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第二十四章:影の終焉
548.闇領域の戦闘 序
しおりを挟む「フフフフフ、遅い」
シーニャとミルシェに拘束と弱体化のデバフがかかっている中、おれとイルジナは戦闘を開始した。
話に聞いていたイルジナの動きは薬師としてではなく、劣化した魔術師のように動きが鈍い。
見たところ手下のような存在も無く、今の時点でおれと真面目に戦っている。その攻撃は明らかに単調で、威力のある単発の属性魔法を放つだけ。
近接物理では敵わないことを知っているようで、一定の距離以上は近付いて来ない。
イルジナが遅いとほざいているのは、おれの回避動作によるものだ。
「フフ、魔法が放たれてから動くなどと、評判よりも遅い」
「……避ける動きで素早さをアピールしても、それは強さの基準にもならない。あえてそうしてるだけだ。そっちも単調な攻撃しか放ってきてないからな。似たことをしてるに過ぎない」
シーニャとミルシェがデバフ状態から回復するには、この領域が展開している間は厳しい。しかし幸いにしてここの空間は、ドラゴン一匹くらいが休める広さがある。
彼女たちに気を遣うことなく、やろうと思えばやれるわけだが。
おれが期待しているのはシーニャたちの"慣れ"だ。
たとえ弱体化を喰らっていても、今の彼女たちならその状態でも問題無く動けるはず。
「……あぁぁ、そうか。デバフを喰らったこやつらをかばっての動きか。化け物と化した貴様が、今さら人間に似せた感情を出すのは面倒だとは思わないのか?」
この空間で、おれは初めてイルジナなる存在とまともに対峙した。
だが薬師であり人間として保っていたイルジナの体裁はすでに崩れ、口調も含めて早々に終わらせようとしている気配が感じられる。
「魔王にも言ってるが、おれは人間だ。お前のような存在しない影とはまるで違う!」
そもそもおれはルティから何度も飲まされた強化ドリンクに、多少の精霊や属性神などなどのスキルが備わっただけで、魔王のような破壊的な強さは得られていない。
「テミド様を始めとした者を散々滅してきてよく言う!! アック・イスティ!! 貴様はこの手で殺す! このイルジナの手によってな!!」
やたらにあのテミドを崇拝してるようだが、あの男にでも助けられた存在か?
おれに対して随分と深刻な憎悪を抱いてるな。
「――! っと! いきなりだな」
おれを化け物呼ばわりしたイルジナが仕掛けてきたのは、実体のない影で作り出された無数の矢だ。
ただでさえ視界が悪い空間の中、吹き抜けた天井から何度も繰り返し矢が降り注いでくる。
属性魔法とも違う影で作り出された矢に対し、おれは神経を研ぎ澄ませる。
この攻撃に対しやるのは単純な動きのみだ。
「クフフフ……影の矢は何度も貴様に降り注ぐ! 属性魔法も何もかも、全て無効となる! その鈍い動きでどうするつもりだ?」
思っていた以上に地味な攻撃から入ったものだ。
相手が影の存在とはいえ、こんな攻撃には何の面白さも恐れも感じられない。
「どうもこうもないな。属性魔法無効というが、武器として明確に形作っている以上は簡単に消せる」
「クフフフ、やれるものなら全てやってみせるがいい――!」
イルジナなる存在が作り出す"脅威"は、かつて人間として得た知識で作られた武器のようだ。
そいつがたとえ実体なき影と認めていても、おれはそれを拒否することが出来る。
――つまり、
「……影の矢を全て否定する! 《ディナイアル・フィールド》」
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