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34話 どうしても聞きたいことはダンジョンの中で

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「阿鳥、この前の出荷分なんだけど計算しといたから」
「はい!」
「阿鳥、ドラちゃんのお風呂用ミルクの補充よろしく」
「はい!」
「阿鳥、おもちゃんとたどちゃんの身体洗ってね」
「は、はい!」

 って、俺のまったりスローライフどこにいった!?

 となるほど、忙しい日々を過ごしていた。
 ミニモンスターたちの世話は思っていたよりも大変で、剛士さんからもらった肥料を機械を使って自作したりとやることもいっぱいだった。ちなみに、御崎は俺以上に忙しいので感謝しています。

「キュウキュウ~!」
「ぷいっにゅー」

 土で汚れたおもちと田所の身体を庭で洗う。
 冷たくて気持ちが良いらしく、二人とも嬉しそうに声をあげた。

「ん……? ぺろっ」

 いや、土かと思ったらチョコレートだった。うまい。

「新ダンジョンの入場許可が下りたから予定通りいく?」
「ああ、そうしようか」
  
 縁側でノートパソコンをカチカチと触っている御崎が、以前から探索委員会に頼んでいたメールを読み上げながら言ってくれた。
 ミニグルメダンジョンの崩壊を防ぐ為に、これからは魔石を集めていく。
 後は単純にお金を稼ぐ為だ。

「にしても、何度見てもこれは怖いよなあ」
『うわあああ、天井が崩れてエエエ、ああああああ』

 二人を洗い終えたあと、インターネット掲示板のスレッドにあった動画、ダンジョンが崩壊していく動画を再生した。
 俺と同じように庭にできたダンジョンが無残にも消えていく姿と、悲壮感たっぷりの撮影者が映っている。

 ただ、うちはドラちゃんがいるので突然に、ということはないらしい。
 雨流の姉からもらった魔石で当面は問題ないとのことだが、たまにチョコレート壁の流れが悪い時がある。
 安全マージンはできるだけ確保しておきたい。

「そういえば雨流の姿最近見てないな」
「あーなんか大変なんだって、お姉ちゃんと揉めてるとか」
「なるほど……」

 最近ネットで騒がれているが、佐藤さんも言っていたように姉と仲がよろしくないらしい。
 ちらっと見た記事からすると犬猿の仲で、雨流の探索者の資格を取り上げようとしているとか。

 魔石をもらったので会ってみたい気もするが、なんか怖いよなあ。

「まあ、雨流が家に来たらきたで騒がしいから落ち着いてていいか」
「キュウキュウ!」
 
 そんなこと言わないの、とおもち。
 はい、すいません。

 まだ残っていた水分をバスタオルで拭いてやると、おもちと田所は喜んだ。
 縁側に座って、ごろんと空を眺める。

「ふう、気持ちいいな」

 ノートパソコンを置いて、御崎がもぐでんと横になって空を見上げた。

「そうね、ほんと気持ちいいわ」

 ふと視線を向けると、御崎がこっちを見ていた。
 なんだか、いつもより妖艶な目だ。

「ねえ、阿鳥」

 思えば彼女とずっと一緒にいる。
 会社を辞めたのも御崎が一つの理由だといっても過言ではない。

 顔もスタイルも、モデルさんと同じくらい綺麗だ。
 加えて頭も良いし、度胸もある。

 ……あれ? すごく良い?

 そう思ってきたら、少し恥ずかしくなってきた。
 御崎も、俺を見つめている。
 うっとりしているような――。

「ねえ、朝ご飯まだ?」

 前言撤回、気のせいでした。

 ◇

 そびえたつ建物。
 今までとは少し変わった丸い無機質で表面がツルツルしている。

「準備はいいか?」
「「「キュ、ぷい、はい」」」

 俺たちは以前と同じように、入口の水晶に手を翳し、その中に入っていく。

「……とりあえず問題なしか、前とは雰囲気が全く違うな」
「そうね、凄く狭い……逃げ道がないってのは不安だわ」

 第一層に到着。以前は草原だったが、ここはよくみる地下ダンジョンという感じだ。
 レンガのようなものが壁に敷き詰められており、真っ黒い道と薄暗い灯。
 
 ちなみにこのダンジョンはB級以上しか入れない。その分、魔物は強くなるが、アイテムとやらも入手できるらしい。
 名前は『魅惑のダンジョン』だそうだ。

「久しぶりー! 懐かしい匂いだ―!」

 同時に聞きなれない声が、頭の上から聞こえギョッとする。
 誰かと思ったが、すぐに思い出す。

「友達いっぱいできるかなー!」

 田所だ。
 そういえばダンジョン内は魔力が満ちているので喋れるんだっけか。

「相変わらず元気だな」
「そうかなー!」

『田所が喋ってる!?』『久しぶりに聞いた』『こんな可愛い声だったんだ』

 いつも通り御崎にお願いし、撮影をしてもらっている。
 最近動画を見始めた人は田所の声にびっくりしているみたいだ。
 まあでも普通はそうか。

「キュウキュウ」
「そうなんだー!」

 その時、田所がおもちと話していることに気づいた。

「……田所、おもちの言葉がわかるのか?」
「わかるよー!」

 何とも驚きだ。いや、そういえば普段から二人でジェソガをしたりしてるもんな。
 待てよ、ということは……おもちの言葉を翻訳してくれるってことじゃないのか?

 俺とおもちは意思疎通がある程度出来ている。

 だがそれでも細かいことはわからない。
 背中を掻いてと言われても、どの部分がいいとか強弱とかがわからないのだ。
 いや結構わかってるか? と、今そんなことはどうでもいい。

 俺はおもちに聞きたいことがあった。
 ずっと、ずっと聞きたかったことだ。

 誰もが一度は想像したことはあるだろう。
 猫や犬、愛するペットに質問できるなら――と。

「田所、ちょっと耳を貸してくれ。いや、どこが耳だ?」
「ボクの体に口を突っ込んでくれたら周りに聞かれないですむよー!」

 と言われたので、むにゅッと口だけ沈み込ませて、ヒソヒソ話。

『何してるんだ?』『窒息死しそう』『こういうゼリーのお菓子あったよね』

 御崎が「何してるの?」と訊ねてきたが、どうしても今、今聞いておきたいんだ。
 ダンジョンの中だと聞けなくなるかもしれないしな。

「――って、聞いてみてくれないか? 配信中だからこっそりな」
「はーい!」

 田所はぴょんぴょん飛び跳ねると、おもちのところへ進んでいく。

 こっそりと言ったのだが、大声で叫びはじめた

「おもちっち! ご主人様がー! 俺と一緒にいて幸せかーって聞いてるー!」
「た、田所!?」

 まさかだった。あまりの恥ずかしさに赤面してしまうが、おもちは「キュウキュウ、キュウキュウ!」と叫んだ。

『寂しがり屋かよw』『でも確かに聞いてみたい質問の一つだよね』『ごくり……』

 俺は不安だった。おもちに無理をさせていないか、こんなダンジョンに連れて来て戦わせて嫌じゃないか。
 固唾を飲んで待っていると、田所が――。

「すっごく幸せで、毎日が楽しいよって、ご主人様!」

 その瞬間、俺は――。

『アトリどうした』『おや、目から涙が……』『顔をそっぽむけた』『よしよし』
『なんか目から零れてる』『泣いた』『私もペットに聞いてみたい』『いい質問だ』

「ほんと、昔から心配しすぎなんだから」
「キュウキュウ」

 とんっと肩を俺の肩を叩く御崎。
 おもちも寄り添ってきてくれた。

「ありがとうみんな。……よしいくぞ! 油断するなよ」

 そして俺たちは突き進んでいく。

「あ! ご主人様、最近、うどんちょっと茹で過ぎだから気を付けてほしいだって」
「……ハイ、わかりました」

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