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番外編 ファルター
1.留学
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俺は無事にグランデルト王国に到着した。ここまでの険しい道のりを、一緒に来てくれた者たちを振り返る。
「ご苦労だった。おかげで無事にたどり着けた。ゆっくり休んで、帰りも気をつけて帰ってくれ」
身の回りの世話をしてくれた侍従や兵士たちに声をかける。この後は、全員国に帰る。このグランデルト王国に残るのは、俺一人だ。
父には誰かつけると言われた。けれど、それを俺は断った。この国に来たのは、俺が変わるための覚悟だ。
誰かがついていれば甘えてしまうかもしれないし、兄と比べられてしまう恐怖が常に付きまとってしまう。
だから、俺はあえて一人を選んだ。
俺の言葉に全員が頭を下げた。
代表するように口を開いたのは、侍従だった。
「もったいないお言葉、恐悦至極に存じます。ファルター殿下のこの国での生活が、実り多きものであることをお祈り致します」
俺は頷いて、彼らに背を向けた。
これ以上言葉を交わしていたら、不安でどうにかなってしまいそうだったから。
*****
「よくぞいらした、ファルター殿。頭を上げてくれ」
城に入り、国王陛下に謁見する。
堅苦しい内容とは裏腹に、響いた声はソプラノだ。
「はっ、国王陛下」
顔を上げて見えた顔は、女性のもの。グランデルト国の今の国王は、女王だ。
俺のいたブンデスリーク王国ではまずない光景に違和感があるが、この国ではこれが普通だ。
俺の言った言葉に、国王陛下は満足そうに笑う。
それを見て、俺はホッと息を吐いた。
「あまり国交のないブンデスリークからの留学には驚いたが、断る理由もない。土産も頂いたしな。我が国で存分に学んでいって欲しい」
「はい、ありがとうございます」
俺はもう一度頭を下げた。
土産は、父に持たされたものだ。
色々あるが、メインは攻撃魔術を固めて石にした、攻撃石。ブンデスリークにしかない技術で作られた石は、どこでも重宝がられる。相手の心証を良くするための土産として、これ以上ないくらいの品物だ。
「さて、ファルター殿もお疲れであろうし、堅苦しい話は程々にするとしよう。我が子らの紹介だけさせて頂いてよろしいかな。長子はお主と同い年だ。学校も同学年となる」
「は、はい」
俺は必死に動揺を抑え込んだ。ある意味、ここまで国王陛下と話したよりも緊張する。
俺と同い年。
そう。兄と離れたからといって比較対象がいないわけじゃない。この国に来れば、この国の王子王女と比較される。
そんなの分かっていたことだ。
分かっているのに、どうしようもなく緊張する。相手があまり優秀じゃないといいな、などと思ってしまう自分が嫌になる。
国王陛下の言葉に、後ろに控えていた二人が前に出てきた。
最初に挨拶したのは、女性の方だ。
「国王レア・グランデルトが一子、エマ・グランデルトと申します。次期王位継承者、王太子の地位を頂戴しております」
「お会いできて光栄です」
驚きそうになるのを隠して、挨拶を返す。
常識の違いだ。
男女関係なく、第一子が後を継ぐ。それがこの国だと分かってはいても、どうしても先に驚きが出てしまう。
続いて、男性が挨拶する。
「第二子のリアム・グランデルトと申します。ファルター殿下、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「よろしくお願い致します」
確か、年は三つほど下だったよな、と前もって学んだことを思い出しながら、挨拶を返す。
後は、国王陛下の王配であるレオン殿下がいらっしゃるはずだが、姿はない。あまり公に姿を見せることはないという話だったから、この場にいないのも当然か。
謁見はこれで終了した。
夕食を共にと誘われ、これを了承する。
侍女に伴われて用意された部屋に向かう。
贅をこらしているわけではないけれど、この部屋で過ごす人が過ごしやすいように、と配慮された部屋である事が分かった。
「ふー」
一人になって、大きく息を吐く。とりあえず、初対面は何とかクリアできた。
この国では、男王・女王に関わらず、呼称は「国王」になる。
諸外国では、女王は普通に「女王陛下」と呼ばれているので、外国に行ったときにはそう呼ばれるのも黙認しているという話だけど、国内においてはそうはいかない。
例え外国から来た者であろうと、この国の制度をきちんと学んで「国王陛下」と呼ばない輩に対しての対応は、冷淡の一言に尽きるらしい。
それと同様に王太子も同じで、男でも女でも関係なく、そう呼ばれる。だから、第一子のエマ殿下も「王太子殿下」だ。
国王陛下の配偶者に関しては、それが王配だろうと王妃だろうと、敬称は「殿下」だ。「陛下」と呼ばれるのは、国王陛下お一人のみ。
最低限、覚えるべき知識は覚えてきたけれど、逆に言えばそれしか覚えられなかった。時間も短かったし、俺の頭ではそれが限界だった、とも言える。
「……すぐに幻滅されるんだろうな」
思考がつい暗くなってしまい、慌てて振り払うように頭を振る。
変わるために、この国に来たのだ。
父の姿を、ハインリヒとマレンの姿を思い浮かべる。
誓ったことを忘れるな。彼らに、変わった俺を見てもらうんだ。
「ご苦労だった。おかげで無事にたどり着けた。ゆっくり休んで、帰りも気をつけて帰ってくれ」
身の回りの世話をしてくれた侍従や兵士たちに声をかける。この後は、全員国に帰る。このグランデルト王国に残るのは、俺一人だ。
父には誰かつけると言われた。けれど、それを俺は断った。この国に来たのは、俺が変わるための覚悟だ。
誰かがついていれば甘えてしまうかもしれないし、兄と比べられてしまう恐怖が常に付きまとってしまう。
だから、俺はあえて一人を選んだ。
俺の言葉に全員が頭を下げた。
代表するように口を開いたのは、侍従だった。
「もったいないお言葉、恐悦至極に存じます。ファルター殿下のこの国での生活が、実り多きものであることをお祈り致します」
俺は頷いて、彼らに背を向けた。
これ以上言葉を交わしていたら、不安でどうにかなってしまいそうだったから。
*****
「よくぞいらした、ファルター殿。頭を上げてくれ」
城に入り、国王陛下に謁見する。
堅苦しい内容とは裏腹に、響いた声はソプラノだ。
「はっ、国王陛下」
顔を上げて見えた顔は、女性のもの。グランデルト国の今の国王は、女王だ。
俺のいたブンデスリーク王国ではまずない光景に違和感があるが、この国ではこれが普通だ。
俺の言った言葉に、国王陛下は満足そうに笑う。
それを見て、俺はホッと息を吐いた。
「あまり国交のないブンデスリークからの留学には驚いたが、断る理由もない。土産も頂いたしな。我が国で存分に学んでいって欲しい」
「はい、ありがとうございます」
俺はもう一度頭を下げた。
土産は、父に持たされたものだ。
色々あるが、メインは攻撃魔術を固めて石にした、攻撃石。ブンデスリークにしかない技術で作られた石は、どこでも重宝がられる。相手の心証を良くするための土産として、これ以上ないくらいの品物だ。
「さて、ファルター殿もお疲れであろうし、堅苦しい話は程々にするとしよう。我が子らの紹介だけさせて頂いてよろしいかな。長子はお主と同い年だ。学校も同学年となる」
「は、はい」
俺は必死に動揺を抑え込んだ。ある意味、ここまで国王陛下と話したよりも緊張する。
俺と同い年。
そう。兄と離れたからといって比較対象がいないわけじゃない。この国に来れば、この国の王子王女と比較される。
そんなの分かっていたことだ。
分かっているのに、どうしようもなく緊張する。相手があまり優秀じゃないといいな、などと思ってしまう自分が嫌になる。
国王陛下の言葉に、後ろに控えていた二人が前に出てきた。
最初に挨拶したのは、女性の方だ。
「国王レア・グランデルトが一子、エマ・グランデルトと申します。次期王位継承者、王太子の地位を頂戴しております」
「お会いできて光栄です」
驚きそうになるのを隠して、挨拶を返す。
常識の違いだ。
男女関係なく、第一子が後を継ぐ。それがこの国だと分かってはいても、どうしても先に驚きが出てしまう。
続いて、男性が挨拶する。
「第二子のリアム・グランデルトと申します。ファルター殿下、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「よろしくお願い致します」
確か、年は三つほど下だったよな、と前もって学んだことを思い出しながら、挨拶を返す。
後は、国王陛下の王配であるレオン殿下がいらっしゃるはずだが、姿はない。あまり公に姿を見せることはないという話だったから、この場にいないのも当然か。
謁見はこれで終了した。
夕食を共にと誘われ、これを了承する。
侍女に伴われて用意された部屋に向かう。
贅をこらしているわけではないけれど、この部屋で過ごす人が過ごしやすいように、と配慮された部屋である事が分かった。
「ふー」
一人になって、大きく息を吐く。とりあえず、初対面は何とかクリアできた。
この国では、男王・女王に関わらず、呼称は「国王」になる。
諸外国では、女王は普通に「女王陛下」と呼ばれているので、外国に行ったときにはそう呼ばれるのも黙認しているという話だけど、国内においてはそうはいかない。
例え外国から来た者であろうと、この国の制度をきちんと学んで「国王陛下」と呼ばない輩に対しての対応は、冷淡の一言に尽きるらしい。
それと同様に王太子も同じで、男でも女でも関係なく、そう呼ばれる。だから、第一子のエマ殿下も「王太子殿下」だ。
国王陛下の配偶者に関しては、それが王配だろうと王妃だろうと、敬称は「殿下」だ。「陛下」と呼ばれるのは、国王陛下お一人のみ。
最低限、覚えるべき知識は覚えてきたけれど、逆に言えばそれしか覚えられなかった。時間も短かったし、俺の頭ではそれが限界だった、とも言える。
「……すぐに幻滅されるんだろうな」
思考がつい暗くなってしまい、慌てて振り払うように頭を振る。
変わるために、この国に来たのだ。
父の姿を、ハインリヒとマレンの姿を思い浮かべる。
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