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57話 住良木紬

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「師匠、お茶です!」
「お、おう。そしてぬるいな」

 住良木が半ば無理矢理自宅に押し掛けて来て、お茶を入れてくれた。いや、勝手に入れたんだが。
 見た目は地味眼鏡っ子なのにやることが大胆すぎる。

 誘拐になると嫌なので親に確認しろと言ったら、秒で電話をかけて俺に代わった

「すいませんねえ、変な子で」
「え、いや、え?」

 ということで、親御さんの許可を取った上でここにいる。決して誘拐ではないし、連れ込んでもない。
 ただそんなことを説明する前に御崎が現れたのは誤算だ。

「な、な、な、な、な」
「落ち着け御崎、落ち着くんだ」

 御崎が来たタイミングは、住良木が俺の肩の埃を取っていた場面だった。
 なんというラブコメ、これはもうラブでコメ。いやコメでラブかもしれない。

 破壊力のある高校の制服は、御崎の精神を崩壊させるには十分だったらしい。

「動かしてあげる」の能力が自動発動し、俺の身体が天井にピトっと触れ合うぐらいまで浮かんだ。

「キュウ~♪」
「ぷいにゅっ!」
「がうがう!」

 おもち達は俺を風船か何かだと思っているのだろうか。凄く嬉しそうだ。

 天井まで綺麗に加工されているなと思いながら、俺は必死に弁解を続ける。

「だから住良木は俺たちが講演した学校の高校生なんだよ! ほら、制服でわかるだろ!?」
「講演? あ、」

 じぃっと御崎が住良木を見つめている・・・と思う。
 なんせ俺は天井しか見えていない。

「住良木《すめらぎ》紬《つむぎ》です! JK二年生です!」
「じぇい……けい……」

 元社会人の御崎に、その英単語の二つはパワーワードすぎる。

 鼻が潰れるほど天井に擦りつけられた後、俺の誤解は解けたのだった。


「ふうん、師匠ねえ。阿鳥の話に感動したってこと?」
「そうです! 顔もタイプです!」
「住良木、そういうのはやめてくれ」
「でも、御崎さんのことも好きです! おもちも! 田所も! グミも! 雨流さんも! ミリアさんも! 佐藤さんも!」

 長い前髪がふわっと動くと、光り輝いている目が見える。
 太陽みたいな性格をしているのになぜ見た目は大人しそうなのかわからないな。
 ちなみに凄くファンらしく、動画も全てチェックしているらしい。

「住良木、前髪は切らないのか? そのほうが似合うと思うぞ」
「~~~~っっっ!? し、師匠はそのほうが好みですか!?」
「ていっ」

 御崎が、俺の頭を軽くチョップ。

「何すんだよ」
「今のままでも似合ってるじゃない」
「師匠の為なら、今すぐ切ります!」
「その言い方は俺の犯罪係数が上がるからやめてくれ」
「はい! ――ぐう、お腹が空きました!」

 ということで俺が人数分のうどんを作ることになった。
 この凄いテンポだが、まあいいだろう。

 関係ないが、キッチンはアイランド式で最高。
 これならうどんも100人分は作れそうだ。


「おもっち! たどっち! グミっち!」

 あははーと笑いながら、紬は田所を頭に乗せ、両腕におもちとグミを乗せる。
 曲芸に見えるが、能力における力技だ。

「紬ちゃん、それって能力?」
「はい! 身体強化《パーフェクトボディ》って言うんですが、恥ずかしいのでパワーアップって呼んでます!」

 どうみてもそっちのほうが恥ずかしいだろ、というツッコミはやめておく。
 しかし明らかに使い勝手がいい。俺の耐性は未だ不明なことは多い。ダメージは食らうし、痛みも凄まじい。
 更に能力を発動させるにはどうしても貯めが必要だ。

 作り終えたうどんを出すと、みんな喜んでずるずると食べはじめる。

「パワーアップはシンプルに強くなるのか?」
「はい! 魔法は使えないので、己の肉体で戦います!」
「なるほど、そういえばランクは?」

 この年齢の子供たちは、幼い頃からダンジョンが存在している。探索者も身近で、学校では戦闘訓練を受けていたりする。
 ネットでは、冒険者子供《アドベンチャーチルドレン》と呼ばれ、戦うことに抵抗がない。

 実際、雨流もそんな感じだ。

 そして住良木は、手の平に魔力を漲らせた。
 
 赤い――印。

「住良木……もしかして」
「はい、ダンジョンに通ってたらいつのまにかA級になってました! 基本的には前に出てガンガン戦うのが好きなんですが、友達もいなくて……」

 思わず御崎と顔を見合わせる。
 
 そして――。

「「ダンジョンの前衛って興味ある?」」

 ◇ ◆ ◇ ◆

 私は先天性の能力《スキル》保持者《ホルダー》だった。
 両親から期待され、周囲から褒められて育った私は、惜しみなく能力を使い、体育はいつも満点だった。
 けれども、中学生になるとそれがズルだと言われる事が多くなった。

「住良木ってほんと卑怯」
「能力があれば俺だってなー」
「住良木さんって、何考えてるかわかんないよね」

 そして私はいつしか他人との会話を避けるようになった。
 同時に父親が心臓病を患ってしまう。
 お金を得る為、そして半ば現実逃避かのように私はダンジョンに興味を持つようになった。

 田舎のおじいちゃんを説得し保護者になってもらい、両親に内緒で探索者の資格を取得した。

 初めてのダンジョンは――楽しかった。

 身体強化《パーフェクトボディ》を使って戦うことで、お金を得る事も出来るし、素直な賞賛を受けることができる。
 そのおかげでお母さんやお父さんを助けることもできた。

 私の道は――これだと。
 
 ただ高校生になっても相変わらず友達は出来なかった。

 そのとき、私はアトリという配信者を見つけた。
 
 公園で出会ったおもちというフェニックスとの日々は、私の心を癒してくれた。
 今まで魔物は敵だと思っていたが、こんなにも愛らしく家族のように心を通わせることができるんだと。

 毎日、それこそ何度も何度も同じ動画も見た。

 オフ会の応募に外れた時は、枕がびっちょびちょになるくらいまで涙した。

 けれども――驚いたことに、母校にアトリが来てくれた。
 動画で見ていた皆も一緒に。

 そして能力を、大切な個性だと言ってくれた。
 進むべき道は自分で決められる、人は変われるんだと。

 私は心を打たれた。
 もう引っ込み思案な自分は捨てる。

 私は変わる。これからはもっと自信を持つ。

 ――いた。

「あの……山城さん、その……本当に感動しました……」

 アトリさん、あなたは――私の恩人です。
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