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第十五章 レニとユーリの神隠し

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二人での初めての共同作業だねと言って満足そうな
キリウさんに、どこかで聞いたセリフだと思えば前に
シグウェルさんと一緒に星の砂に加護の力を使った
時に私が言った言葉だった。

そういえばあの時は私がシグウェルさんの手を取って
そんな事を言ったっけ。

なのに今はそのご先祖様に同じことを言われている
のはすごく不思議だ。

あの時の事を思い出してシグウェルさんに差し出した
手を見つめていたら、その手をガシッとキリウさんに
取られた。

「うーん、うまく力を使いこなせないようなことを
言ってたけど魔力を使っても特に残滓が残ってるわけ
でもないんだね。さっきオレの手を綺麗にした時も
そうだけど、魔力はきちんと対象物に伝わり切って
いるみたいだ。ユーリちゃんがもし自分の思うように
力を使えないっていうなら、体のどこかに制限が
かかってるのかな?てことは、やっぱりその呪具が
原因かあ。」

話しながら、土で汚れた私の手を浄化魔法で綺麗に
してくれた。

お礼を言えばどういたしましてとニコリと微笑まれた
けど手は離してくれない。

「えーと、手はもう綺麗になりましたよ・・・?」

「うん。なんかねぇ、ユーリちゃんに触ってると
気分が良いんだよね。落ち着くっていうか、こんな風
に他人に対して感じるのは初めての経験だよ。
あとなんかハチミツみたいないい匂いがする。」

そう言って、握っていた私の手を鼻先に近づけた
キリウさんはすん、と匂いを嗅いだ。

・・・それはあれだ、シグウェルさんが言うところの
私の魔力の匂いってやつじゃないかな。

落ち着くって言うのもきっと、イリューディアさんの
力の加護が大きい私の影響を魔力量の多いキリウさん
が受けているからなんじゃないかな?

だけどそんな事は説明できないので困ったなあと
私の手を取り匂いを嗅いでいるキリウさんを眺めて
いたら、顔を上げたキリウさんが

「やっぱりユーリちゃんはオレの運命なんだよ。
魔力の使い方ならイスラハーンの魔導士じゃなくても
むしろオレの方が教え方はうまいかも知れないよ?
早くお嫁においで!」

そんな事を言い出した。いや、それ絶対に勘違い
だから。

レニ様も、

「うっ、運命⁉︎よくそんな恥ずかしい事を言えるな
お前!さっさとその手を離せよ、ユーリも困ってる
だろ‼︎あと次に馬に乗る時はやっぱり俺がお前と一緒
に乗る!ユーリは勇者様の方に乗れ‼︎」

そう声を上げて私とキリウさんの手を引き剥がした。

それに対してキリウさんは気を悪くするでもなく
笑っている。

「うーん、かわいいねレニ君。よし、それじゃオレと
賭けをしようか!」

出た。まさかこんな子供にまで賭けを持ちかけるとは
思わなかった。

レニ様がお金を持っているかどうか分からないけど、
もしキリウさんが有り金を巻き上げようとしている
なら全力で止めないと。

キリウさんは結界を張りに行ったレンさんが置いて
いった魔石の入った小袋を手に取った。

「今からオレが左右の手にそれぞれ大小一つずつの
魔石を握るから、レニ君は大きい魔石を持ってる方の
手を当てて。もし当てたら、その時はユーリちゃんは
レンの馬に乗せるからさ。でも外したら、鉱山に
着くまでの間は引き続きオレとユーリちゃんが一緒の
馬ってことで!」

お金は賭けないみたいで良かったけど代わりに私が
賭けられている。

分かったと頷いたレニ様は、小袋をごそごそする
キリウさんの手元を一生懸命見つめていて、魔石を
触るその音からも大きさが分からないかと必死に耳も
澄ませていた。

「よし、さあどーっちだ⁉︎」

キリウさんが嬉々としてグーに握った両手をレニ様の
前に差し出した。

子供相手でも賭け事をしているキリウさんは本当に
楽しそうだ。なんてダメな大人なんだろう。

そんなダメ人間キリウさんの両手をレニ様は真剣に
見比べている。

「こっち・・・いや、そっちだ!」

迷った結果、レニ様は左手を選んだ。キリウさんが
ニヤリとする。

「え~、いいの?変えたいなら今がチャンスだよ?」

「いい!そっちの手の方がなんか袋から出し辛そう
だった‼︎あと俺は父上譲りで直感力があるって良く
褒められるけど、その勘がそっちだって言ってる!」

そうなの?私も見てたけどよく分からなかった。

直感力が優れてるなんて初めて聞いたけど、それも
勇者様の血筋の恩恵か何かだろうか。

男に二言はない!と胸を張ったレニ様にキリウさんは

「じゃあ決まりね?レニ君は大きい魔石があるのは
左手だと思ってるってことで。それじゃまずは、
選ばなかった方の右手の石から見てみようか。」

そう言って右手をちょっと掲げて見せた。

レニ様は頷き、私も右手に注目する。

「じゃあ見せるよー。はい、右手に持ってる魔石は
この大きさでした~。」

そう言って見せてくれた魔石はキリウさんの手の平に
すっぽりと収まっていた。

「うーん、これだけ見ても大きいのか小さいのか
よく分からないですね・・・」

そう言った私にレニ様も難しい顔をする。

「うん・・・でもこっちの手はすんなりと袋から
出てきたような気がするんだ」

二人でキリウさんの右手を見つめていたら、

「じゃあ次はレニ君の選んだ方の手を見てみようか。
見比べたらすぐ分かるよ!」

上機嫌でキリウさんはそう言った。

あれ?機嫌が良いってことはもしかしてレニ様の
選んだ方はハズレなんだろうか。

そう思いながら開かれた左手を二人で覗き込む。

「あっ!」

レニ様がガッカリした声を上げた。

キリウさんが見せてくれた左手の魔石は最初に見せて
くれた右手の物より一回りほど小さかった。

「俺のカンが外れた・・・⁉︎」

かわいそうにショックを受けながら、レニ様は左右の
手の魔石を見比べている。

どうやら相当自信があったらしい。

「じゃあ残念だけど、レニ君はまたレンと一緒の馬
ってことで。ユーリちゃんはオレと一緒!」

笑ってそう言ったキリウさんは魔石を袋にしまう。

「自信があったのになあ、おかしいなあ・・・」

「カンなんて、外れることもありますよ!」

まだ納得していないレニ様を慰めていたら、目の端に
きらりと光る何かが見えた。

キリウさんのから何かの屑がこぼれ落ちたみたい
だった。

「?」

何か落としたのかなと馬に荷物をつけようとして
その場から離れたキリウさんが今まで立っていた
足元を見れば、こまかな赤い砂粒みたいなものが
土に混じってかすかに輝いていた。

「あっ‼︎」
 
思わず声が出て、レニ様にどうかしたか?と聞かれて
しまう。

「いえ、なんでもないです!」

レニ様には笑顔を見せたけど、まさか。

まさかの可能性に気付いてしまった。そんな私に
キリウさんは明るく笑いかけてきた。

「え~なになに?どうかした?」

笑っているけど、その目は物言いたげに私を見つめて
いる。その態度に確信する。

イカサマだ。レニ様に負けたくないキリウさんが
ズルをした。

最初にこれ見よがしに右手を掲げて私達の注意を
引いて、そのスキに左手に握っていた魔石を砕いて
小さくしたんだ。

足元に散らばっていたあの砂粒は、その時砕かれた
魔石の一部に違いない。

きっと左袖からこぼれ落ちたのも、砕いてこっそりと
足元へ落とす時に袖についたものだろう。

音もしなかったし、すごくこまかく砕かれていたから
多分何かの魔法を使ったのかも。

「おっ、おとなげない・・・‼︎」

まさか子供相手にズルをするとは思わなかった。

「なんだユーリ、どうかしたか?」

レニ様に不思議そうにされたけど言えるわけが
ない。かわいそう過ぎる。

「なんでもないです、あっ、レンさんが戻って来た!
行きましょうレニ様‼︎」

誤魔化すようにレニ様の手を引いて、ちょうど戻って
来たレンさんのところへと駆ける。

かけ出すついでにわざとあの赤い砂粒が混じる土を
踏んでそれを蹴散らした。証拠隠滅だ。

そうしてレニ様がレンさんと話し出し、私はそれを
ちょっと離れたところから見守った。

良かった、レニ様は気付いていない。

まさか自分がイカサマで負けたなんて知ったら
あの年で人間不信になりかねない。

ホッとしていたら隣にキリウさんが来て、

「いやあ、バレちゃった?」

悪びれることなく話しかけられた。

「キリウさん、ちょっと大人げないですよ。レニ様が
かわいそうじゃないですか!」

「ユーリちゃんは大人だねー、黙っててくれるんだ!
ありがと~。」

お辞儀と共にお礼をされれば、シグウェルさんと同じ
銀髪がさらりと流れる。

本当に、見た目や魔力量の多いところは似ているのに
どうしてこんなにも違うのか。

いや、この性格がシグウェルさんに引き継がれなくて
良かったのかも知れない。

呆れてため息をつけば、

「でもそんな手を使ってまでも、それだけオレは
ユーリちゃんと一緒にいたかったってことだよ。
そのためにはどんな事もするしどんな対価も払おう!
そう、例えそれによって卑怯者と罵られる事になろう
ともね!」

パチリとウインクをされてそう言われた。

・・・なんかそのセリフ、最後に『オレの女神』とか
ついたらちょっと軽薄なシェラさんみたいだなとふと
思ってしまった。

もし私がイリューディアさんの加護を持つ召喚者だと
バレたらキリウさんまで癒し子原理主義者の仲間入り
をしそうだ。

そう考えるとちょっと怖いんですけど・・・。








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