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番外編

指輪ものがたり 6

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「なんて素晴らしい!分かりますか?この薔薇園にはイリューディア神様の御力が満ち溢れ、花々が生き生きと内側から輝いていますよ!」

目の前の薔薇園を目にしたミアさんはそう感嘆の声を上げた。

昨日の宣言通り、ミアさんは午前中から精力的に活動している。

まずは改めてリオン様に謁見して滞在許可を出してくれたことへのお礼を述べると、そのまま私を連れて王都へと出掛けた。

クレイトス領の女性魔導士達の間でも話題だというプリシラさんの執事喫茶・・・もとい淑女カフェへ行き、マールの町の私の加護で育った果物を使ったフルーツタルトやパフェを堪能した。

そしてそのままプリシラさんが経営する別店舗の女性用の雑貨や小物を扱う店へ行き、モリー公国の魔石鉱山のクズ魔石を利用したステンドグラスの小物入れや手鏡などを興味深げに見てはプリシラさんへ質問をしたりたくさんの品物を買ったりしていた。

さすが魔導士、見るものや興味を持つものがほぼ魔法や癒し子絡みのものばかりだと感心していれば、今は王宮へと戻って来て私が加護を付けた王宮の庭園を見学している。

そうしてイリューディアさんの加護がついた薔薇が見事だと歓声を上げているところだ。

「すみません、私にはイリューディアさんの力が感じられるかどうかよりも、他より綺麗に咲いているなあ、くらいしか分からなくて・・・」

確かに私が加護を付けた花は持ちが良く色鮮やかだけど、イリューディアさんの力がどう伝わっているとか詳しいところまでは分からない。

マールの町の金のリンゴみたいに意識的に何かの祈りを込めたわけではなくて、綺麗に咲きますようにくらいの軽い気持ちでぽんぽんと順番に撫でていっただけだから。

そう説明すれば、

「マールの金のリンゴ!噂だけは聞いております、どんな病気や怪我も治す奇跡のリンゴですね?日持ちがせず保存魔法も効かないためにクレイトス領まで持ち込めず、研究が出来ないのが残念です。その町もいずれ結婚したあかつきには訪れてみたい場所の一つですわ。」

両手を合わせてにっこりと微笑まれた。

「どんな病気や怪我でも治せるわけではないですよ・・・?」

勢いに気押されながら答えれば、

「ではどの程度の?療護院などで患者にリンゴを与えて調査はお済みですか?魔導士でいえばどのレベルの治癒魔法に匹敵するお力でしょう?あ、そうですわ、ユーリ様のお力もぜひ実際見せて下さい!ほら、ちょうどここに薔薇のつぼみが」

怒涛の質問攻めに薔薇園の薔薇のつぼみも指差された。

私の力に興味があるという点ではエリス様も似たようなものだったけど、あれに比べれば随分あっけらかんとしているというか堂々としている。

エリス様は私の加護がついた薔薇をこっそり触ってその加護がどんなものか確かめていたけど、ミアさんは私の目の前で早く早くと薔薇のつぼみに私が力を使うのを待っている。

「こういう自分には未知の魔力や魔法を知りたがるっていう点は団長にも通じるところがあるっすよね~。だからわりと話が弾んで、あの団長が油断してついうっかり賭けに応じちゃったんすかね?」

ミアさんの見張り役的な役割をシグウェルさんに頼まれて私達に同行しているユリウスさんが呆れたように言った。

そんなユリウスさんに向き直ったミアさんは

「魔導士たる者、いつ如何なる時も魔法を追求する好奇心を持たなければ。ユリウス様はシグウェル様のように偉大な魔力を持ち精力的に魔法を極めようとする方のお側にいるせいで、あの方に研究を全てまかせてしまって自分はやる気を失くし怠け心が出ているのでは?」

なんて返して、

「団長が趣味の魔法実験に夢中になって仕事をサボってるのが批判されるどころか、俺が怠けてるなんて言われるのは心外っす、屈辱っす・・・!」

ミア様は日頃の俺の苦労を知るべきっすよ、ねぇユーリ様!とユリウスさんは私を味方に引き込もうとした。

「まあユリウスさんはシグウェルさんの面倒を見るのをすごく頑張ってはいますよね・・・」

そのせいで多分一生シグウェルさんの下で世話係みたいなのをすることになりそうだけど。

とはさすがにかわいそうで本人には言えなかったので、話を逸らすように

「じゃあちょっと加護を付けてみますね。」

とミアさんが見つけた薔薇のつぼみをぽんと軽く撫でる。

そうすれば淡く金色に光ったつぼみはまるで早送りの動画のようにみるみるその固く閉じたつぼみが開いていって大輪の花を咲かせた。

「なんて素晴らしいのでしょう。魔法呪文の詠唱もなくこんなに早い速度での開花を促し、更には花芽全体にもしっかりとその魔力が行き渡っている・・・。私でもこの境地に至るには十年単位の鍛錬がいるわ・・・」

ぶつぶつ呟きながら一体どういう仕組みかしら、魔力はどれほど必要かしら?とミアさんは私が咲かせた薔薇をあちこち眺めたり触ったりしている。

私は私で、花や樹木に加護の力を使うのはごく当たり前のようになっていてルーシャ国の人達は魔導士さんですら今更ここまで真剣に考え込む人はいなかったのでそんなミアさんを新鮮に思いながら薔薇に触れていた。

するとそんな私の指先にふと注目したミアさんが、突然がしっ!と私の手を握りしめた。

「な、なんですか⁉︎」

「これ・・・この指輪は何ですの?」

「え?」

私の手を取るミアさんが見つめているのはついこの間シグウェルさんにもらったばかりのあのアメジストの指輪だ。

「これから漂ってくる魔力の気配はユーリ様のものとは異なっているようです。シグウェル様の魔力を感じるような・・・?」

ふうん?となおも指輪を見つめているミアさんに私とユリウスさんは青くなった。

まさかこの指輪にシグウェルさんの魔力の半分が入っているなんて言えない。言ったら何が起きるか予想がつかない。

「そ、それは団長がユーリ様にって作って贈ったものだから団長の魔力が濃く感じられて当然っす!」

咄嗟に答えたユリウスさんの説明にミアさんはあの黒い瞳を煌めかせた。

「魔導士が自分の魔力を纏わせた自作の魔道具やアクセサリーなど身につけるものを恋人に贈るのは独占欲の現れと、相手が自分の所有物であると主張しているようなものですが・・・。あのクールなシグウェル様もそんな事をするとは、ユーリ様が羨ましい限りです。」

そういえばヨナスの力から私を守るためにシグウェルさんがくれた、鈴型の結界石のネックレスを見たセディさんも前に似たような事を言っていたっけ。

あの頃の私は全然ピンと来てなかったけど、改めてそんな事を言われると嬉しくもあり恥ずかしくもある。

そうして一瞬私の気が抜けたその時、ミアさんが好奇心のおもむくままに

「失礼、もう少しよく見せてくださいます?」

と言うが早いか私の指からサッとシグウェルさんのくれたあの指輪を抜き取って自分の手に取ると日の光にかざした。

「あっ!」

「団長の指輪が‼︎」

突然の出来事に私もユリウスさんも慌てた。何しろこれはただの指輪じゃない。

何も知らないミアさんは今、シグウェルさんのあの膨大な魔力の半分を手にしているのだ。

「ミア様、人様の指輪を許可なく勝手に指から引き抜くとか失礼にもほどがあるっすよ!今すぐそれをユーリ様に返すっす‼︎」

当然ユリウスさんが抗議した。

「少し見せていただくだけです。すぐにお返しいたしますよ。」

対するミアさんはそんな文句もどこ吹く風で指輪をあちこち色んな角度から見たり形の良いその爪先でこんこん、と叩いたりしている。

そんな事をして指輪が壊れたらシグウェルさんの魔力が漏れ出して、それに気付いたミアさんがその魔力を吸収したりしないだろうか。

下手な事を言って指輪の中にシグウェルさんの魔力が込められている事を気付かれてはいけないと、私はハラハラしながらもじっとその様子を見守った。
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