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その世界に降臨する者
054・魔神ベルゼブイ
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光輝く炎を纏ったベルゼブイと、黒い炎を纏ったマリー。
二人の攻防は、激しさを増し、周囲の温度を上昇させていく。
「ぐぬぬぬ、この姿をもってしても・・・。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
明らかに疲労が激しいマリーと、ゆとりがあるように見えるベルゼブイ。
しかし、お互いに戦いの結果は見えていた。
戦いの結果、それは・・・。
ベルゼブイの敗北という結果だ。
ベルゼブイの放つ光輝く炎では マリーを傷つけることができず、ベルゼブイの直接攻撃でしか傷を負わせることができない。
逆にマリーの召喚する黒い炎は、炎に耐性ができたはずのベルゼブイの身体を 容赦なく焼き溶かしていく。
しかし、炎の扱いに慣れていないのか、マリーは体力を激しく消耗しているようだ。
「はぁ、はぁ、ベルゼブイ、その命。
神に返上しなさい。」
「ぐぬぬぬぬ、我こそが神!
我こそが!我こそが!」
ベルゼブイは 両手を高く掲げると、炎を召喚し何やら呪文を詠唱し始めた。
その様子をみていたジャスがマリーに警告する。
「マリーさん、ベルゼブイの頭上、大気が歪んでます!」
ベルゼブイの炎は耐えきれると踏んでいたマリーは、まさに突撃をする直前であった。
「くぬぬぬぅ!
風の刃に切り刻まれろ!」
ベルゼブイの頭上から、見えない風の刃がマリーを襲う。
マリーは、ジャスの警告もあり、防御魔法を召喚していたため、風の刃の直撃を免れる。
ベルゼブイは、ジャスに目標を切り替えるも、マリーが目の前に立ちふさがり、ジャスを攻撃することもできない。
周囲を見渡したベルゼブイは、観念したのか両手を下しマリーを見つめる。
「ぐふふ、詰んだようだな。」
「そのようね。」
「ぐふ、ぐふふ、
わしじゃない。お前たちだ。」
不敵な笑みを浮かべるベルゼブイを睨みつけるように、マリーが返答する。
「どういう意味よ。
あきらかに 形勢不利なのは、あなたの方でしょ。」
「わしは天界の天使長官として長く君臨し続けてきた。
多くの天使たちを導きながら。」
「・・・で、いまさら命乞いでもするつもりなの。」
「ぐふふ、わしの真の姿は 使い魔。
その使い魔が、天使たちを導いてきた徳が貯まっておる。
全ての徳を使い、魔神へと転生する。」
「魔神への転生?
できるわけないじゃない。神になるなんて。」
「ぐふふ、
果たしてどうかな。
やっと。
・
・
・
やっと、世界樹から抽出した神の力が染んできたわい。」
ベルゼブイが、そう言い終わると周囲を転生の光が取り囲む。
「だめ!」
ベルゼブイの転生を阻止しようと攻撃を加えたのだが、すでに転生の光を纏ってしまったベルゼブイにマリーの攻撃は届かない。
転生の光がベルゼブイから消えさえると、そこには禍々しい魔力を放つ樹木の姿があった。
マリーの近くに寄っていたジャスが、口を開く。
「マリーさん、ベルゼブイ長官は樹木へと変わってしまったんでしょうか・・・。」
「世界樹の魔力が強すぎたってことかな。
でも、なんて禍々しいのかしら。
神となりたかった魔王ベルゼブイの樹、まさに魔神樹って感じだよね。」
「ですね。
最期は、あっけないものですね。」
「うふふ、ほんとだね。
さてと、魔王城に帰るとしよっか。」
マリーは 女神の翼を展開し、ジャスに手を差し伸べる。
ジャスは マリーの手を握り、笑顔を見せた。
「よかった、ハッピーエン・・・!!?」
ハッピーエンドと口にしようとしたジャスの目に映る瞳には、魔神と化した樹木の攻撃を受け、女神の翼を引きちぎられるマリーの姿があった。
「マリーさん!!!」
ジャスは繋いでいたマリーの手を握りしめ、傷を負ったマリーを抱き寄せる。
マリーは ジャスに引き寄せられながらも黒い炎を召喚し、魔神樹に反撃を試みる。
「ヤバイ、油断してた。」
魔神樹も同じく、黒い炎を召喚し、マリーの炎を相殺したようだ。
「ぐぅおぉぉぉ!」
魔神樹は、マリーから奪った翼を吸収するかのように幹に取り込むと、その根を天界に張り巡らせながら、さらに巨大化していく。
「なんなのよ、魔力が大幅に増加してるじゃない!」
「マリーさん、あれ!」
ジャスの指さす方に視線を向けると、魔神樹の枝に果実が実っているのに気付いた。
「ま、まさかね。」
「まさか、分裂とかじゃないですよね。」
魔神樹は、その果実を大きく実らせると、その実を大地へと落とした。
その熟した果実は、大地に落ちたとたん腐りはじめ、周囲に瘴気を放ち始める。
魔神樹の果実から放たれた瘴気に充てられ、大地は腐敗し、再び魔神樹へと吸収されていく。
腐敗していく天界を見渡しながら、マリーがジャスに微笑んだ。
「こんな結末とは、考えなかったな。
でも、天魔界を護る為。
・・・仕方ないよね。」
「マリーさん?」
「ジャスちゃん、いまから私が祈りを捧げてアレを食い止めるわ。」
「マリーさんが祈りを捧げる・・・。
もしかして、聖書にある神々の祈りですか。」
「う、うん。
知ってるんだ・・・。」
「はい。知ってます。
神々の祈りを使うのは、絶対にイヤです!」
「ジャスちゃん・・・。」
ジャスは、神々の祈りというものを知っているからなのか、目に涙を浮かべながら、マリーの提案に反対する。
「神々の祈りは、神様がその肉体を犠牲にして奇跡を起こす方法ですよね。
そんなの絶対に・・・。」
「そんな顔しないで。
こうでもしないと、アレの浸食は止められないわ。
それに、わたしは死ぬわけじゃない。
この大地と魂を共有す・・・。」
「イヤです!
絶対にイヤです!」
「ジャスちゃん・・・。」
マリーの意見に反対するジャスは、胸のあたりで拳を握ると、何かを決心したような顔をしてマリーに提案した。
「マリーさん、わたしに任せてもらえませんか。
わたし、一つだけ食い止める方法を知ってます。」
「ジャスちゃんが?
いったいどんな方法なの?」
マリーの質問に、ジャスは困った顔をみせるが、すぐに真っすぐにマリーを見つめる。
「わたしの知っている方法は、天魔界の常識が根底から変わってしまう危険な魔法です。
わたしが一度だけ使える、たった一つの願い事。」
「願い事?」
ジャスは 小さく頷くと、より一層 真剣な表情でマリーを見つめる。
「マリーさん、簡単に魔法が使えない世界が来ても、
天使も悪魔も使い魔も、人間たちだって、みんなみんな、仲良くやれますよね。」
説明を終えた途端、不安そうな表情を見せるジャスの手を握り、マリーが優しく答える。
「ええ、もちろんよ。
いまの天魔界の住人なら、仲良くやっていけるわ。
もし争うようなら、わたしが行って解決してあげるからさ。」
マリーの言葉を聞き、ジャスは深く頷くと、祈るように目を閉じた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「創世の神の名において命ずる。
いま、この世界は安定を始めた。
竜魂魄を解き放つ。
エララちゃん、お願い。
・
・
・
我、魂に命ずる。
この並行世界から魔法の概念を打ち消し、新たなる道を歩む力を与えたまえ!」
ジャスが詠唱を終えると、魔神樹に蓄えられた魔力が、大幅に下がり始める。
いや、魔神樹の魔力が下がるという表現は正しくないだろう。
この天魔界に漂う魔力そのものが消滅を始めた。
「魔力が・・・消滅していく。」
「マリーさん、この世界に彷徨う魔力は消えてなくなるんじゃないようですよ。
それぞれに帰る場所に帰るって、エララちゃんが言ってました。」
「エララちゃん・・・創造神エララのこと?」
「さあ?
エララちゃんは、エララちゃんです。」
そんな二人の背後から、小さく縮んできた魔神樹が襲い掛かる。
マリーは、魔力を放出してしまい 動きの緩慢になった魔神樹の攻撃を軽く回避すると、ジャスに声をかけた。
「魔神とはいえ、ベルゼブイは純粋な神になったのよ、普通の攻撃では倒すことはできないわ。」
「ええ、ならコレの出番ですね。」
ジャスが腰に差した魔剣に手を添える。
「まさか、こんなとこで役に立つとはね。」
「ほんとですね。」
マリーは 魔神樹の注意を引くように、魔神樹に戦いを挑んだ。
魔神樹は 動きが速く威力の高い攻撃を繰り出すマリーに気を取られ、ジャスから注意が完全にそれていた。
「いまよ、ジャスちゃん!」
マリーの号令に大きく頷くと、ジャスは 魔剣キル・グラムを引き抜き、身構える。
そして・・・。
「世界の命を守るため、空より舞い降りた、
愛と正義の美少女天使、スーパージャスティス!
愛の天罰、落とさせていただきます!」
「!!?」
「うおぉぉぉ!!!」
ジャスの放った斬撃は、魔神樹の枝先をかすめた。
(しまったー!
名乗るのに夢中で、外しちゃったーーー!)
焦るジャスは 追撃を加えようと、魔神樹の方を振り返る。
「あ、あれ?」
魔神樹は、ジャスの魔剣が切りつけた枝先から 徐々に光の粒へと変化していく。
全身が光の粒へと変化した魔神樹は、開放されるように空へと昇り、消え始めた。
「ジャスちゃん、やったね!
一時はどうなるか心配だったけど、あの名乗りみたいなのも意味があったんだね!」
「あはは、そうですね。
・
・
・
ごめんなさい、意味なく夢中になってました。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・ま、いっか。
ジャスちゃん、魔王城に戻りましょう。」
「はい!」
マリーとジャスは、手をつなぎ 予備の指標玉を起動して魔王城へと帰っていった。
しばらくすると、マリーたちと入れ違いでやってきた、消え去りそうな使い魔が ベルゼブイだった光の粒に触れた。
すると、光の粒となり消え去りかけていたベルゼブイの声が天界の穏やかな風に乗り聞こえてきた。
「ぐぬぬ、わしは、わしは・・・。」
「もう終わりにするニャン。」
「使い魔などに言われる筋合いはないわ!」
「父さん、相変わらずなんだニャン。
そんなんだから、魔法学院の参観日でも浮いてしまうんだニャン。」
「お、お前は!?」
「俺、ずっと近くにいたニャン。
だけど・・・名乗れなかったニャン。」
「アマン、すまなかった。」
「もう気にしてないニャン。
俺、帰魂の儀を受けてきたニャン。
これから、父さんの犯してきた罪を償うために。
この天魔界を再生させるニャン。
・
・
・
まさか、ここまで酷いとは思ってなかったけどな。」
「・・・。」
「わしも連れてってくれ。」
光の粒となったベルゼブイと共に、消え去りそうな使い魔も天へと帰るように光の粒となり舞い上がる。
「おかえり、アマン。
もう、お前の手を離さないぞ。」
「父さん、いままでありがとう。
・
・
・
ただいま。」
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二人の攻防は、激しさを増し、周囲の温度を上昇させていく。
「ぐぬぬぬ、この姿をもってしても・・・。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
明らかに疲労が激しいマリーと、ゆとりがあるように見えるベルゼブイ。
しかし、お互いに戦いの結果は見えていた。
戦いの結果、それは・・・。
ベルゼブイの敗北という結果だ。
ベルゼブイの放つ光輝く炎では マリーを傷つけることができず、ベルゼブイの直接攻撃でしか傷を負わせることができない。
逆にマリーの召喚する黒い炎は、炎に耐性ができたはずのベルゼブイの身体を 容赦なく焼き溶かしていく。
しかし、炎の扱いに慣れていないのか、マリーは体力を激しく消耗しているようだ。
「はぁ、はぁ、ベルゼブイ、その命。
神に返上しなさい。」
「ぐぬぬぬぬ、我こそが神!
我こそが!我こそが!」
ベルゼブイは 両手を高く掲げると、炎を召喚し何やら呪文を詠唱し始めた。
その様子をみていたジャスがマリーに警告する。
「マリーさん、ベルゼブイの頭上、大気が歪んでます!」
ベルゼブイの炎は耐えきれると踏んでいたマリーは、まさに突撃をする直前であった。
「くぬぬぬぅ!
風の刃に切り刻まれろ!」
ベルゼブイの頭上から、見えない風の刃がマリーを襲う。
マリーは、ジャスの警告もあり、防御魔法を召喚していたため、風の刃の直撃を免れる。
ベルゼブイは、ジャスに目標を切り替えるも、マリーが目の前に立ちふさがり、ジャスを攻撃することもできない。
周囲を見渡したベルゼブイは、観念したのか両手を下しマリーを見つめる。
「ぐふふ、詰んだようだな。」
「そのようね。」
「ぐふ、ぐふふ、
わしじゃない。お前たちだ。」
不敵な笑みを浮かべるベルゼブイを睨みつけるように、マリーが返答する。
「どういう意味よ。
あきらかに 形勢不利なのは、あなたの方でしょ。」
「わしは天界の天使長官として長く君臨し続けてきた。
多くの天使たちを導きながら。」
「・・・で、いまさら命乞いでもするつもりなの。」
「ぐふふ、わしの真の姿は 使い魔。
その使い魔が、天使たちを導いてきた徳が貯まっておる。
全ての徳を使い、魔神へと転生する。」
「魔神への転生?
できるわけないじゃない。神になるなんて。」
「ぐふふ、
果たしてどうかな。
やっと。
・
・
・
やっと、世界樹から抽出した神の力が染んできたわい。」
ベルゼブイが、そう言い終わると周囲を転生の光が取り囲む。
「だめ!」
ベルゼブイの転生を阻止しようと攻撃を加えたのだが、すでに転生の光を纏ってしまったベルゼブイにマリーの攻撃は届かない。
転生の光がベルゼブイから消えさえると、そこには禍々しい魔力を放つ樹木の姿があった。
マリーの近くに寄っていたジャスが、口を開く。
「マリーさん、ベルゼブイ長官は樹木へと変わってしまったんでしょうか・・・。」
「世界樹の魔力が強すぎたってことかな。
でも、なんて禍々しいのかしら。
神となりたかった魔王ベルゼブイの樹、まさに魔神樹って感じだよね。」
「ですね。
最期は、あっけないものですね。」
「うふふ、ほんとだね。
さてと、魔王城に帰るとしよっか。」
マリーは 女神の翼を展開し、ジャスに手を差し伸べる。
ジャスは マリーの手を握り、笑顔を見せた。
「よかった、ハッピーエン・・・!!?」
ハッピーエンドと口にしようとしたジャスの目に映る瞳には、魔神と化した樹木の攻撃を受け、女神の翼を引きちぎられるマリーの姿があった。
「マリーさん!!!」
ジャスは繋いでいたマリーの手を握りしめ、傷を負ったマリーを抱き寄せる。
マリーは ジャスに引き寄せられながらも黒い炎を召喚し、魔神樹に反撃を試みる。
「ヤバイ、油断してた。」
魔神樹も同じく、黒い炎を召喚し、マリーの炎を相殺したようだ。
「ぐぅおぉぉぉ!」
魔神樹は、マリーから奪った翼を吸収するかのように幹に取り込むと、その根を天界に張り巡らせながら、さらに巨大化していく。
「なんなのよ、魔力が大幅に増加してるじゃない!」
「マリーさん、あれ!」
ジャスの指さす方に視線を向けると、魔神樹の枝に果実が実っているのに気付いた。
「ま、まさかね。」
「まさか、分裂とかじゃないですよね。」
魔神樹は、その果実を大きく実らせると、その実を大地へと落とした。
その熟した果実は、大地に落ちたとたん腐りはじめ、周囲に瘴気を放ち始める。
魔神樹の果実から放たれた瘴気に充てられ、大地は腐敗し、再び魔神樹へと吸収されていく。
腐敗していく天界を見渡しながら、マリーがジャスに微笑んだ。
「こんな結末とは、考えなかったな。
でも、天魔界を護る為。
・・・仕方ないよね。」
「マリーさん?」
「ジャスちゃん、いまから私が祈りを捧げてアレを食い止めるわ。」
「マリーさんが祈りを捧げる・・・。
もしかして、聖書にある神々の祈りですか。」
「う、うん。
知ってるんだ・・・。」
「はい。知ってます。
神々の祈りを使うのは、絶対にイヤです!」
「ジャスちゃん・・・。」
ジャスは、神々の祈りというものを知っているからなのか、目に涙を浮かべながら、マリーの提案に反対する。
「神々の祈りは、神様がその肉体を犠牲にして奇跡を起こす方法ですよね。
そんなの絶対に・・・。」
「そんな顔しないで。
こうでもしないと、アレの浸食は止められないわ。
それに、わたしは死ぬわけじゃない。
この大地と魂を共有す・・・。」
「イヤです!
絶対にイヤです!」
「ジャスちゃん・・・。」
マリーの意見に反対するジャスは、胸のあたりで拳を握ると、何かを決心したような顔をしてマリーに提案した。
「マリーさん、わたしに任せてもらえませんか。
わたし、一つだけ食い止める方法を知ってます。」
「ジャスちゃんが?
いったいどんな方法なの?」
マリーの質問に、ジャスは困った顔をみせるが、すぐに真っすぐにマリーを見つめる。
「わたしの知っている方法は、天魔界の常識が根底から変わってしまう危険な魔法です。
わたしが一度だけ使える、たった一つの願い事。」
「願い事?」
ジャスは 小さく頷くと、より一層 真剣な表情でマリーを見つめる。
「マリーさん、簡単に魔法が使えない世界が来ても、
天使も悪魔も使い魔も、人間たちだって、みんなみんな、仲良くやれますよね。」
説明を終えた途端、不安そうな表情を見せるジャスの手を握り、マリーが優しく答える。
「ええ、もちろんよ。
いまの天魔界の住人なら、仲良くやっていけるわ。
もし争うようなら、わたしが行って解決してあげるからさ。」
マリーの言葉を聞き、ジャスは深く頷くと、祈るように目を閉じた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「創世の神の名において命ずる。
いま、この世界は安定を始めた。
竜魂魄を解き放つ。
エララちゃん、お願い。
・
・
・
我、魂に命ずる。
この並行世界から魔法の概念を打ち消し、新たなる道を歩む力を与えたまえ!」
ジャスが詠唱を終えると、魔神樹に蓄えられた魔力が、大幅に下がり始める。
いや、魔神樹の魔力が下がるという表現は正しくないだろう。
この天魔界に漂う魔力そのものが消滅を始めた。
「魔力が・・・消滅していく。」
「マリーさん、この世界に彷徨う魔力は消えてなくなるんじゃないようですよ。
それぞれに帰る場所に帰るって、エララちゃんが言ってました。」
「エララちゃん・・・創造神エララのこと?」
「さあ?
エララちゃんは、エララちゃんです。」
そんな二人の背後から、小さく縮んできた魔神樹が襲い掛かる。
マリーは、魔力を放出してしまい 動きの緩慢になった魔神樹の攻撃を軽く回避すると、ジャスに声をかけた。
「魔神とはいえ、ベルゼブイは純粋な神になったのよ、普通の攻撃では倒すことはできないわ。」
「ええ、ならコレの出番ですね。」
ジャスが腰に差した魔剣に手を添える。
「まさか、こんなとこで役に立つとはね。」
「ほんとですね。」
マリーは 魔神樹の注意を引くように、魔神樹に戦いを挑んだ。
魔神樹は 動きが速く威力の高い攻撃を繰り出すマリーに気を取られ、ジャスから注意が完全にそれていた。
「いまよ、ジャスちゃん!」
マリーの号令に大きく頷くと、ジャスは 魔剣キル・グラムを引き抜き、身構える。
そして・・・。
「世界の命を守るため、空より舞い降りた、
愛と正義の美少女天使、スーパージャスティス!
愛の天罰、落とさせていただきます!」
「!!?」
「うおぉぉぉ!!!」
ジャスの放った斬撃は、魔神樹の枝先をかすめた。
(しまったー!
名乗るのに夢中で、外しちゃったーーー!)
焦るジャスは 追撃を加えようと、魔神樹の方を振り返る。
「あ、あれ?」
魔神樹は、ジャスの魔剣が切りつけた枝先から 徐々に光の粒へと変化していく。
全身が光の粒へと変化した魔神樹は、開放されるように空へと昇り、消え始めた。
「ジャスちゃん、やったね!
一時はどうなるか心配だったけど、あの名乗りみたいなのも意味があったんだね!」
「あはは、そうですね。
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ごめんなさい、意味なく夢中になってました。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・ま、いっか。
ジャスちゃん、魔王城に戻りましょう。」
「はい!」
マリーとジャスは、手をつなぎ 予備の指標玉を起動して魔王城へと帰っていった。
しばらくすると、マリーたちと入れ違いでやってきた、消え去りそうな使い魔が ベルゼブイだった光の粒に触れた。
すると、光の粒となり消え去りかけていたベルゼブイの声が天界の穏やかな風に乗り聞こえてきた。
「ぐぬぬ、わしは、わしは・・・。」
「もう終わりにするニャン。」
「使い魔などに言われる筋合いはないわ!」
「父さん、相変わらずなんだニャン。
そんなんだから、魔法学院の参観日でも浮いてしまうんだニャン。」
「お、お前は!?」
「俺、ずっと近くにいたニャン。
だけど・・・名乗れなかったニャン。」
「アマン、すまなかった。」
「もう気にしてないニャン。
俺、帰魂の儀を受けてきたニャン。
これから、父さんの犯してきた罪を償うために。
この天魔界を再生させるニャン。
・
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・
まさか、ここまで酷いとは思ってなかったけどな。」
「・・・。」
「わしも連れてってくれ。」
光の粒となったベルゼブイと共に、消え去りそうな使い魔も天へと帰るように光の粒となり舞い上がる。
「おかえり、アマン。
もう、お前の手を離さないぞ。」
「父さん、いままでありがとう。
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