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番外編 ファルター
5.国王夫妻との食事会
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パーティーに参加する時の決まりとして、必ず男女が組んで参加する、というものがある。
着飾った女性が歩きにくそうにしているのを見た男性が、その女性に手を貸した。それが始まりだと言われている。
それがいつしか、参加する時から同伴する異性を伴うのが当然となり、男性が女性をエスコートするのが決まりとなった。そして年月が経つと共に、暗黙の了解も出来上がる。
パートナーとするのは、配偶者か婚約者。いない場合には、親子か兄弟姉妹か。
つまりは、エマ殿下が親族でも何でもない俺をパートナーにして、パーティーに出席するということは、エマ殿下と俺が婚約者に等しい相手であると、周囲に知らしめることになるのだ。
*******
学校が休みの日。
珍しくその日の昼食を共にするのは、エマ殿下ではなかった。俺の目の前にいらっしゃるのは、国王陛下ご夫妻だ。
国王陛下から誘われた食事を断ることなどできるはずもないし、緊張はするが、あんなことをエマ殿下に言われたのは、つい昨日の話だ。
どういう顔をして会えばいいのか分からなかったから、このお誘いは正直助かった。
ちなみに、昨日はどうなったかと言うと、何も言えない俺にエマ殿下がどう思ったのか、「食べましょう」と言って、昼食を食べ始めた。
それを見て俺も食べ始め、結局お互いにそれ以降の会話がないまま終わった。
放課後は、俺はバウムガルトナー教師の個人授業があるから、顔を合わせない。
夕食と朝食は「復習したいから」と言って、一緒の食事を避けた。
けれど、流石にこれ以上避けられない。どうしようか、なんと言ったらいいのだろうか、と考えたところで答えは出ず、そこに陛下からの食事のお誘いがあったのだ。
だが、今気付いた。
エマ殿下のパーティーでのパートナーを、殿下の一存で決められるはずがない。国王陛下はご存じなのだろうか。そして、それをどう思っているのだろうか。
こうして食事に誘ってきたというのは、高確率で昨日のエマ殿下の発言について、話があるのではないだろうか。
そう考えたら、緊張の度合いが一気に高まった。
「ファルター殿、ずいぶん緊張なされているようだが、気楽で良いぞ。召し上がって下され」
「……は、はいっ!」
気楽でいられるはずもない。相手が国王ご夫妻というだけで緊張するのに、そこにエマ殿下との問題もある。
が、そんな俺に国王陛下もレオン殿下もうまく話を振って下さって、俺の緊張も和らいできた。
気持ちも落ち着いて、最後のデザートまで食べて食後の紅茶を楽しんでいるとき、それを聞かれた。
「時にファルター殿。エマのことを、一人の女性としてどう思う?」
「…………………」
正直言えば、この時の俺はエマ殿下との問題をすっかり忘れていた。忘れていたところに唐突に突きつけられて、俺は呆然とした。
――ゴクン
我に返ったのは、口に含んでいた紅茶を飲み込んだ音を聞いたときで、そのときには俺は思いきり咳き込んでいた。
「ゲホッ、ゲホゲホッ、ゲホッ!」
「レア、なぜあのタイミングで聞くんだい? 飲み込んでから聞いてあげれば良いものを」
「ついいたずら心が出てしまってな」
国王陛下に向かって咳き込むわけにはいかないと、何とか姿勢を変えて咳き込む俺の耳に、のほほんとしたレオン殿下と国王陛下の声が聞こえた。
いたずら心って何だ、と文句を言いたいのはやまやまだが、相手は国王だし、慌てた侍女に背中をさすられながら咳をしている俺に、そんな余裕があるはずもない。
やがて、涙目になりながらも何とか落ち着いて、国王ご夫妻に向き直った。
「……失礼致しました」
「いや、こちらこそ済まぬな。あんなに咽せるとは思わなんだ」
国王陛下は、「すまぬ」と言いながらも明らかに面白がっている。それが分かっても指摘するわけにいかないのが、何とも歯がゆいところだ。
「それでファルター殿。エマのことをどう思う?」
先ほどと何か質問が違う気がしたが、何が違うのかが分からず、俺は思いつくままに答えていた。
「努力家な方だと思います。自分のできないところから逃げず、その勤勉さで克服しようとする、尊敬できる方です。最近では明るくなられて、よく笑うようになって、その笑顔が可愛くて……」
「おや」
話している途中で、国王陛下が少し面白そうに笑った。なんだろうと思って、その一瞬後に自分の失言に気付いた。
慌てて口を噤んだけれど、もう遅い。
国王陛下だけでなく、レオン殿下も妙に笑顔だ。お二方がどう思っているのかなど俺に読めるはずもなく、とりあえず必死に弁解の言葉を考えた。
「い、いえ、その、つまり……、エマ殿下の笑顔は、周囲にいる人たちも明るくして下さるというか、人を惹き付けていると申しますか……」
アワアワして弁解する俺は、途中で言葉を切った。
国王陛下が面白そうに肩をふるわせていたのだ。
「そなたも、惹き付けられた一人か?」
「……と、とんでもありませんっ!」
陛下の言葉に一瞬の間を開けて、俺は叫んでいた。
叫んだ後、これはこれでもしかして無礼だっただろうか、という考えが頭をかすめたが、そこで即座に言い直せるほど、俺は頭が良くない。
「俺……じゃなくて、私のような者が惹き付けられたなど、そんなおこがましいことを言うつもりは、まったくございません!」
自分でも意外なくらいにムキになって言い返す。
礼を失しているんじゃないか、と思ったのは後になってからで、この時はそんな余裕さえなかった。
そんな俺とは裏腹に、なぜか陛下は「クックックックッ」と笑い声まで漏らし始めた。
「どうしようか、レオン。もっとからかいたくなってきた」
「……私はファルター殿が気の毒になってきたよ。いいから早く本題を言ってあげたら?」
「つまらぬではないか」
「いじめすぎると、嫌われるよ」
「……むぅ」
陛下とレオン殿下の会話は、そのほとんどを理解することを頭が拒んだが、たった一つ「本題」という言葉だけは、耳に残った。
やはり俺に何か話があるのだ。おそらく、エマ殿下の事で。
「ファルター殿」
「……は、はいっ!」
自分でもヤバいと思うくらいに、声が上ずっていた。
「口頭だが、そなたの父君にも許可は取った。そなた、エマと婚約する気はないか?」
「………………は……?」
完全に予想外の言葉だった。
昨日は娘から、そして今日は母親からと二日間続けて、特大の衝撃を受けることになったのだった。
着飾った女性が歩きにくそうにしているのを見た男性が、その女性に手を貸した。それが始まりだと言われている。
それがいつしか、参加する時から同伴する異性を伴うのが当然となり、男性が女性をエスコートするのが決まりとなった。そして年月が経つと共に、暗黙の了解も出来上がる。
パートナーとするのは、配偶者か婚約者。いない場合には、親子か兄弟姉妹か。
つまりは、エマ殿下が親族でも何でもない俺をパートナーにして、パーティーに出席するということは、エマ殿下と俺が婚約者に等しい相手であると、周囲に知らしめることになるのだ。
*******
学校が休みの日。
珍しくその日の昼食を共にするのは、エマ殿下ではなかった。俺の目の前にいらっしゃるのは、国王陛下ご夫妻だ。
国王陛下から誘われた食事を断ることなどできるはずもないし、緊張はするが、あんなことをエマ殿下に言われたのは、つい昨日の話だ。
どういう顔をして会えばいいのか分からなかったから、このお誘いは正直助かった。
ちなみに、昨日はどうなったかと言うと、何も言えない俺にエマ殿下がどう思ったのか、「食べましょう」と言って、昼食を食べ始めた。
それを見て俺も食べ始め、結局お互いにそれ以降の会話がないまま終わった。
放課後は、俺はバウムガルトナー教師の個人授業があるから、顔を合わせない。
夕食と朝食は「復習したいから」と言って、一緒の食事を避けた。
けれど、流石にこれ以上避けられない。どうしようか、なんと言ったらいいのだろうか、と考えたところで答えは出ず、そこに陛下からの食事のお誘いがあったのだ。
だが、今気付いた。
エマ殿下のパーティーでのパートナーを、殿下の一存で決められるはずがない。国王陛下はご存じなのだろうか。そして、それをどう思っているのだろうか。
こうして食事に誘ってきたというのは、高確率で昨日のエマ殿下の発言について、話があるのではないだろうか。
そう考えたら、緊張の度合いが一気に高まった。
「ファルター殿、ずいぶん緊張なされているようだが、気楽で良いぞ。召し上がって下され」
「……は、はいっ!」
気楽でいられるはずもない。相手が国王ご夫妻というだけで緊張するのに、そこにエマ殿下との問題もある。
が、そんな俺に国王陛下もレオン殿下もうまく話を振って下さって、俺の緊張も和らいできた。
気持ちも落ち着いて、最後のデザートまで食べて食後の紅茶を楽しんでいるとき、それを聞かれた。
「時にファルター殿。エマのことを、一人の女性としてどう思う?」
「…………………」
正直言えば、この時の俺はエマ殿下との問題をすっかり忘れていた。忘れていたところに唐突に突きつけられて、俺は呆然とした。
――ゴクン
我に返ったのは、口に含んでいた紅茶を飲み込んだ音を聞いたときで、そのときには俺は思いきり咳き込んでいた。
「ゲホッ、ゲホゲホッ、ゲホッ!」
「レア、なぜあのタイミングで聞くんだい? 飲み込んでから聞いてあげれば良いものを」
「ついいたずら心が出てしまってな」
国王陛下に向かって咳き込むわけにはいかないと、何とか姿勢を変えて咳き込む俺の耳に、のほほんとしたレオン殿下と国王陛下の声が聞こえた。
いたずら心って何だ、と文句を言いたいのはやまやまだが、相手は国王だし、慌てた侍女に背中をさすられながら咳をしている俺に、そんな余裕があるはずもない。
やがて、涙目になりながらも何とか落ち着いて、国王ご夫妻に向き直った。
「……失礼致しました」
「いや、こちらこそ済まぬな。あんなに咽せるとは思わなんだ」
国王陛下は、「すまぬ」と言いながらも明らかに面白がっている。それが分かっても指摘するわけにいかないのが、何とも歯がゆいところだ。
「それでファルター殿。エマのことをどう思う?」
先ほどと何か質問が違う気がしたが、何が違うのかが分からず、俺は思いつくままに答えていた。
「努力家な方だと思います。自分のできないところから逃げず、その勤勉さで克服しようとする、尊敬できる方です。最近では明るくなられて、よく笑うようになって、その笑顔が可愛くて……」
「おや」
話している途中で、国王陛下が少し面白そうに笑った。なんだろうと思って、その一瞬後に自分の失言に気付いた。
慌てて口を噤んだけれど、もう遅い。
国王陛下だけでなく、レオン殿下も妙に笑顔だ。お二方がどう思っているのかなど俺に読めるはずもなく、とりあえず必死に弁解の言葉を考えた。
「い、いえ、その、つまり……、エマ殿下の笑顔は、周囲にいる人たちも明るくして下さるというか、人を惹き付けていると申しますか……」
アワアワして弁解する俺は、途中で言葉を切った。
国王陛下が面白そうに肩をふるわせていたのだ。
「そなたも、惹き付けられた一人か?」
「……と、とんでもありませんっ!」
陛下の言葉に一瞬の間を開けて、俺は叫んでいた。
叫んだ後、これはこれでもしかして無礼だっただろうか、という考えが頭をかすめたが、そこで即座に言い直せるほど、俺は頭が良くない。
「俺……じゃなくて、私のような者が惹き付けられたなど、そんなおこがましいことを言うつもりは、まったくございません!」
自分でも意外なくらいにムキになって言い返す。
礼を失しているんじゃないか、と思ったのは後になってからで、この時はそんな余裕さえなかった。
そんな俺とは裏腹に、なぜか陛下は「クックックックッ」と笑い声まで漏らし始めた。
「どうしようか、レオン。もっとからかいたくなってきた」
「……私はファルター殿が気の毒になってきたよ。いいから早く本題を言ってあげたら?」
「つまらぬではないか」
「いじめすぎると、嫌われるよ」
「……むぅ」
陛下とレオン殿下の会話は、そのほとんどを理解することを頭が拒んだが、たった一つ「本題」という言葉だけは、耳に残った。
やはり俺に何か話があるのだ。おそらく、エマ殿下の事で。
「ファルター殿」
「……は、はいっ!」
自分でもヤバいと思うくらいに、声が上ずっていた。
「口頭だが、そなたの父君にも許可は取った。そなた、エマと婚約する気はないか?」
「………………は……?」
完全に予想外の言葉だった。
昨日は娘から、そして今日は母親からと二日間続けて、特大の衝撃を受けることになったのだった。
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