44 / 63
5章
5章43話 決断と提案
しおりを挟むシャリアーデさんに案内され、僕は応接室に通された。
「本来はこのままVIPルームにお通しする予定だったのですが、事情が少し変わってしまいましたね」
シャリアーデさんが僕の分の紅茶を入れてくれた。
椅子に座って体を縮こまらせながら、僕は紅茶をちびちびと飲んだ。
「すみません……」
「お気になさらず。我々はこうしてまた清太様に当クラブへご来店いただけただけで歓喜しております。我々の使命はお客様にご満足いただくこと。そのために全力を尽くさせていただきます」
シャリアーデさんはタブレットを操作しながら何かを確認している様子だった。
「状況をまとめさせていただきます。清太様は数分前にクラブに入館した女性の素性が知りたい、と」
「はい」
その女性が、もしかしたら僕が憧れていた学校の先輩……花宮詩織先輩の可能性があるからだ。
「しかし当クラブにおいてキャストの個人情報を提示することは禁止されております。が、特別にクラブポイントと引き換えにキャストの情報を販売取引する案を検討しております」
ここまでは説明された通りだ。
「しかし清太様は現在余剰のクラブポイントをお持ちではないため、もう一度ポイントをお貯めいただかなくてはなりません」
「……はい」
つまり今日予定されていた僕の歓迎プランを白紙に戻して……あの魔の施設、バームホールを再び味わうということだ。
「――うっ」
思い出しただけで股間がきゅんと疼くのを感じる。
バームホールは……できれば入りたくない。
あそこは……そりゃ、確かに気持ちよかったのは間違いない。間違いないんだけど……あまりにも強烈過ぎる。
バームホールを利用するのは最後の手段に取っておきたい。
「……でも、どうしても知りたいんです」
一度生まれてしまった疑念をそのままにはしておけない。
詩織先輩がサキュバスかどうか……それを知りたいのは、もちろん好奇心もある。
でもそれ以上に……もし詩織先輩がサキュバスだった場合……。
「……ごく」
分かってる。最低な考えだって。
そんな風に詩織先輩を見るのは最低だし、卑怯だって……分かってるけど……。
「詩織先輩と……」
できるかもしれない。
セ、セックスが……!
だ、だって……詩織先輩だって飢えてるはずなんだ。
サキュバスで……異性と接触できなくて……だから……!
そうだ。そういえば詩織先輩は誰とも付き合ったことがないって言ってた。
よく考えてみればおかしい。あのルックスだ、今まで何度も告白されてきたはず。
それを全て断ったのは……サキュバスだからじゃないのか?
「……僕の告白は……」
僕も詩織先輩に告白した。
そのとき先輩はなんて言った?
“――ごめんなさい、君とは付き合えません”
付き合えません。
付き合いたくないんじゃなくて、付き合えないと言った。
本当は付き合いたいけど、ルールのせいでできない……そういう意味なんじゃないかと期待してしまうのは、僕のイタイ自意識過剰な考えだろうか?
もし詩織先輩がサキュバスなら、あの人は僕と一年間一緒にいて、何を感じていたんだろう……?
「…………」
確かめたい。
どうしても確かめずにはいられない。
そして、他に確かめる手段はない。
このクラブで、ポイントを獲得する以外に。
「分かりました。バームホールを使わせてください」
絞り出すようにして発した声を、シャリアーデさんは静かに頷いて受け入れた。
「清太様のお気持ちは承知いたしました。ですが先ほども申し上げましたように、我々の目的は清太様にご満足いただくことにあります」
シャリアーデさんは優しく、そして妖しい声で僕に囁いた。
「とりわけ本日は特別な一日でございます。清太様にバームホールでの辛い経験を最後にこのクラブを去っていただくのは我々の本意ではございません」
「で、でもポイントが……」
「そこで、特別なご提案をさせていただければと存じます」
特別な提案……?
このクラブでそういうこと言われると凄く身構えちゃうんだけど……。
「清太様、そもそもバームホールがなぜあのような仕様になっているかはサリナさんから説明がありましたね?」
「はい。普通、シルバーランク以上の人は認知阻害の魔法を使えて、顔を合わせて接客しても本人だと気づけなくなるんですよね」
サリナさんがまさにそうだった。
クラブの中と外、それぞれ同じ顔を見たはずなのに同一人物だと思えなくなる魔法。
あれがあるからサキュバスのキャストはクラブ外でのトラブルを避けて接客することができる。
「左様でございます。しかしブロンズランクのサキュバスの多くはその魔法が使えません。なので顔を合わせずに搾精行為ができる、あのような施設が必要なのでございます」
確かそういう説明だったはずだ。
「逆に言えば、顔さえ見えなければ、バームホールでなくともブロンズランクのサキュバスとの性行為は可能となります」
「顔を見ずに行為って……マスクを被る、とかですか?」
「いえ、それでは管理局の許可が下りないでしょう。もっと物理的に見えなくしなければ」
シャリアーデさんはそこで言葉を区切って、くす、と少しだけ笑みを浮かべた。
「――壁尻です。あれなら顔を見せずにセックスができます」
21
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話
カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます!
お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ
学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。
ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。
そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。
混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?
これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。
※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。
割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて!
♡つきの話は性描写ありです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です!
どんどん送ってください!
逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。
受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか)
作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる