旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾

文字の大きさ
上 下
6 / 47

反撃

しおりを挟む
翌日私は執事のマルスタンと話をしに執務室に向かった。
スノウが屋敷に戻ってこないのなら、自ら王宮へ彼を訪ねればいいと考えたからだ。

マルスタンに「彼が帰宅したら私に知らせてほしい」と頼んだが、その知らせはなかった。
旦那様は一度も帰宅していない。長いときには数ヶ月も屋敷には戻らないと言われた。

ならば私が話があるからと伝えてほしいと言ったが、重要な話でなければ職務の邪魔になるのでと断られた。
手紙も書いてみたけど、スノウからの返事はなかった。

日に何度か王宮の彼の職場へ屋敷から使いが出ている。
公爵家の執務関係や、領地のことを報告しているらしい。

彼は王宮の中に泊まるための私室があり、そこでも生活ができる。
宮中に暮らす者も沢山いるので不思議ではないけど、彼の屋敷は王宮から馬車で三十分ほどの距離しかない。
問題なく通える距離だ。

帰ってこない理由は新妻のせいだとメイドたちが陰で話していた。
わざと私に聞こえるように言ったのだろう。
悪意のある噂話は、今まで王宮で散々聞かされてきた。
もっと身になる話をすればいいのにと思うくらいには耐性が付いている。


「街へ買い物に行きたいので、馬車の手配をお願いするわ」

私は外出したい旨をマルスタンに伝えた。

「馬車の御者の手配もありますし、急に用意しろと言われても困ります。せめて三日前までに予定を入れて下さい」

マルスタンは顔色を変えず、当たり前でしょうと言わんばかりに断ってきた。

「何台も公爵家の馬車はありますよね。私は使用できないと?」

「奥様が外出されるのであれば護衛の手配も必要ですので、急には無理です。王都とはいえ街は危険ですしね」

王宮へ旦那様に会いに行くといえば仕事の邪魔をするなと言われるのは分かっていた。
だから買い物に行きたいと言ったのだけど面倒くさそうに拒否された。

「ならば護衛は必要ありません」

「何かあれば私どもの責任ですのでそれは駄目です。買い物がしたければ業者を屋敷に呼べば済むでしょう。奥様が勝手に散財したいのでしたら、婦人の予算内で買い物をして下さいね」

婦人の予算?そんな話は聞いたことがない。
この屋敷に来てから買い物はしたことがないし、私は公爵家のお金を使ったことはなかった。

「婦人の予算ですか……王都でも屈指の高位貴族ですものね。古い歴史を誇り、王家の信頼も厚い。公爵婦人の予算があるのは当然でしょう」

「ええ。勿論、公爵家は名だたる貴族たちの中でも……」

「私の予算の金額と出納帳を持ってきて下さい。お金の入出金を記録した帳簿を確認します」

マルスタンは焦ったようだった。
私を悔しそうに睨んでくる。

「それは予算を管理している経理の仕事で、執務の一環ですから、奥様が確認する必要はありません」

「あら、私の予算ですのに?」


「奥様には必要な分を申しつけてくだされば、その金額をお持ちしますので、何の問題もないでしょう」

おかしなことを言う。先ほど夫人の予算内で散財しろと言っていたのに、予算がどれくらいあるのか知らせたくないように思える。

金額が分からなければ買い物もできないでしょうに。

「私の予算は私以外の誰かが使うものなのでしょうか。それなら旦那様に聞いてみますね。まさか……着服……なんて、まさかね。それこそ公爵家ですもの、使途不明金なんてあったら、とんでもないことになりますよね」

「失礼です。きちんとした身分の者たちが屋敷の蔵を預かっています。経理担当者は教育も受けた専門の者たちです。そもそも、金銭の出入帳を見たところで、奥様に理解できますか?数字や計算が沢山書いてあって、算術が得意でないと意味が分かりませんよ。何が必要経費なのかなんてご存じないでしょう。奥様のお世話するために使用しなければならないお金もたくさんありますからね」

「食事や消耗品にかかる費用も私の予算から算出されているのですか。それはまたケチ臭い」

「はぁ?は、そんな訳ないでしょう。あくまで夫人のお小遣いに使えるお金のことです。ドレスや化粧品、宝石など。個人的に好まれる外国製のお菓子やお茶などの高級な物、後は交流のあるご婦人へのプレゼントやお土産など。とにかく、女性は何かとお金がかかりますので、そういった物に使う費用です」

「それで安心いたしましたわ。私、こちらの使用人に何か特別な物をいただいたことも、用意してもらったこともありませんので、今月使える予算は、まるまる残っているということですね」

有難うございますとニコッと笑ってマルスタンに伝えた。

「では、三日後午前十時に馬車を一台用意してくださいね。それと一時間後に帳簿を私の部屋へ持って来て下さい。改ざんなんてしなくて済むはずですからすぐに用意できるでしょうし。ふふふ」




言い切ってやったわ。


はぁー、スッキリした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...