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魔法学園編

159 英明の手足 01(宰相視点)

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 リヒト様が魔法学園に行っていた半年間、帝国内を周遊していた時でもちょくちょく城にお戻りになっていたリヒト様が全くお戻りにならなかったために王と王妃は食が細くなり、痩せていった。
 いつもならば王妃を励ますヴィント侯爵までリヒト様と会えないことがストレスなようで両殿下と同様に食が細くなっていた。

 魔法学園が閉校する春になるとリヒト様はお戻りになり、まずはご両親とヴィント侯爵の食事改善を始めてくれました。
 本当に、我が国の王子は誰よりも大人でご立派です。

 徐々に気力と体力を取り戻してきた両殿下に私は書簡を積み上げた。

 内政の書類も多いが、他国からの書簡も多い。
 魔法学園建設の話が他国に広まり、魔法学園が実際に始まるまではリヒト様への婚約の申込書が多かったのだが、リヒト様にはすでに婚約者がいることと、たとえ今の婚約が破談したとしてもオーロ皇帝の孫娘であるナタリア様がリヒト様に思いを寄せているという話が各国に伝わっているため、オーロ皇帝と魔塔主のお気に入りのリヒト様を取り込みたかった各国からの縁談話はなくなった。

 次に来た書簡は、エトワール王国と国交を結びたいという話だった。
 しかし、エトワール王国にはまだ輸出できるような商品は多くない。
 ドレック・ルーヴの商会のおもちゃと少量の作物くらいのものだろう。

 オルニス国が砂糖や塩などと交換で質の良い人工水晶を譲ってくれるものの、その活用法はまだリヒト様の指示で実験中であり、他国に譲れるほどの余裕はない。
 そもそもエトワール王国とオルニス国の国交は秘密である。

 もちろん、物のやり取りばかりが国交ではないが、返せるものもないのに相手から一方的にさまざまなものを送られてしまうと借りが大きくなり、足元を見られることになる。
 ただでさえ、エトワール王国の国力は他の国よりも小さいのだ。
 鎖国状態だったこともあり、帝国内では最下位だと予想される。

 今はリヒト様のお力だけで他国と肩を並べようとしているだけの国が他国からもらうだけでは、それがいつかリヒト様の足を引っ張ることになる。



「エーリッヒ、我々はリヒト様のお力になれる日が来るのだろうか?」

 今はただただリヒト様の邪魔にならないように気を付けることしかできない。
 二人きりの夕食の席でそのようにため息をこぼせば、エーリッヒが笑った。

「そのように落ち込む暇などありませんよ。リヒト様は後退も停滞もしません。前進あるのみ……と、ご本人が考えておられるかどうかはわかりませんが、リヒト様には止まることを許されないほどの求心力があります。私だって自分では力不足では? と悩む日々がありましたが、悠長に悩んでいる間にリヒト様に第二補佐官を持っていかれてしまいました。できることなら私がお力になりたかったのに、ちょっと足元を見ている間に第二補佐官にリヒト様との貴重な仕事を取られてしまったのです」

 学園創設に関わる重要な仕事をリヒト様が自分ではなく第二補佐官に任せたと愚痴っていたことがあったことを私は思い出した。
 しかし、どう考えても手元にあった業務だけでエーリッヒは手一杯だったはずだ。

 学園創設にまで手が回るはずはないのだが、リヒト様の仕事ぶりを身近で見れる役目を他の者に取られたことがよほど悔しかったようだ。
 とはいえ、リヒト様がエーリッヒばかり頼っていた頃には、他の補佐官がエーリッヒをとても羨ましがっていたのだが。

「クリストフはゲドルト様との仕事ばかりで、なかなかリヒト様の功績を目の当たりにすることはないでしょうが、些細なことで落ち込んでいては今後リヒト様にはついていけませんよ」

 若干ドヤッとしているエーリッヒに私はすこしムッとする。

「私だってリヒト様の功績は知っているよ」

 魔塔を誘致して皇帝の興味を引き、帝国に招かれて直接皇帝と交渉して我が国を帝国傘下に入れさせた。
 そのことによって我が国でも帝国法が施行され、長年捉われてきた悍ましい慣習から解放されたのだ。

 さらに、エトワール王国には大昔に死んだドラゴンの魔力が満ち、そのおかげで魔物の被害は少ないし、魔力量の高い農作物が取れることを突き止めた。
 ドレック・ルーヴの商会の後ろ盾になることで利益を得ることが可能になったし、商会が大きくなれば雇用も増える。
 オルニスとの交易だってリヒト様の功績だし、魔法学園を作り、他国から王子王女が来ることで経済活動が活発になった。

 そこまで考えて、現地調査に出向くエーリッヒとは違い、私は書面上でしかその功績を知らないのだと気づいた。
 全て、書面上で知っていることで、リヒト様が実際に功績につながる行動をしているところや交渉をしている場面を見たことはなかった。

 宰相としてゲドルト様の側で仕える私とは違い、エーリッヒはリヒト様と度々資料室に行ったり、調査にも同行したり、魔法学園の建設中や建設後にも何度かリヒト様のお供をしている。

 私は途端にエーリッヒのことがとても羨ましくなった。

「学園についてのことは第二補佐官に譲るとしても、ダンジョンのことはもうすこし関わらせてもらえればいいのですが、その分野はリヒト様は全く我々に仕事を振ってくれないのです」

 魔法学園の授業で魔物討伐に向かった先でリヒト様はダンジョンを浄化させて消滅させたそうだ。
 ダンジョンを消滅することができるなど、これまで聞いたこともない。

「魔塔の中にダンジョンの研究者がいるのだから、専門家に任せる他ないのではないか?」
「でも、リヒト様はダンジョンの浄化方法をオーロ皇帝には我々よりも早く報告されたようで、ダンジョン浄化についての仕事を任されているようなのですが、そのことについてはまだ報告してくれていません」
「リヒト様から聞いたのではないのだろう? なぜ、そのような情報があるんだ?」

 リヒト様が報告していないのに、エーリッヒはなぜ皇帝がリヒト様に仕事を任せたなどと考えているのだろうか?

「リヒト様は貧民街を改革して独自の情報屋を作ったのですが……」

 至って普通に話を進めるエーリッヒに「ちょっと待て!」と私は一旦話を止める。




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