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第四章 モントルビアの王宮

ルイス公爵

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王太子が馬車で逃げ帰ると、ベネット公爵は呆然として動かなくなった。
そのうち誰かが来るだろう、と言うことで、ベネット公爵はそのままにして、一行はルイス公爵邸に向かうことになった。

小さい馬車で来た、というルイス公爵の言うとおりに、小さかった。
それでも、勇者一行六名+ルイス親子二人、合わせて八名、詰めれば乗れなくもない。

しかし、出入り口は狭い。
リィカを抱えたままでは乗れないことを理解したアレクが、一度リィカを下ろした。

ガクッ

地面に足を付けたリィカが、そのまま崩れ落ちる。
「……あれ、なんで、もうちょっと力入ったはずなのに……」
ギリギリでリィカを支えたアレクは、表情を険しくする。
二日も食事を食べていないのは確かに大変だが、それにしても動けなさすぎる。

「……ホッとして力抜けちゃったかなぁ?」
のんきにつぶやくリィカを、アレクは後ろから抱え直す。

「……へっ!?」
リィカの驚く声を聞きながら、左手を腹部に回し、右手で太ももを支えて、足を宙に浮かせると、馬車に入った。
下座に腰掛けると、自分の膝の上にリィカを座らせて、両手ともリィカに体に手を回す。

「……アレク!?」
「遠慮せず、俺に寄りかかっていいからな、リィカ」
「そうじゃなくて……!」
リィカの悲鳴は、呆れた声が響いて止まる。

「なぜ、アレクシス殿が下座に座っているんだ?」
ジェラードだ。抱えているリィカのことは、あえてなのか、指摘しようとしない。

「上座は、勇者二人と、ルイス公爵だろう。俺たちは四人詰めて座るぞ」
馬車の中は、横長の座席が二列向かい合わせになっている形だ。
八人なのだから、普通なら四人ずつだが、アレクはそこからあっさりとリィカを外す。

「……まあ、いいけどさ」
何かを悟ったかのようにジェラードは言って、アレクの隣に腰を下ろす。
全員が馬車にそろい、出発するが、誰もリィカが抱えられていることに、触れようとしなかった。


フェルドランド・フォン・ルイス。ルイス公爵がそう名乗り、全員の紹介が終わった所で、ルイス公爵が、リィカに頭を下げた。

「この度は、我が国の者がしでかしたこと、誠に申し訳なかった」
「……へっ? え……えと、その……」
パニックになるリィカに、アレクが軽く息を吐く。

「ルイス公爵。そのように頭を下げられては、リィカは許すしかなくなります」
「そのために頭を下げたのですがね。まあでも確かに卑怯かな。……それよりも、あの王太子たちをどうにかするのが、一番だね」

ルイス公爵は、リィカを見た。
馬車が少し揺れるだけで、体が大きく動いている。
それをアレクが支えて、何とか座っていられる状態だ。

かつて、王太子らにおそらく犯されたのだろう、衰弱死した女性たち。
リィカも、かなりの衰弱状態だ。
知らなければならない、とルイス公爵は思う。

「リィカ嬢。辛いことを思い出させてしまうかも知れないが……、王太子と会ったのだろう? その時の状況を教えてくれないだろうか」
「……………えっ?」
小さくつぶやいて、そのまま口を噤むリィカに、ルイス公爵は辛抱強く語りかける。

「過去何度も、王太子らと関わったと思われる女性たちが、衰弱死している。しかし、何も証拠が見つからず、それらの事件はすべて闇に葬られたままだ。これからの犠牲者をなくすためにも、君の知っている事を話してくれないだろうか」
無言のままのリィカが、わずかに視線を動かしたのを見て取る。

「話をして、皆に心配を掛けたくない、かな?」
苦笑しつつルイス公爵が言えば、リィカが体を強張らせた。後ろから抱えているアレクには、丸わかりだろう。

「今さらだね。彼らはずっと君のことを心配している。ここまで来たら、何も話さず隠す方が、よほど心配を助長させるよ」
ジェラードが言えば、リィカはうつむいてしまった。
ジェラードに少し咎めるような視線を送り、ルイス公爵は切り出した。

「とは言っても、こちらが情報をもらうだけでは不公平だ。代わりに、君の知りたがっていたことを教えよう」
いったん言葉を切る。顔を上げたリィカは、首をかしげている。

「あの男の名前は、ディック・フォン・ベネット。我が国に長く続く、ベネット公爵家の現当主だ。魔法師団の師団長もしているが、魔力量が多いだけで魔法はほとんど使えない、という困った師団長だね」
何のことか分かったんだろう。リィカが大きく目を見開いた。

「君の言うとおり、あの男は17年前にアルカトル王国へ行っている。レイズクルス公爵に招かれて、アルカトル王国内を視察して回ったんじゃなかったかな。屋敷に帰って資料を見れば、どこをどう回ったのかも教えられる。他にも、あの男の事で知りたいことがあれば、私の分かる範囲で教えよう」

「…………いえ、それだけ伺えれば十分です。ありがとうございます」
リィカは、頭を下げる。
仲間たちが疑問の視線を向けるが、それに対してリィカは何も反応を示さなかった。

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