冷たい左手

池子

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第三章

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僕と倫太郎は部屋へ戻り、再びノートを開いた。
「あの話だと今までも烏間家は何か問題が起こる度に、権力とお金を使い不都合な事は隠してきたんだろうね。それでも真琴先生の死亡事故の事は予想もしなかったなあ」
「正直何て言っていいのか分かりません。真琴先生の事は尊敬できる部分は決して多くは無かったですが、生徒想いの先生ではあったと思います。それが裏では犯罪を犯していたなんて・・・」
倫太郎は僕の言葉に反応する様に顔を俯かせた。こちらからは彼の表情は見えない。
「人間が表に出している部分は、ほんの僅かな一部分だけなのかもしれない。その人の本質を見抜くのは並大抵の事ではないだろう。それでもその見えない真実を導き出す為に、小説の中の探偵達は諦めないのだろうね」
実際のところ現実では、殺人事件を解く探偵など僅かなのだろう。
もしかしたら殆どいないのかもしれない。
小説の中で難事件を次々に解決していく彼らは、とても魅力的に思える。
僕には到底追いつく事など出来ない人達だ。
それでも。
「僕達には、小説の中の彼らの様に事件を解決するのは難しいと思います。それでも、僕達のペースで一つ一つ謎を解いていきましょう。今回の話で真琴先生の事は分かってきたじゃないですか。これも無駄ではないと思います、事件解決に絶対に繋がります」
僕が力強く胸を叩くと、それに釣られた様に倫太郎が顔を上げる。
その表情は驚きに包まれている。
「海斗何だか逞しくなったね。俺としては息子が成長して嬉しいような、寂しいような」
「誰が息子ですか、僕の父親はこんなに若くありません」
僕と倫太郎は顔を見合わせて笑った。
きっと僕達なら大丈夫であろう。そして僕自身、倫太郎がいれば大丈夫だ。
どんなに受け入れ難い事があっても、お互いを支えてあっていけば乗り越えられる。
僕はこの時、そう強く確信した。
僕と倫太郎はその後自室を出て、真琴先生の部屋へと向かった。
再度真琴先生の部屋を調べる事にしたのだ。
部屋のベッドには真琴先生が亡くなった状態のまま、上から毛布を被せられている。
「現在確認する事は出来ないけれど、昨日の朝この部屋の扉の鍵は確実に閉まっていた。俺も何度もドアノブを回してみたからそこは間違いない」
倫太郎の言う通り、部屋に鍵が掛かっていことは間違いないと思う。
犯人は部屋に入る時には、真琴先生に鍵を開けておいてもらい難なく扉から入り、その犯行後に外から鍵を閉めてこの密室を完成させたのだ。
遺体発見時に部屋の机に鍵が置かれてあったのを僕は確認している。鍵はその一つだけだ。
犯人は何らかのトリックを使って、部屋の外から鍵を掛けたと考えられる。
トリックを探る為、僕は部屋の扉周辺を調べ始める。
見たところ特に不自然な所は何もない、至って普通の扉だ。
ビニール手袋をつけた右手でサムターンに触れてみると、ある事に気がついた。
サムターン部分に粘着性を感じるのだ。
近くにいた倫太郎にその事を告げると、彼は扉を隈なく調べ始めた。
そして調べ終えると彼はこう言った。
「密室のトリックが分かったかもしれない」
「本当ですか、犯人はどうやって密室を作り出したんですか」
驚きでつい大声を上げてしまう。
「それを確認する為にはある物が必要だ。食堂にいるのり子さんに声を掛けて貸してもらえるか聞いてみよう」
僕達は食堂にいるのり子からある物を借りると、再び倫太郎の部屋へと向かった。
そして部屋の扉に、ある細工をして倫太郎が部屋の外へと出る。
部屋の中から扉を見ていると、内鍵が九十度回り鍵が掛かったのだ。
僕は慌てて、鍵を開け扉を開く。
その先にはしたり顔をした倫太郎が立っていた。
「これで密室の謎は解けたね」



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