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36話 ふよふよと浮かぶ水の仲間が増えました。

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「ガウウウウウ」

 なぜ怒ってるかわからないが、水龍は獰猛な犬のように俺を睨んでいる。
 もしかして、眠りを邪魔したとかそういうテンプレ?

「とりあえず落ち着いてく――」

 鋭く放たれる水のビーム。
 俺は咄嗟に身体を翻《ひるがえ》して回避した。

「落ち着けって!」

 水耐性(極)を習得したというのが本当《マジ》なら無傷かもしれない。
 でも、でもさ……地面凄く抉れてるんだよね。

 試したいけどそれが即死レベルって怖くない!?

 失敗したらお陀仏だよね!?

 ということで、俺は攻撃を受けずに何とか逃げようor戦おうと考えていた。

「ガウウウウ」
 
 うーんでも、逃げ道がない……。
 いや、あるにはある。
 奥に扉が見えるからだ。

 普通に考えると、水龍を倒せばってことだろうけど……。

 ピチュンっ――! ぬおおお!? どうやって倒すんだよ!?

「なあなあ、聞いてくれよ。俺はその扉から――」
「ピチュン!」
「だからさあ別に!」
「ピチュン!」

 気づけば地面が穴だらけ。
 小刻みに炎の充填を使って高速回避しているが、そろそろ切れるかもしれない。

 となると、もう説得は無理か――。

「……いいぜ、だったらどっちが倒れるかまでやろうか」

 そして俺は剣を持つ動作で拳を握った。
 炎の充填を解放し――偽田所ソードを精製。

「ガウウウウ!」
「かっこいいだろ、これでも苦労したんだぜ」

 おもちに協力してもらい、何度も炎の充填を繰り返して習得したのだ。
 本物の田所ソードより威力は下がるが、単体で炎の剣を出す事に成功した。
 防御一辺倒だった俺はもういない。

「さあて、二回戦だ」
「ガウッガウウウ!」

 思い切り放たれる水のビーム。
 一切の手加減なく俺の眉間を狙っているところは称賛に価する。

「けどなあ、もう逃げてばかりじゃねえぜ!」

 水を思い切り弾き返すと、ジュッと炎に触れて気化しながら飛び散る。
 水龍は少し驚いたかのように叫び声を上げると、背びれを動かして移動をはじめた。
 
 体の周りに水辺のようなものが精製され、スピードをあげて動きだす。

「はっ、陸でも関係ないってか」
「ガウウウウウ!」

 勢いよく突進してくるところを回避、離れ際に一太刀を浴びせた。
 だが――、ジュッと音を立ててすぐに身体が元に戻って行く。

 ダメージは与えられていない。

「なるほど、一筋縄ではいかねえんだな」
「ガウウウウ!」

 再び放たれる水のビー、いや、水大砲だ。
 とてつもなく大きな水玉が、俺の身体を覆うぐらい放ってきた。

 咄嗟に剣を解除、身体全体を炎で覆うと、反対に俺が水を蒸発させた。

 同時に、充填が切れたアナウンスが脳内に響く。

「あーあ……。いよいよ確かめる時が来たか」

 水耐性(極)。
 俺が水龍《コイツ》に勝つにはもうこれしかないだろう。

「とりあえず弱いのを一発頼む……な?」
 
 だがそんな希望を聞いてくれるわけもなく、水竜は再び大きな水大砲を吹き飛ばしてきた。
 水耐性(極)を向上させ――身体ごと受け止める。

「ぐ……うううううううう!?」

 思わず目を瞑ってしまうほどの威力だったが――『水を”充水”しました』。

 脳内に響いたアナウンスが、俺の勝利を知らせてくれた。

「ふう……賭けに勝ったぜ……」

 水龍は目が飛び出るほど驚いていた。
 なんかもう、いやめっちゃ驚いてる。子犬みたいだ。

「ガ、ガウ……?」
「さてさて」

 スタスタと無防備に歩く。放たれるビーム。

「ガウウウ!」
『水を”充水”しました』

「ガウウウ!」
『水を”充水”しました』

 まるで怯えた子犬のように後ずさり、壁に追いやられた水竜はガクガク体の水滴を震わせる。

「なんだ、怖いのか?」

 近づくと表情がよくわかった。水龍は俺を倒そうと思ってたわけじゃない。
 ……怖かったんだ。
 それもそうか。俺が突然ここに来たもんな。

「ごめんな、怖がらせて」
「ガウ……ガウ」

 頭を撫でてやると、少し表情を綻ばせた。
 すると――。

『水龍をテイムすることが可能ですが、どうしますか?』

「ガウウウ」
「なんだ、外に行きたいのか?」

 身体を少しくねらせながら、頭をすりすり擦りつけてくる。

「うーん、でも、いいのか? 外に出たら陸地ばっかりだぞ?」
「ガウガウ」

 すると体の周りに水を精製させて、ぴちゅぴちゅと音を立てて、空中に浮く。
 ああ、そういえばそんなことが出来るのか。

「戻ってこれなくてもいいんだな?」
「ガウ!」

 そして扉が開く。

「わかった。じゃあ、これからよろしくな」
「ガウウウ!」

 なんと俺は水龍をテイムしたのだった――。

『ダンジョンボスを討伐《テイム》しました。現在ダンジョン内に存在するパーティーは強制帰還されます』

 次の瞬間、いや扉を開けた瞬間、白い光に包まれたかと思いきや、視界が切り替わる。

「え?」
「外……え、阿鳥!?」

 そこはダンジョンの外だった。
 同じように御崎やおもち、田所、そしてダンジョンに潜っていたと思われる大勢の人たちが騒いでいた。

「ダンジョンボスを討伐《テイム》……?」
 
 後ろにあったダンジョンがもの凄い音を響かせて崩壊していく。
 誰もが振り返って、「だ、誰がやったんだ!?」「まじかよ!?」「どういうことだ!?」と叫びはじめる。

 だが、俺の周りには大きな、それはとてつもなく大きな水龍がふよふよしている。

「キュウ!?」
「ぷいにゅ!?」
「その竜……何? どうしたの!?」

 おもち、田所(喋れなくなっている)、御崎が俺を見る。いや、俺ごと水竜を見る。

『生きてたのかアトリぃ!』『え、なに討伐って?』『水龍じゃんwwwwwwww』
『え、もしかしてテイムしたの?』『やばすぎでしょwww』『まじかよw』

 配信はどうやら続いているみたいだ。

「え、ええと……そ、そうだ。――水龍ゲットだぜ!」

 けれども、誰も突っ込んではくれませんでした。

「……あれ、違った?」
「ガウウウ?」
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