悪いときに八つ当たりの種になる議案なんて出すから……」
とは言うものの、カント男爵は事前にマリアに今回提案する議案について伺いを立てていた。そして彼女は「好きにしなさい」と答え、カント男爵はそれを了解の意と受け取った。
マリアの言い回しに慣れている者ならば、彼女は提案を了解すると同時に、提案者に総ての責任を負わせたのだと分かっただろう。
これは『如何なる議員も、議案を提出する権利を持つ』という貴族議会の原則に従っただけで、マリアにカント男爵に対する悪意は全くなかった。
「レクティファールが、いる」
傍聴席を見上げ、アナスターシャが呟く。
マリアも、傍聴席に見慣れた白髪の男の姿を見付けた。
レクティファールは、次々と議員を締め上げていくカールの姿を見たり、他の議員たちの様子を順に眺めているようだ。
やがて、マリアとアナスターシャのいる場所に目を向けたが、彼はふたりと一瞬視線を交わすだけでそれ以上の行動を見せることはなかった。
「真面目に仕事をしているようね」
「彼は、仕事は真面目」
そんなレクティファールの態度が少し不満なマリアに対し、アナスターシャはごくごく一般的なレクティファール評を口にする。
しかし、マリアにとって一般評など顧みるに値しないものらしく、ふて腐れたように唇を尖らせる。
「真面目なんて、人生をつまらなくさせるだけでしょう。何ごとも適当なくらいでちょうどいいのに……」
「だったら、本人に、そう言えばいい」
小さな黒龍の公爵は、マリアに一瞥さえくれずに言い切る。
手元の資料には細々とした覚書が記されていて、世間の風評と違い、彼女が至極真っ当な議員であることを示している。
「言ったところで本質的には何も変わらないわ。みんなそう、誰かに何かを言われて変われるような可愛げのある人に、皇王なんて務まらないもの」
彼らは、誰かの言葉を受け入れはする。しかしそれは自分を変化させるものではなく、ただ見せかけだけ変わったように錯覚させているに過ぎない。
そうあるべくして創られたのだから、そうあるべきなのだろう。マリアはそのように自分を納得させたが、何も感じないわけではない。
「可愛いのに可愛くない。さてどうしてあげましょうか」
そうして様々な想像を巡らせることが、最近のマリアの楽しみだ。
息子夫婦を救ってくれたレクティファールには、この上ない恩がある。自らの感情と思考する時間を捧げることに何ら問題はないはずだ。
「――――」
アナスターシャはそんなマリアを見て、若い女学生が放課後の予定を立てているかのようだと思った。年齢不相応だとも思ったが、口にはしなかった。
◇ ◇ ◇
世界を初めて憎んだのはいつのことだっただろうか。
母が泣いているのを見たときか?
己に流れる血の真実を聞かされたときか?
それとも、この世界に生まれ落ちた瞬間からか?
(くだらん感傷……そう言っていられるのがどれだけ幸せなことか)
この国に暮らす人々は、自分の存在など知らないだろう。
知らぬ存在に心を傾ける者はいないのだ。
「殿下、準備が整いましてございます」
傍らに傅いた男が恭しく彼を促す。
混乱する祖国を纏め、本来あるべき姿に戻す。それが自分の血に課せられた使命であり、この上ない復讐だった。
「ああ、分かった」
碧の目を開き、立ち上がる。
窓から差し込む光に赤橙の長い髪が輝き、艶やかな黒翼が鈍く光った。
「行くぞ」
ただひたすらに逃げまどってきた。
様々な国へ逃れ、己の矮小さと世界の大きさを知った。
その結果、自分を追い遣った国の脆さと汚さを理解した。
「王都の連中に、自分たちがしたことの報いを受けさせてやる。だから待っていろ、ウィリィア」
彼――レイヴン・ゲート・ガリウエドは、獣じみた笑みを浮かべ、自分が過ごしてきた薄暗い部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
西域の歴史は古い。旧帝国崩壊前から他大陸への窓口だった西域は、人の往来が盛んで、同時にそれに見合った投資が行われていた。
未開の地とされてきた大陸東部と比較して、人口は遥かに多く、旧帝国時代でさえ帝都周辺よりも栄えていると言われたほどだ。
だが、栄えていたからこそ、旧帝国崩壊の余波を大きく被ることになった。
西域は商業によって成り立っていた。しかし巨大な不況が西域一帯を襲い、膨大な失業者がそこかしこに溢れかえる。
それは、旧帝国時代に虐げられていた、西域に暮らす多数の亜人種族に、叛乱の機会を与えることになった。彼らが得ていた富は、帝国という枠組みがあってこそ得られるものであり、大陸中が戦乱に包まれたこの時期、西域は周辺地域からの侵略を受けて痩せほそるだけだったのだ。
混乱の中、幾つもの国家が乱立し、滅び、統合され、再び滅んだ。
もはや西域は安全な商圏ではなくなり、大陸の窓口としての機能も失うことになる。そこへ台頭してきたのが、東方に建国された皇国と、いち早く纏まった自治都市同盟である。
皇国と同盟は、西域の諸国家と、そこを拠点にしている大商会が塗炭の苦しみを味わっているまさにそのとき、世界の海を庭とする巨大商圏を建設した。
皇国は自らの領土に眠っていた膨大な資源と優れた魔導技術を用いて、自治都市同盟は西域から逃れてきた小規模ながら逞しい交易商人たちによって、商圏を大きく広げることに成功する。
旧帝国崩壊から約三〇〇年、奴隷種族の叛乱に端を発する人間種の北方への脱出などを経て、西域が一応の安定を見たとき、西域の人々の前にあったのは、自分たちの手から離れた海原だった。
アルマダ大陸の商人といえば、皇国か自治都市の商人を示す言葉となり、西域はもはや古い歴史を持つだけの一地方となっていたのである。
西域がかつての繁栄を取り戻すことはなかった。しかし人々は自らができる最大の努力を行い、西域を復興させた。
その間、北方に追い遣られた人間種たちの国家が幾度も攻めてきた。
西域の国々は時に勝ち、時に負け、やがて三つの大国が離散と集合によって誕生した。うち一国が、〈マルドゥク王国〉である。
〈マルドゥク王国〉は、旧帝国時代に虐げられていた有翼人たちが作り上げた国である。彼らは飛行能力を持つが故に旧帝国時代でも軍に用いられており、被支配種族としては珍しいほどに多くの軍事技術を継承していた。
旧帝国時代の設備や技術を用いて再興した国はいくつもある。〈マルドゥク王国〉にとってのそれは、旧帝国が残した軍事教育と軍事技術。それだけに彼らの軍は精強だった。
今でも帝国との最前線には多くの兵が配置され、西域への侵攻を食い止める防波堤となっている。
そうした地政学的理由から、〈マルドゥク王国〉の軍事政変についての各国の認識は、いささか楽観的だった。
政治的混乱はあっても、彼らの国土が帝国陣営と接しており、帝国軍西方軍集団と睨み合っている状況にある以上、軍事的な騒乱が拡大することはないだろうと考えられていた。
王国の出自を思えば当然のことで、同時に国益という面から推測してもそう間違ってはいない予想だった。
しかし、それは容易く裏切られた。
「何故だ! 何故アイツらが動いている!」
王国北東部、シルブ県の王国軍〈ライデ・シルブ〉基地で、基地司令の陸軍大佐アントニオ・ヴェスパティレは、報告を持ってきた部下に向かって叫んだ。
「それは、小官にはなんとも……」
上官の声を浴びた部下は縮み上がり、困惑したように答える。
アントニオはそんな部下の様子に気を掛ける余裕もなく、自らの背後に掲げられていた王国とその周辺の地図を睨んだ。
(何を考えている、ヴィッツ!)
彼の視線は、〈ライデ・シルブ〉基地の北二〇〇キロにある〈ボルデ・シルブ〉基地に向けられている。部下の報告では、そこにいた〝ヴィッツ〟率いる陸軍第九四空中騎士連隊が、基地を放棄して王都へ向かっているというのだ。
〈ライデ・シルブ〉がアントニオ率いる空中騎士連隊を主力としているのと同じように、〈ボルデ・シルブ〉もまた、空中騎士連隊を主力としている。
むしろ、空中騎士連隊を運用するために基地が作られ、帝国に備えていたという表現が正しい。こうしなければ、空中騎士連隊を運用できないのである。
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