妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香

文字の大きさ
48 / 57
番外編 ファルター

5.国王夫妻との食事会

しおりを挟む
 パーティーに参加する時の決まりとして、必ず男女が組んで参加する、というものがある。

 着飾った女性が歩きにくそうにしているのを見た男性が、その女性に手を貸した。それが始まりだと言われている。
 それがいつしか、参加する時から同伴する異性を伴うのが当然となり、男性が女性をエスコートするのが決まりとなった。そして年月が経つと共に、暗黙の了解も出来上がる。

 パートナーとするのは、配偶者か婚約者。いない場合には、親子か兄弟姉妹か。

 つまりは、エマ殿下が親族でも何でもない俺をパートナーにして、パーティーに出席するということは、エマ殿下と俺が婚約者に等しい相手であると、周囲に知らしめることになるのだ。


*******


 学校が休みの日。
 珍しくその日の昼食を共にするのは、エマ殿下ではなかった。俺の目の前にいらっしゃるのは、国王陛下ご夫妻だ。

 国王陛下から誘われた食事を断ることなどできるはずもないし、緊張はするが、あんなことをエマ殿下に言われたのは、つい昨日の話だ。
 どういう顔をして会えばいいのか分からなかったから、このお誘いは正直助かった。

 ちなみに、昨日はどうなったかと言うと、何も言えない俺にエマ殿下がどう思ったのか、「食べましょう」と言って、昼食を食べ始めた。
 それを見て俺も食べ始め、結局お互いにそれ以降の会話がないまま終わった。

 放課後は、俺はバウムガルトナー教師の個人授業があるから、顔を合わせない。
 夕食と朝食は「復習したいから」と言って、一緒の食事を避けた。

 けれど、流石にこれ以上避けられない。どうしようか、なんと言ったらいいのだろうか、と考えたところで答えは出ず、そこに陛下からの食事のお誘いがあったのだ。

 だが、今気付いた。
 エマ殿下のパーティーでのパートナーを、殿下の一存で決められるはずがない。国王陛下はご存じなのだろうか。そして、それをどう思っているのだろうか。
 こうして食事に誘ってきたというのは、高確率で昨日のエマ殿下の発言について、話があるのではないだろうか。

 そう考えたら、緊張の度合いが一気に高まった。

「ファルター殿、ずいぶん緊張なされているようだが、気楽で良いぞ。召し上がって下され」
「……は、はいっ!」

 気楽でいられるはずもない。相手が国王ご夫妻というだけで緊張するのに、そこにエマ殿下との問題もある。

 が、そんな俺に国王陛下もレオン殿下もうまく話を振って下さって、俺の緊張も和らいできた。
 気持ちも落ち着いて、最後のデザートまで食べて食後の紅茶を楽しんでいるとき、それを聞かれた。

「時にファルター殿。エマのことを、一人の女性としてどう思う?」
「…………………」

 正直言えば、この時の俺はエマ殿下との問題をすっかり忘れていた。忘れていたところに唐突に突きつけられて、俺は呆然とした。

 ――ゴクン

 我に返ったのは、口に含んでいた紅茶を飲み込んだ音を聞いたときで、そのときには俺は思いきり咳き込んでいた。

「ゲホッ、ゲホゲホッ、ゲホッ!」
「レア、なぜあのタイミングで聞くんだい? 飲み込んでから聞いてあげれば良いものを」
「ついいたずら心が出てしまってな」

 国王陛下に向かって咳き込むわけにはいかないと、何とか姿勢を変えて咳き込む俺の耳に、のほほんとしたレオン殿下と国王陛下の声が聞こえた。

 いたずら心って何だ、と文句を言いたいのはやまやまだが、相手は国王だし、慌てた侍女に背中をさすられながら咳をしている俺に、そんな余裕があるはずもない。

 やがて、涙目になりながらも何とか落ち着いて、国王ご夫妻に向き直った。

「……失礼致しました」
「いや、こちらこそ済まぬな。あんなに咽せるとは思わなんだ」

 国王陛下は、「すまぬ」と言いながらも明らかに面白がっている。それが分かっても指摘するわけにいかないのが、何とも歯がゆいところだ。

「それでファルター殿。エマのことをどう思う?」

 先ほどと何か質問が違う気がしたが、何が違うのかが分からず、俺は思いつくままに答えていた。

「努力家な方だと思います。自分のできないところから逃げず、その勤勉さで克服しようとする、尊敬できる方です。最近では明るくなられて、よく笑うようになって、その笑顔が可愛くて……」
「おや」

 話している途中で、国王陛下が少し面白そうに笑った。なんだろうと思って、その一瞬後に自分の失言に気付いた。
 慌てて口を噤んだけれど、もう遅い。

 国王陛下だけでなく、レオン殿下も妙に笑顔だ。お二方がどう思っているのかなど俺に読めるはずもなく、とりあえず必死に弁解の言葉を考えた。

「い、いえ、その、つまり……、エマ殿下の笑顔は、周囲にいる人たちも明るくして下さるというか、人を惹き付けていると申しますか……」

 アワアワして弁解する俺は、途中で言葉を切った。
 国王陛下が面白そうに肩をふるわせていたのだ。

「そなたも、惹き付けられた一人か?」
「……と、とんでもありませんっ!」

 陛下の言葉に一瞬の間を開けて、俺は叫んでいた。
 叫んだ後、これはこれでもしかして無礼だっただろうか、という考えが頭をかすめたが、そこで即座に言い直せるほど、俺は頭が良くない。

「俺……じゃなくて、私のような者が惹き付けられたなど、そんなおこがましいことを言うつもりは、まったくございません!」

 自分でも意外なくらいにムキになって言い返す。
 礼を失しているんじゃないか、と思ったのは後になってからで、この時はそんな余裕さえなかった。

 そんな俺とは裏腹に、なぜか陛下は「クックックックッ」と笑い声まで漏らし始めた。

「どうしようか、レオン。もっとからかいたくなってきた」
「……私はファルター殿が気の毒になってきたよ。いいから早く本題を言ってあげたら?」
「つまらぬではないか」
「いじめすぎると、嫌われるよ」
「……むぅ」

 陛下とレオン殿下の会話は、そのほとんどを理解することを頭が拒んだが、たった一つ「本題」という言葉だけは、耳に残った。

 やはり俺に何か話があるのだ。おそらく、エマ殿下の事で。

「ファルター殿」
「……は、はいっ!」

 自分でもヤバいと思うくらいに、声が上ずっていた。

「口頭だが、そなたの父君にも許可は取った。そなた、エマと婚約する気はないか?」
「………………は……?」

 完全に予想外の言葉だった。
 昨日は娘から、そして今日は母親からと二日間続けて、特大の衝撃を受けることになったのだった。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

処理中です...