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番外編
指輪ものがたり 7
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私の指輪を手に取ったミアさんは見飽きることなくまだそれを確かめている。
「さすがですわ。詳しいところまでは分かりませんが、この銀の円環にはシグウェル様の魔力と何かの呪文が緻密にいくつも編み込まれて循環していて、まるで美しい銀のタペストリーのようです。」
ほら、分かりますかユリウス様。そう言ってミアさんはその指輪をユリウスさんにも見せているけど
「ユーリ様に差し上げるものだから団長が気合いを入れるのも当然のことっすよ!それだけユーリ様のことを大事に思って作った指輪なんです、だから早く返して‼︎」
物凄い勢いでユリウスさんはミアさんに忠告している。まあそれは私のために作られた指輪って他にもシグウェルさんの魔力が入っているから迂闊なことはしない方がいいしね・・・。
「そんなに必死にならなくてもいいじゃないですか。言われなくてもすぐにお返ししますよ。ユリウス様は少し大袈裟です。」
少しだけあの形の良い色っぽい唇をとがらせてそうこぼしたミアさんが私の手に指輪を返そうと、最後に改めてそれを見つめた。と、
「・・・あら?このアメジスト、中に何か封じ込めています?」
核心をついたその言葉に、指輪を受け取ろうとしていた私の手が思わず止まる。シグウェルさんの魔力がその中に入っていることがバレた?
「何かしら・・・?何か、とても圧縮された高濃度の魔力のような・・・。そう、まるで魔物か何かでも封印しているような強い力がこの中にあるんですのね?それを覆って封じ込めているシグウェル様の魔力が強すぎて、中に何が入っているのかまでは分からないけど」
そんな事を独り言を言うようにミアさんは呟いている。
どうやらその中にあるのがシグウェルさんの魔力そのものだということまでは分からないらしい。
だけど魔物を封じ込めていると勘違いされるほど圧縮された魔力らしいから、その指輪の中にあるシグウェルさんの魔力はよっぽど強力に違いない。
そんな高濃度の魔力を小さなアメジストの石の中に閉じ込めておくなんて、凄いけどいよいよ怖い。
シグウェルさんは大丈夫だって言ってたけど、本当に何かの拍子にパリンと割れちゃったりしないよね?
そんな私の心配が伝わったのか、私に返そうとしていた指輪をミアさんは握り直した。
「・・・ねぇユーリ様、もしよろしければこの指輪を少しの間だけ私に預けてくださいません?シグウェル様の作られたこんなにも強力な力を持つ指輪、気になって調べたくて仕方ありません。調べるための道具はここに持って来ておりませんので、クレイトス領へお借りして行ってもよろしいでしょうか?」
「えっ⁉︎」
それはダメだ。それってつまり、シグウェルさんの魔力の半分を国外に持ち出されるってことだ。
それに万が一、あれこれいじられた指輪からシグウェルさんの魔力が漏れ出したら。
「そ、それはさすがにダメですよ!せっかくプレゼントしてもらった指輪、まさか分解とかするつもりですか?」
青くなって断れば、
「分解せずとも調べることは出来ますよ。何しろクレイトス領は魔法に優れた者達が揃っておりますから。どうでしょう?もしこれを貸していただけたらしばらくの間、婚約の件は保留にしてもよろしいですが。」
「そこは破棄するって言って欲しいっす‼︎」
ユリウスさんがツッコミを入れたけど、
「やっとのことでお互いの手首を鎖で繋いだようなものなのに、あんなに素敵で魔力の多い方をそう簡単に手離すわけにはいきません。見目麗しい夫、素晴らしい魔力、どちらも手に入れてこそクレイトスの者達にも後継者としての私の力量が示せるというものですからね。」
その意欲と野心はすごいと思うけど、どう考えてもその相手にあのほぼ人の話を聞かずに空気も読まない魔法バカのシグウェルさんは向いていない。
旦那様で連れて行っても無謀な魔法実験をしてそのうちいつかクレイトス領が爆発四散しそう。
ああいう人はリオン様みたいに誰か周りに歯止めになる人がいないと。見ず知らずのクレイトス領のことがなぜか心配になって、
「シグウェルさんを他の国に連れて行くのはやめて欲しいです、シグウェルさんはルーシャ国に必要な人だしクレイトス領の人達の手には負えないと思います!」
と声を上げたらミアさんはあら、と口元に手を当てた。
「やっとユーリ様ご本人の口からシグウェル様を引き留める言葉を聞けましたわ。可愛らしい嫉妬ですが、婚約の誓書がある以上は私はいつでもシグウェル様をクレイトスに迎えることが出来るんですのよ?それに、同じ伴侶になるのに独占欲はよくないです。伴侶は平等ですから。」
いや嫉妬うんぬんじゃなくて。だけどミアさんは私がシグウェルさんと離れるのを嫌がっていると勘違いしているし、なんならユリウスさんも
「ユーリ様がミア様に嫉妬を⁉︎団長がこの場にいないのが残念っす、聞かせてあげたい‼︎」
となぜか感動の面持ちだ。埒が開かない。
「いや、えっと・・・話が逸れましたけど、とにかくその指輪は返してください!」
面倒なのでとりあえず指輪を返してもらおうと手を伸ばしたらサッと手を上に上げられたと思うと、突然指輪の周りが炎に包まれて空中にぷかぷか浮かんでいる。
「⁉︎」
「そんなに慌てるなんて、お二人の絆に私の方こそ嫉妬してしまいそう・・・。シグウェル様が贈られた唯一無二の指輪ですものね、分かります。だけどなんだか返すのが惜しくなってきました。」
どういう理屈だ。天の邪鬼か。
「そうですね、そこまでシグウェル様に大切に思われているユーリ様でしたら私がこの指輪を持っている間になんならもう一つ新しい指輪を贈っていただけるのでは?」
なんてことまで言っている。そこまでしてこの指輪に込められている力が何か知りたいんだ⁉︎
魔法バカの魔導士って理屈が通じないということを実感した。魔法が絡むと人の話を聞かないという点ではミアさんもシグウェルさんに似ている。
だけどミアさんはふむ?と口元に当てた手をそのままに考え込んで、
「とりあえず私とシグウェル様の婚約が正当なものだと知らせることは出来ましたし、ユーリ様とも顔合わせが出来ました。本当は今後についても、結婚式やその先の事を詰めて話をしたかったのですが、昨日のシグウェル様のあの様子では話はまだ進みそうにありませんね・・・?」
なんて言っている。そこでパッと顔を上げるとあの華やかな笑顔を私とユリウスさんに見せた。
「うん、やっぱりこの指輪、少しお借りしてもよろしいでしょうか?悪いようにはいたしません、ユーリ様の大切なものですから。ほんの少しの間、クレイトス領にある魔力探知機で中に何が入っているのかやそこにどれほどの魔力が封じられているのかを調べてみるだけです。かすり傷一つ付けずにお返しすると約束しますから。」
「だ、だからここから持ち出すことがそもそもダメなんですってば!」
「なぜです?国外に流出すると壊れてしまう魔法でもかかっているんですの?」
「いえ、シグウェルさんの作った頑丈な指輪だからそれはないですけど・・・!」
そこでミアさんはユリウスさんの方に向き直ると、
「ユリウス様、私今回はこれで失礼いたします。訪問を許可してくださったリオン王弟殿下に突然の帰国のお詫びを伝えてくださいな。それからシグウェル様にはユーリ様の指輪を一時的にお借りしたことと、それを返すのに一度クレイトスまで来て欲しいとも。クレイトス領の防護結界はシグウェル様ならいつでも通れるようにしてありますから。・・・そうですね、二日もあればお返し出来ると思いますので。」
と説明し出した。
「はっ?えっ、ちょっと待つっす、俺にそんな事を急に言われても困るっすよ⁉︎そういうのは本人に話して欲しいっす!指輪の持ち出しも絶対ダメですし‼︎」
だけどユリウスさんが慌てて説得しようとしている間にもミアさんの体は炎に包まれる。魔法だ。
「ちょっと!王宮内で勝手に転移魔法を使うとか‼︎」
ユリウスさんが注意したけど
「あら?王弟殿下から聞いておりませんの?日常的に魔法と共にあるクレイトス領の高位魔導士が魔法を好きに使えないのは不便だろうと、殿下からは今朝謁見した際に他者を害さない限りは王宮でも好きに魔法を使っても良いと許可されてるんですの。ご存知ない?」
「ご存知ないっす!なんでまた殿下はそんな許可を⁉︎」
「そういうことですのでひとまず失礼いたします。」
ユリウスさんの叫びを無視してミアさんが優雅なお辞儀をする。
途端にごおっ、という炎の竜巻が巻き上がりミアさんがルーシャ国に来た時と同じような熱を頬に感じた。
と思うとすでにミアさんの姿はそこにはない。今までミアさんが立っていたそこには人一人分の芝生の焦げ跡が魔法陣の形になって燻っていて、私の後ろではユリウスさんが
「え?指輪を持ち逃げされたっす・・・?」
と呆然と呟いていた。
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ほら、分かりますかユリウス様。そう言ってミアさんはその指輪をユリウスさんにも見せているけど
「ユーリ様に差し上げるものだから団長が気合いを入れるのも当然のことっすよ!それだけユーリ様のことを大事に思って作った指輪なんです、だから早く返して‼︎」
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「・・・あら?このアメジスト、中に何か封じ込めています?」
核心をついたその言葉に、指輪を受け取ろうとしていた私の手が思わず止まる。シグウェルさんの魔力がその中に入っていることがバレた?
「何かしら・・・?何か、とても圧縮された高濃度の魔力のような・・・。そう、まるで魔物か何かでも封印しているような強い力がこの中にあるんですのね?それを覆って封じ込めているシグウェル様の魔力が強すぎて、中に何が入っているのかまでは分からないけど」
そんな事を独り言を言うようにミアさんは呟いている。
どうやらその中にあるのがシグウェルさんの魔力そのものだということまでは分からないらしい。
だけど魔物を封じ込めていると勘違いされるほど圧縮された魔力らしいから、その指輪の中にあるシグウェルさんの魔力はよっぽど強力に違いない。
そんな高濃度の魔力を小さなアメジストの石の中に閉じ込めておくなんて、凄いけどいよいよ怖い。
シグウェルさんは大丈夫だって言ってたけど、本当に何かの拍子にパリンと割れちゃったりしないよね?
そんな私の心配が伝わったのか、私に返そうとしていた指輪をミアさんは握り直した。
「・・・ねぇユーリ様、もしよろしければこの指輪を少しの間だけ私に預けてくださいません?シグウェル様の作られたこんなにも強力な力を持つ指輪、気になって調べたくて仕方ありません。調べるための道具はここに持って来ておりませんので、クレイトス領へお借りして行ってもよろしいでしょうか?」
「えっ⁉︎」
それはダメだ。それってつまり、シグウェルさんの魔力の半分を国外に持ち出されるってことだ。
それに万が一、あれこれいじられた指輪からシグウェルさんの魔力が漏れ出したら。
「そ、それはさすがにダメですよ!せっかくプレゼントしてもらった指輪、まさか分解とかするつもりですか?」
青くなって断れば、
「分解せずとも調べることは出来ますよ。何しろクレイトス領は魔法に優れた者達が揃っておりますから。どうでしょう?もしこれを貸していただけたらしばらくの間、婚約の件は保留にしてもよろしいですが。」
「そこは破棄するって言って欲しいっす‼︎」
ユリウスさんがツッコミを入れたけど、
「やっとのことでお互いの手首を鎖で繋いだようなものなのに、あんなに素敵で魔力の多い方をそう簡単に手離すわけにはいきません。見目麗しい夫、素晴らしい魔力、どちらも手に入れてこそクレイトスの者達にも後継者としての私の力量が示せるというものですからね。」
その意欲と野心はすごいと思うけど、どう考えてもその相手にあのほぼ人の話を聞かずに空気も読まない魔法バカのシグウェルさんは向いていない。
旦那様で連れて行っても無謀な魔法実験をしてそのうちいつかクレイトス領が爆発四散しそう。
ああいう人はリオン様みたいに誰か周りに歯止めになる人がいないと。見ず知らずのクレイトス領のことがなぜか心配になって、
「シグウェルさんを他の国に連れて行くのはやめて欲しいです、シグウェルさんはルーシャ国に必要な人だしクレイトス領の人達の手には負えないと思います!」
と声を上げたらミアさんはあら、と口元に手を当てた。
「やっとユーリ様ご本人の口からシグウェル様を引き留める言葉を聞けましたわ。可愛らしい嫉妬ですが、婚約の誓書がある以上は私はいつでもシグウェル様をクレイトスに迎えることが出来るんですのよ?それに、同じ伴侶になるのに独占欲はよくないです。伴侶は平等ですから。」
いや嫉妬うんぬんじゃなくて。だけどミアさんは私がシグウェルさんと離れるのを嫌がっていると勘違いしているし、なんならユリウスさんも
「ユーリ様がミア様に嫉妬を⁉︎団長がこの場にいないのが残念っす、聞かせてあげたい‼︎」
となぜか感動の面持ちだ。埒が開かない。
「いや、えっと・・・話が逸れましたけど、とにかくその指輪は返してください!」
面倒なのでとりあえず指輪を返してもらおうと手を伸ばしたらサッと手を上に上げられたと思うと、突然指輪の周りが炎に包まれて空中にぷかぷか浮かんでいる。
「⁉︎」
「そんなに慌てるなんて、お二人の絆に私の方こそ嫉妬してしまいそう・・・。シグウェル様が贈られた唯一無二の指輪ですものね、分かります。だけどなんだか返すのが惜しくなってきました。」
どういう理屈だ。天の邪鬼か。
「そうですね、そこまでシグウェル様に大切に思われているユーリ様でしたら私がこの指輪を持っている間になんならもう一つ新しい指輪を贈っていただけるのでは?」
なんてことまで言っている。そこまでしてこの指輪に込められている力が何か知りたいんだ⁉︎
魔法バカの魔導士って理屈が通じないということを実感した。魔法が絡むと人の話を聞かないという点ではミアさんもシグウェルさんに似ている。
だけどミアさんはふむ?と口元に当てた手をそのままに考え込んで、
「とりあえず私とシグウェル様の婚約が正当なものだと知らせることは出来ましたし、ユーリ様とも顔合わせが出来ました。本当は今後についても、結婚式やその先の事を詰めて話をしたかったのですが、昨日のシグウェル様のあの様子では話はまだ進みそうにありませんね・・・?」
なんて言っている。そこでパッと顔を上げるとあの華やかな笑顔を私とユリウスさんに見せた。
「うん、やっぱりこの指輪、少しお借りしてもよろしいでしょうか?悪いようにはいたしません、ユーリ様の大切なものですから。ほんの少しの間、クレイトス領にある魔力探知機で中に何が入っているのかやそこにどれほどの魔力が封じられているのかを調べてみるだけです。かすり傷一つ付けずにお返しすると約束しますから。」
「だ、だからここから持ち出すことがそもそもダメなんですってば!」
「なぜです?国外に流出すると壊れてしまう魔法でもかかっているんですの?」
「いえ、シグウェルさんの作った頑丈な指輪だからそれはないですけど・・・!」
そこでミアさんはユリウスさんの方に向き直ると、
「ユリウス様、私今回はこれで失礼いたします。訪問を許可してくださったリオン王弟殿下に突然の帰国のお詫びを伝えてくださいな。それからシグウェル様にはユーリ様の指輪を一時的にお借りしたことと、それを返すのに一度クレイトスまで来て欲しいとも。クレイトス領の防護結界はシグウェル様ならいつでも通れるようにしてありますから。・・・そうですね、二日もあればお返し出来ると思いますので。」
と説明し出した。
「はっ?えっ、ちょっと待つっす、俺にそんな事を急に言われても困るっすよ⁉︎そういうのは本人に話して欲しいっす!指輪の持ち出しも絶対ダメですし‼︎」
だけどユリウスさんが慌てて説得しようとしている間にもミアさんの体は炎に包まれる。魔法だ。
「ちょっと!王宮内で勝手に転移魔法を使うとか‼︎」
ユリウスさんが注意したけど
「あら?王弟殿下から聞いておりませんの?日常的に魔法と共にあるクレイトス領の高位魔導士が魔法を好きに使えないのは不便だろうと、殿下からは今朝謁見した際に他者を害さない限りは王宮でも好きに魔法を使っても良いと許可されてるんですの。ご存知ない?」
「ご存知ないっす!なんでまた殿下はそんな許可を⁉︎」
「そういうことですのでひとまず失礼いたします。」
ユリウスさんの叫びを無視してミアさんが優雅なお辞儀をする。
途端にごおっ、という炎の竜巻が巻き上がりミアさんがルーシャ国に来た時と同じような熱を頬に感じた。
と思うとすでにミアさんの姿はそこにはない。今までミアさんが立っていたそこには人一人分の芝生の焦げ跡が魔法陣の形になって燻っていて、私の後ろではユリウスさんが
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