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第九章 聖地イエルザム

ルバドール帝国へ

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一夜明けて、次の日。

出発する一行を見て、イグナシオが「荷物は……」と言いかけたが、それ以上は何も言わなかった。

ちなみに、リィカは旅の衣装を着ている。
当然なのだが、それを見たアレクは残念そうな顔をしていた。



鍛冶士のところに向かう。
イグナシオも、街から出るまでは、と一緒に着いてきた。

鍛冶士は、イグナシオを見ても、そして顔を知らない一行を見てもまるで気にせず無視して、持っていた剣を泰基に差し出した。

受け取った泰基は、鞘から剣を抜く。

何も言っていないのに、今まで使ってきたバスタードソードだ。
今までよりも、手に馴染む感じがする。剣が振りやすい。

「ありがとうございます」

自然に顔がほころんで、鍛冶士に礼を伝える。
しかし、鍛冶士は不満そうだった。

「フン、もったいねぇ。あまり一所に留まれないのは分かるが、どこかでしっかり剣を作ってもらえ。今までに比べりゃマシだろうが、まだまだ剣の方が負けてる」

意外な言葉だった。
驚いて、鍛冶士を見返す。

すると、また鍛冶士は「フン」と鼻を鳴らした。
一通の手紙を泰基に差し出した。

「これからルバドールに行くんだろう? 留まれそうなら、帝都のサムって鍛冶士を訪ねろ。オレの兄弟子だ。変人だが、腕はいい」

この鍛冶士に変人と言われるそのサムとやらは、一体どんな人物なのか。
正直会うのが怖いが、それでも差し出された手紙を受け取る。

「ありがとうございます」

もう一度礼を伝えた。
それを聞くことなく、鍛冶士は戻ってしまい、泰基は苦笑するしかなかった。



「そう言えば、名前を伺うのを忘れてた」

街の外に向かって歩きつつ、泰基は鍛冶士に聞こうと思ってすっかり忘れていた事を思い出した。
泰基の言葉に、返したのはイグナシオだった。

「鍛冶士にとって、自らの名前はたいした意味は持たない。そう言っている爺さんです。自分を現すのは、名前ではなく自分が作った剣だから、名は名乗らない。そういう主義らしいです」

「なるほど。……偏屈ですね」

「ええ、全く」

イグナシオは、鍛冶士の名前を知っているのだろう。
それでも言わないのは、偏屈な鍛冶士の意思を尊重しているからだろうな、と泰基は思った。


※ ※ ※


街の門の所で、イグナシオが立ち止まった。

「皆様方のご無事と、旅の達成を、心よりお祈り致します」

深く一礼した。



ここから、国境まではほぼ一日。
そして、国境を越えれば、魔族との戦いの最前線、ルバドール帝国。

国境を越えて、やはり一日ほど歩くと、ルバドール帝国の最初の街、カトリーズがあると言うことだ。

ルバドールの帝都ルベニアまでは、そこからさらに一ヶ月以上かかるらしい。さすが巨大帝国というべきか、規模が違った。

ちなみに、魔族と戦っている防衛線とやらまでが、どのくらいあるのかは分からないらしい。


「できれば、押し寄せてるだろう魔族の相手は帝国に任せて、俺たちは先に行きたいんだが」

アレクは割と本気で言った。

ルバドール帝国が、第三の防衛線が破られる前に勇者を送れと言った、という話が気になってしょうがない。面倒な事になりそうな気がする。

「でもさ、魔族が押し寄せてるって事は、その先に進もうと思ったら、結局魔族を倒さないと、先に行けなくない?」

暁斗の疑問に、アレクの足が止まりかける。

「確かにそうだよな……」

考えていなかった。

これまでの魔族との戦いの歴史では、勇者の一行は、魔族が押し寄せているルバドール帝国を超えて、魔国に入っている。

魔王を倒すまでルバドール帝国が魔族の侵攻を食い留めた、とあるので、当たり前に先に行けるものだと考えていたのだ。

「ルバドールに行けば、分かるか」

つぶやいて、歩みを進めたのだった。

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