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第十一章 四天王ジャダーカ
ルバドール帝国の皇族事情①
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「皇帝陛下は、どんなお方だ?」
リィカが皇帝と面会するとしたら。
その状況を考えると、その人となりを知っておかないと、容易に返答はできない。
アレクの問いの意味を分かっているのだろう。
返すトラヴィスに、戸惑いはない。
「皇帝陛下はご高齢のため、伏せっております。皆様方がお会いするとしたら、皇帝陛下ではなく、皇太子殿下になります」
アレクも思いだした。
軍議の時、今帝国を治めているのは、皇太子だと言っていた。
ルバドール帝国では、皇帝は終身制だ。亡くならない限りは、次の皇帝は即位できない。
しかし、高齢で伏せっている皇帝に政治が行えるはずもなく、皇太子が実質上の皇帝として、采配を振るっているのだ。
皇太子は、皇帝の孫に当たる。
では皇帝の息子、皇太子の父親はどうしているのか、と言えば、皇位継承権を放棄して、出て行ってしまったらしい。
皇帝など継がず、自分のやりたいことがあったが、子供が自分しかいなく、後を継ぐしかない。
そう思っていた皇帝の息子だったが、一つ方法がある事に気付いた。
他に跡継ぎがいないなら、作ってしまえば良い。
そこで、一人の娘に目を付けた。
頭はいい。事務的な事は大体できるし、政務への理解もある。
だが、女性は奥に入り、男性の一歩後ろにある事を美徳とするルバドールにおいて、そういう娘は憚られる。
その娘を妃として迎えた皇帝の息子は、二男一女をもうけた。これで文句はないだろうと、後のすべてを妃に押しつけて、皇宮を出ていった。
皇帝の息子と妃は離縁したわけではなく、厳密に言えば、別居状態、という事になる。
これは、妃が皇族に残るための処置だ。そうでなければ、子供達の両親が共にいなくなってしまう。
残された妃は、子供達の教育をしっかり施し政務を支える、なくてはならない存在だ。
というのが、現在のルバドール帝国の、皇族事情らしい。
「……皇帝陛下のご子息は、現在帝都にて平民と変わらぬ生活をしております。皇太子殿下を始めとしたご兄弟方は、そんな父親に時々街に降りて会いに行っておりますので……、平民に理解はあるといいますか、街中に出ることを楽しんでいると言いますか……」
何とも歯切れの悪いトラヴィスの説明だ。
「周囲公認で街に降りているのか。それは何というか……」
羨ましい、と言いかけて、アレクは口を噤んだ。
十五歳で学園に入学するまでは、秘密の通路から抜け出して、街に行って冒険者をやっていたアレクだ。
国王たる父親にバレて、黙認してもらっていたが、大っぴらに認められていたわけではない。
ちなみに、皇帝の息子が何をしているのかは、言葉を濁して教えてくれなかった。
「礼儀作法や言葉遣いについては、よほどの事がなければ、問題視されることはないでしょう。周囲のうるさい者どもは、人払いをすればいい話ですから」
「そうか…………」
そういう人間であれば、問題が起こる可能性は低いだろう。
おそらく、リィカへの配慮もしてくれるはずだ。
「リィカ、作ってみるか、献上品」
「えっ!?」
がしかし、リィカの顔は真っ青だ。
首を横に振っている。
「そちらと同様のものであれば、献上品として何も遜色ない事は、私が保証しよう。……そうだな。もしできれば、もう少し大きい方がより相応しい、と言えると思うが」
トラヴィスにまで言われて、リィカが泣きそうになっている。
アレクは、リィカに手を伸ばした。
頬に触れる。
「無理か?」
アレクは無理強いするつもりはなかった。
絶対にやらなければいけないことではない。
だが、ルバドールの国境で、兵士たちに魔法を見せてその力を示したように、皇族や貴族たちに、リィカの実力を見せて認めさせることができる機会なのだ。
リィカは、しかし再び首を横に振った。
「………………………やる。やらせて下さい」
「ああ、分かった」
アレクは優しく笑う。
激励を込めて唇にキスを落とせば、リィカの顔が真っ赤になった。
リィカが皇帝と面会するとしたら。
その状況を考えると、その人となりを知っておかないと、容易に返答はできない。
アレクの問いの意味を分かっているのだろう。
返すトラヴィスに、戸惑いはない。
「皇帝陛下はご高齢のため、伏せっております。皆様方がお会いするとしたら、皇帝陛下ではなく、皇太子殿下になります」
アレクも思いだした。
軍議の時、今帝国を治めているのは、皇太子だと言っていた。
ルバドール帝国では、皇帝は終身制だ。亡くならない限りは、次の皇帝は即位できない。
しかし、高齢で伏せっている皇帝に政治が行えるはずもなく、皇太子が実質上の皇帝として、采配を振るっているのだ。
皇太子は、皇帝の孫に当たる。
では皇帝の息子、皇太子の父親はどうしているのか、と言えば、皇位継承権を放棄して、出て行ってしまったらしい。
皇帝など継がず、自分のやりたいことがあったが、子供が自分しかいなく、後を継ぐしかない。
そう思っていた皇帝の息子だったが、一つ方法がある事に気付いた。
他に跡継ぎがいないなら、作ってしまえば良い。
そこで、一人の娘に目を付けた。
頭はいい。事務的な事は大体できるし、政務への理解もある。
だが、女性は奥に入り、男性の一歩後ろにある事を美徳とするルバドールにおいて、そういう娘は憚られる。
その娘を妃として迎えた皇帝の息子は、二男一女をもうけた。これで文句はないだろうと、後のすべてを妃に押しつけて、皇宮を出ていった。
皇帝の息子と妃は離縁したわけではなく、厳密に言えば、別居状態、という事になる。
これは、妃が皇族に残るための処置だ。そうでなければ、子供達の両親が共にいなくなってしまう。
残された妃は、子供達の教育をしっかり施し政務を支える、なくてはならない存在だ。
というのが、現在のルバドール帝国の、皇族事情らしい。
「……皇帝陛下のご子息は、現在帝都にて平民と変わらぬ生活をしております。皇太子殿下を始めとしたご兄弟方は、そんな父親に時々街に降りて会いに行っておりますので……、平民に理解はあるといいますか、街中に出ることを楽しんでいると言いますか……」
何とも歯切れの悪いトラヴィスの説明だ。
「周囲公認で街に降りているのか。それは何というか……」
羨ましい、と言いかけて、アレクは口を噤んだ。
十五歳で学園に入学するまでは、秘密の通路から抜け出して、街に行って冒険者をやっていたアレクだ。
国王たる父親にバレて、黙認してもらっていたが、大っぴらに認められていたわけではない。
ちなみに、皇帝の息子が何をしているのかは、言葉を濁して教えてくれなかった。
「礼儀作法や言葉遣いについては、よほどの事がなければ、問題視されることはないでしょう。周囲のうるさい者どもは、人払いをすればいい話ですから」
「そうか…………」
そういう人間であれば、問題が起こる可能性は低いだろう。
おそらく、リィカへの配慮もしてくれるはずだ。
「リィカ、作ってみるか、献上品」
「えっ!?」
がしかし、リィカの顔は真っ青だ。
首を横に振っている。
「そちらと同様のものであれば、献上品として何も遜色ない事は、私が保証しよう。……そうだな。もしできれば、もう少し大きい方がより相応しい、と言えると思うが」
トラヴィスにまで言われて、リィカが泣きそうになっている。
アレクは、リィカに手を伸ばした。
頬に触れる。
「無理か?」
アレクは無理強いするつもりはなかった。
絶対にやらなければいけないことではない。
だが、ルバドールの国境で、兵士たちに魔法を見せてその力を示したように、皇族や貴族たちに、リィカの実力を見せて認めさせることができる機会なのだ。
リィカは、しかし再び首を横に振った。
「………………………やる。やらせて下さい」
「ああ、分かった」
アレクは優しく笑う。
激励を込めて唇にキスを落とせば、リィカの顔が真っ赤になった。
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