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第十五章 レニとユーリの神隠し

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魔力を使って地面を直した私がまだ元気いっぱい
なのを見たキリウさんはさすがに何かおかしいと
怪しんだ。

ヨナス神の関係者だという疑いは晴れたはずだけど、
どう話せばいいのかな。まさか私も召喚者です、
なんて言えないし。

そう思っていたらレニ様が私の前にずいと出てきた。

「なんだよ、ユーリはこの国の誰よりも魔力量が多い
だけだぞ!それに魔導士を先生にして魔法のことを
教えてもらい始めたのも最近の事だからな、こいつは
自分でも魔法の事はよく分かってないんだよ!お前、
いい大人なのにユーリみたいなチビをいじめたりして
恥ずかしくないのか⁉︎」

「レニ様・・・」

まさか庇ってくれるとは思わなかった。この際私の
ことをまたチビと言ったのは目を瞑ろう。

自分よりも大きくて大人な、ルーシャ国では有名な
キリウさんに堂々と文句を言うなんて。

そういえばここに飛ばされてきた時も自分よりも
ずっと大きなラーデウルフに剣を持って立ち向かおう
としてたっけ。

私よりも年下なのに偉いぞ、とちょっと感激して
いたら、そんなレニ様とキリウさんを見たレンさんが
笑った。

「あーあ、キリウさんすっかり悪者じゃないですか。
キリウさんだってユーリちゃんの反応を見れば、
それが何か企んでのことなのかどうかなんてすぐに
分かるでしょ?そうやって、肝心なところで疑い深い
からいつも最後は女の子に逃げられちゃうんですよ」

「は?誰が疑い深くて結婚出来ないって⁉︎オレは
ただ、ユーリちゃんの魔力量が多くてその力の使い方
が変だなって言っただけだろ?」

キリウさんに文句を言われたレンさんが、

「誰もキリウさんの婚期の話はしてないのにそんなに
気にしてたなんて・・・すみません。」

真面目な顔で頭を下げるとそのままキリウさんには
分からないようにこっそりと私にウインクした。

どうやら話を逸らしてくれたらしい。

そうしてパッと頭を上げると、

「それで、ユーリちゃんはキリウさんと一緒に木を
植えて水場を作りたいんだよね?そんなに魔力を
使っても大丈夫なの?」

にこにこしてそう聞いてきた。さりげない気遣いと
人当たりの良さはさすが、伴侶候補が列をなして
待っているだけある。なんていい人だ。

勝手に厨二病の女好きだと勘違いしていた過去の私に
説教したい。

「レンさん・・・!」

ありがとうございますと感謝を込めてレンさんを
見つめたら、キリウさんが慌ててその間に割り込んで
きた。

「違うから!ユーリちゃんを疑ってたとかじゃない
からレンのことをそんな目で見つめるのは止めて‼︎
ユーリちゃんと結婚するのはオレだから‼︎」

騒ぐキリウさんにレニ様は呆れて、自業自得じゃ
ないか、やっぱり勇者様の方がカッコイイ。と呟いて
いる。

そしてレンさんは割り込んできたそんなキリウさんの
肩越しに私に向かってまた笑いかけた。

「ごめんね、ユーリちゃん。キリウさん俺に近付く
変わったものに対してちょっと過剰反応するだけ
だから。悪気はないから許してあげてね。」

それはあれかな、召喚者をヨナスの手から守ろうと
しているからついそうなってしまうのかな。

さっきもレンさんに危害を加えるなら容赦しないって
言ってたし、そういうところは相手が子どもの姿を
していようが油断はしないで立派だと思う。

「ほら、キリウさんも。せっかくユーリちゃんが
こんなに豊かな地を作ってくれて、水場まで作って
くれるって言うんだから協力しましょうよ。」

「分かったよ、分かりました!全部ユーリちゃんの
言う通りにするって‼︎」

レンさんに肩をぽんぽんされてなだめられた
キリウさんは、片膝をつくと私に目線を合わせた。

「・・・本当に、疑ってたとかじゃないからね?
オレはただユーリちゃんもまるで召喚者みたいだな
って気になっただけだから。さっきは元から持って
いるイリューディア神様の加護の力をうまく使えない
って言ってたけど、そんなことはないんじゃないかな
って。その瞳を見てると特にそう感じるんだよね。
まるでグノーデル神様の加護を受けたレンみたいな
輝きをしている瞳から目を離せなくなるんだよ。」

そう言って真面目な顔でじっと見つめられれば、
シグウェルさんに見られているような錯覚に陥って
顔が赤くなったのが自分でも分かった。

そんないい顔で至近距離から見つめないで欲しい。
つい動揺してしまう。

そんな私にレニ様は、

「ユーリ!なんで赤くなってるんだ、さっきまで
怪しまれてたのにやっぱりお前そういう顔に弱い
のか!せっかく俺が味方してやったのに‼︎」

と小さく叫んだ。だからそういうデリカシーのない
ことは口にしないで欲しい。せっかくさっきはレニ様
の行動に感激したのに。

「え、ついにユーリちゃんの気持ちがオレに傾いた⁉︎
どうしよう、嬉しい‼︎」

ほら、キリウさんが誤解した。

「いえ、少しも傾いてませんから!レニ様、思った
ことを全部口に出すのはやめて下さい。キリウさんも
レニ様の言葉に惑わされないで下さいね⁉︎そんな事
より、これを大きくしてもらえませんか?」

「オレを惑わしているのはユーリちゃんのその思わせ
ぶりな態度だよ・・・?ていうか、これを大きくして
欲しいの?」

私はそんな思わせぶりなことはしていないはずだ、と
思いながらさっきキリウさんが成長させた木から小枝
をいくつか折ると地面にそれを挿した。

ハーピーや炎狼達の攻撃から私達を守るために作った
結界の境目に沿うようにぐるりと円形に挿した小枝を
キリウさんが確かめる。

「はい、お願いします。この結界の中心に私は泉を
作りたいので、キリウさんにはそれを囲むように木を
育てて欲しいんです。」

別に木を育てるくらい私も簡単に出来るけど、
さっきからキリウさんには色々と怪しまれているし
あまり色んな力は使わない方がいいだろう。

ふむふむと私の挿した小枝を確かめたキリウさんは
にっこりと微笑んでハーピー達を攻撃した時のように
パンと手を打った。

「いいよー、・・・成長して結実ね!」

その言葉と叩いた手の音に反応したかのように、
地面に挿した小枝は明るく輝く。

と、途端にぐんぐん成長した小枝はあっという間に
立派な木になると小さな白桃のような実までつけて
しまった。

本当にすごい。イリューディアさんの加護を受けて
いるわけでもないのにまるで私みたいな力を易々と
使いこなしている。

さすが、自分で自分を超絶魔法の使い手と自画自賛
するだけある。

「次は私の番ですね。」

そのキリウさんが育ててくれた樹木に負けないような
綺麗な泉をここに作ろう。

どんな干ばつにも絶対に枯れない、農作業をする人や
ここを通りがかった人達の喉を潤して疲れを癒して
くれるような泉を。

地面に手を付いてそう願う。

そうすれば、柔らかな地面についた両手の平は暖かく
熱を持って輝くとその下から水が湧き上がってくる
ような僅かな振動を感じた。

そこで地面から手を離して避ければ、ポコポコと
水が湧き上がってくる。

「おっと」

キリウさんも私みたいに地面に手をついた。すると
湧き上がってきた水の周囲の土が盛り上がり、水が
周りに溢れ出してしまわないようせきとめるように
そこは小さな噴水付きの池になった。

噴水からは私の出した湧き水が絶えず流れ出して
いる。

一連の作業を見ていたレンさんはその出来上がりに
目を輝かせた。

「2人ともすごいよ、これならここを通るみんなに
喜ばれるし重宝されると思う!あっ、そうだ魔物が
立ち入れないように結界も更に強めるんだっけ?」

レンさんはさっき倒した炎狼から回収した魔石の
入っている小袋をごそごそした。

その中から赤く輝く魔石を大小いくつか取り出すと
キリウさんに渡す。

「これ、炎熱魔法を加えた結界石にしてもらっても
いいですか?それをこの周囲にぐるっと埋めて、もし
ここに魔物が入り込もうとした時は魔物が燃えて
しまうような結界にしたいんで!」

そんなレンさんのリクエストに応じるように、
キリウさんはあーハイハイ、と渡された魔石を手で
包み込んだ。

赤い魔石は更に明るく燃え上がるように輝くと、
それを確かめたキリウさんは出来たぞと言って魔石
をレンさんに返す。

「ありがとうございます!じゃあ俺はこれをちょっと
周りに埋めてきます!」

そう言って私達に手を振って走って行ったレンさんを
見送りながらキリウさんは

「二人の初めての共同作業だね!こんなにうまくいく
なんてやっぱりオレ達は相性がいい!」

そう満足気に頷いた。


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