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第四章
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しおりを挟むこの人は一体誰なのだろうか。
僕の知っている小川美波は、こんな顔で笑う人では無かった。
優しくて思いやりのある、僕の大切な友人だ。
何が彼女をこれ程までにしてしまったのだろうか。
「二人の殺害については今の話で分かった、しかし今回の一連の事件の動機は一体何なんだ。何が君を殺人犯にしてしまったんだ」
倫太郎の言葉に美波の顔からはうすら笑みが消え、能面の様な生気がない顔を露わにした。
しかしその口元だけは微かに震えていた。
この震えは恐怖でも悲しみでもない。
怒りだ。彼女は怒っているのだ。
「私が中学三年の頃に母が交通事故で亡くなりました。警察は母の飛び出しが原因と言って、捜査を終了したんです。でも本当は違います、信号無視をした烏間真琴が運転していた車に跳ねられて殺されたんです。その助手席にいたのが渡部杏奈でした。二人は母を跳ねた事に気づいて一度車を降りましたが、怖くなったのか直ぐに逃げていきました」
慎二とのり子から聞いた、真琴先生の人身死亡事故の被害者は美波の母親だったのだ。
その直接的な原因の烏間真琴と渡部杏奈、事件を揉み消した慎二の父親の烏間秀治を恨み、今回の殺人事件を犯したのだ。
「しかし、君は何故二人が事故を起こした犯人だと分かったんだい。事故については慎二の父親が揉み消したと聞いたのだが」
「それは私も事故の現場を見ていたからです。あの日母は、私の塾の帰りを歩きで迎えに来てくれていました。塾の前で待っていると、道路を挟んだ遠くの歩道から歩いてくる母の姿を見つけ、私も母に向かって歩き出しました。そして母も私の姿を見つけ、近くの横断歩道が青信号だった為渡ろうとしていたんです」
美波は一度話を止めると、一つ息をする。
その行動はこの先の話を続ける事が、彼女にとって辛い事というのが僕には伝わった。
「その時にあの二人が乗った車が信号無視をして、横断歩道を渡っていた母を跳ねました。私は直ぐに駆け出して母の元まで行きましたが、私が辿り着く頃には二人は逃げ去った後でした。倒れている母はまだ息があり、私は必死に母の身体を摩っていると、母は最期の力を振り絞った様に血塗れの左手を私に向かい伸ばしたんです。私は咄嗟に両手で母の左手を握りました。温かいその体温に少し安心した私は、母に向かって笑いかけると、母も私の顔を見て表情緩めました。しかしそれを最後に母は動かなくなりました。私は急いで救急車を呼びましたが、病院に搬送された頃には母は既に亡くなっていました」
美波の言葉が途切れても誰も声を上げなかった。
倫太郎でさえも、何と声をかけていいか分からない様だ。
「病院の霊安室に運ばれた母は、只眠っているだけの様に見えました。声をかけたら答えてくれるのではないか、手を握ったら握り返してくれるのではないか。そう思って私は母の左手にそっと触れたんです。しかしその左手には温かみはありませんでした。冷たくなってしまった、もう二度と握り返してくれる事はないその左手を両手で握り締め私は泣きました。母子家庭だったので、たった一人しかいない大切な家族が亡くなってしまった事を信じたくありませんでした」
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