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16章 『秘薬』の開発

第166話 二人の『聖女』②

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 メルトの言葉を聞いた後、俺は館の奥へと進んでいく。
 部下達とは屋敷の前で別れており、俺の後にはメルトとラヴィだけが付いてきていた。

 そして、俺はそんな二人を引き連れながら話を返す。

「まあ、良い。とにかく、ラヴィは盗賊団の下に居たから保護してやったんだよ。とはいえ、その時はフード被って男のフリをしていたから女だとは思っていなかったがな」
「……アイド、本当に説明する気があるんですか? 全く話が理解できないのですけど……『聖女』である彼女が盗賊団などという野蛮な者達と一緒に行動しているわけがないではありませんか。ラヴィ、彼の代わりに説明を頼めますか?」

 俺に呆れたメルトはラヴィの方へと振り返り、説明を促していた。いや、本当の事なんだが。

 そして、メルトに会話の矛先を向けられたラヴィはおずおずとした様子で俺の代わりに説明を続けていく。

「すいません、メルト様……彼の言う通りなんです」
「彼の言う通り……? では、『聖女』であるはずのあなたが盗賊団と行動を共にしていたというのは本当なのですか?」
「はい……その……色々とありまして……」

 それを聞いた途端、メルトはまるで眩暈を起こしたように額に手を当てていた。まあ、頭の痛くなる話ではある。

 俺が軽く同情の視線を向けていると、メルトはラヴィに絞り出すように声を向けた。

「色々……ですか。良いでしょう……詳細は後で聞くとして、簡単な説明をお願いしても良いですか?」
「は、はい……実は『教会』を追い出されてから行き場を失っていまして……途方に暮れていたところ、お年寄りの民家でお世話になっていたのですが……そこで盗みに入った強盗というか、盗賊団に金品の代わりに身柄を拘束されまして……」

「何てこと……『教会』はあなたを保護したりはしなかったのですか?」
「ええと……その色々とありまして……」
「何か訳ありみたいだな」

 二人の会話を聞いていた俺は軽くそう口にする。
 本来なら『勇者』と一緒に旅に出るはずの『聖女』は『教会』に保護されているのが普通だ。その『聖女』がメルトのように『勇者』パーティとして行動しているわけでもないのに外に放り出されていること自体が異常だしな。

「……とにかく、あなたが無事で何よりです。……ちなみに聞いておきたいのですが、盗賊団に入っていたと言っても、あなた自身が盗みを働いたりはしていませんよね?」
「も、もちろんです! 盗賊の人達は私が魔力を見れたり、幻術が使えるのを利用して盗みを働いていましたけど……私自身は何もしていません! 神に誓ってそのようなことはいたしません!」

「なら良かった……。盗みを働いていたからといっても、あなたような状況なら責めることはしませんでしたけど……ひとまず、それを聞いて安心しました」

 そうして安堵したように息を吐くメルトを横目に、俺は懐に入れていた瓶を取り出す。それを見ていたメルトとラヴィの視線を集める中、俺はニヤリと笑みを返してやる。

「―さて、ようやくひと段落したことだし、この『秘薬』の効力を試せるな」
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