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第二十四章:影の終焉
549.闇領域の戦闘 破
しおりを挟む「――!? 矢が消失した……? 何をした、貴様!?」
影で展開された武器、それも無数の矢を消すなんてことは容易いことだ。
しかしそれではあまりにもつまらない。
せっかく闇領域にされているし、領域の恩恵を存分に使わせてもらった。
少なくともこの領域内では、影による全ての攻撃が否定される。
「そう騒ぐことはないんじゃないのか? お前は影を操る存在なんだろ? イルジナ」
「フ、フフフフ……そう、わたくしは影を操り、影を支配する……」
とはいえ、おれにあっさりと影を"否定"されてかなり動揺しているな。
闇領域の中での影は脅威とならない。色濃い闇の中でなら少しは有効だったかもしれないが。
「……その割には大した脅威に感じないが、そんなもんなのか? ザームには今まで散々魔術師やら何やら送られてくるたびに厄介なことになったのに。それともイルジナって名前だけが先行してたのか?」
ルティのことを知らないうえ、今まで使い倒してきた傭兵やら魔術師を全く使わないのは妙だ。
イルジナであることは間違いないはず。だがこれでは、あまりにも手強さを感じない。
「そう、わたくしは影……わたくしが人間ごとき地で存在を肯定し、否定に変え、自ら滅びの道を選ぶことを手伝って来た。イルジナ・ブフート。わたくしは所詮こんな程度に過ぎない……過ぎない」
影をやたらと強調するがまさかこいつ――
「ウガウゥッ!!」
イルジナに疑問を抱いていると、シーニャの鋭い爪がイルジナ本体に向けて振り下ろされた。
シーニャの爪攻撃はあらゆる存在を斬り刻むことが出来る。
黒くまとった影だろうと問題無いわけだが……。
「アック!! 何をぼさっとしているのだ!」
「む?」
「黒いのがずっとアックにまとわりついていたのだ! 何も起きてないのだ? オリカは影で動けていないままなのだ! アックは大丈夫なのだ?」
「――何? ミルシェが影に――?」
シーニャの爪はイルジナそのものをまとう影を払い、イルジナという人の姿をした存在を露わにした。
だがダメージは与えられず、黒い影を払ったに過ぎない。
ミルシェとシーニャは闇領域のデバフを喰らい動きを封じられていた。
だがシーニャだけが攻撃に転じ、ミルシェはデバフに加えて影によって動きを止められている。
ああ、そうか。おれだけに攻撃を展開していたわけじゃなかったか。
しかしなぜミルシェだけが動けなくなっているんだ?
闇領域の否定はおれだけではなく彼女たちにも有効のはずなのに。
「クフフフフ。アック・イスティは人間の域を出てなかったか。わたくしの影は貴様だけを捕らえるものでは無いというのに……つくづく甘い男。動きを封じられた雑魚は、わたくしの影に取り入れて差し上げるとしよう――!」
動くことがままならないミルシェに対し、イルジナの黒い影がまっすぐ向かっている。
肝心のミルシェはおれたちはもちろん、影の動きにも気付いていない。
「――ちっ! シーニャ、ミルシェを!」
「分かってるのだ!」
ミルシェとの距離はそこまで離れていないが、自由に動けるシーニャの動きでも間に合うかどうか。
「クフフフフ! アック・イスティの手駒を一つでも多く取り込めば、わたくしはさらに近づく――!」
ルティが不明となり、ミルシェまでもが影に取り込まれるのは避けなければ。
影に脅威は感じられないが、彼女たちそのものを失わせるつもりはない。
「ウウゥ!! 間に合わないのだ!」
「くっ、ミルシェ!」
シーニャより僅かに早く届いた影がミルシェを覆いだしている。
黒い影に覆われたミルシェから、何の動きも見えてこない。
「クフフフフフフフ!! 戦わずしてアック・イスティの戦力を削ぐ! これがわたくしの、影の強さ……! 貴様たちがどれほど強くても影による支配は免れ――う、うぐぐぐぐ……!?」
おれたちに余裕を見せていたイルジナだったが、黒い影が少しずつ歪みだし始めた。
次第に影が薄まりつつある中、見慣れた女性の姿が目の前に現れる。
「ウ、ウニャ!? アック、あの女……オリカから忌々しい力が感じられるのだ。シーニャの知らない力なのだ!」
忌々しい力?
そういや、ミルシェの中にはしつこかったあのエドラが混じっていたな。
身動きを封じられていたんじゃなくて、あえて影をおびき寄せていた?
「――グギャァァァァッ!? 馬鹿な、わたくしの影が何故こんなあっさり払われる……?」
ミルシェから放たれている忌々しい力に注目していると、それまで優勢だったイルジナが急に弱り出していた。本体でまとっていた影がかなり薄まっている気さえ感じる。
「……ふぅっ。あら? アックさまに虎娘。何をそんなに焦っているのです?」
「い、いや、影に覆われて取り込まれたんじゃ……?」
「シーニャが間違うはず無いのだ! 間違いなく影より弱かったのだ!!」
シーニャが言うように弱かったわけじゃないが、明らかにミルシェは影で動けなくなっていた。
それなのに、ミルシェはそんなことがあったことすら気にしていない。
「あぁ、そのことですか? 影……いえ、そのイルジナは思念の塊に過ぎませんわ。かつて人間として過ごしていた記憶を影に残し、あわよくばアックさまを倒そうとしたのでは? 影からあたしを取り込めば、本当の影の力となるはずですもの」
思念の塊、人間だった頃の記憶……。
じゃあこいつは正真正銘、単なる影武者としての存在か。
「ウニャ? 何を言ってるのか分からないのだ。オリカ、こいつは何なのだ? 本体はどこにいるのだ?」
「そこにいる薄い影は残りカス。本体はおそらく――」
「……」
ということは、本体の方にルティがいるってことになる。
「ク、クフフフ……薄くされたとて、わたくしが消えることなどあり得ない! さぁ、どうする? アック・イスティ!! 影を完全に消さなければ、貴様に勝ち目はない!!」
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