上 下
28 / 57
16章 『秘薬』の開発

第147話 また口外出来ない秘密を握っちまったな?

しおりを挟む
 そんな男の姿に、セリィやレファーを始めとした『魔王軍』から軽蔑するような視線が注がれる。
 俺はその男の声に肩を竦めてみせると、背中を向けながら失望した感情を隠すことなく男の声に答えていく。

「やれやれ……こんな醜態を見せられちゃ興も削がれるってもんだ」
「じゃ、じゃあ、俺を見逃してくれるんですかい!?」
「ああ、どこへなりと逃げれば良い。俺は弱い奴には興味がないんだ。だから、さっさと消えてくれ」

 そうして、ゆっくりと俺が背中を向けてムエイ達の下へと歩いていくと、背中からドサッという音が聞こえてくる。どうやら、用心棒のリーダーが腰を抜かして地面に座り込んだ音らしい。

 同じタイミングで男が荒い息と共に耳障りな声を上げるのが聞こえてくる。

「た、助かったぁ……。へ、へへ……へへっへへ……生きてる……俺ァ生きてる……ハハ……ハハハ……」

 無様としか言いようのない姿を晒し、年甲斐もなく顔を涙に腫らす用心棒。
 俺やセリィ達の魔力を肌で感じ、殺されなかったことに安堵していた用心棒の男だが―俺はふと足を止めると、そんな男に振り返ることのないまま声を掛けた。

「あぁ、そういえば一つだけ忘れてたな」
「へ……?」
「お前達に言いたいことがあるって話をしただろ? そのことさ」
「い、言いたいこと……?」

 哀れなほどに動揺した用心棒の声に、俺はゆっくりと振り返る。
 そして、街に居た時に耳にした噂を口にしながら口元の笑みを深めると、腰を抜かす男の下へと少しずつ近付いていく。

 すると、それに伴って男は俺から離れるようにどうにか後ろに下がろうとするものの、腰を抜かしている所為で上手く行かず、何度も手を滑らせては地面に背中を打ち付けてしまっていた。

 俺はそんな男を目にしながらゆっくりと距離を詰めると、囁くような声を投げ掛ける。

「知ってるか? 街の方じゃ夜な夜な女子供が消えた後、何日か経ってから帰らぬ人となって見つかることがあったんだ。前日まで元気な姿を見かけていたのに、ある日忽然と……な」
「そ、そうなんですかい……? そ、そいつはお気の毒なことで……で、でも、あの街は荒れてますからね……そ、それくらいのことは日常茶飯事じゃないですか」

「ああ、本当に……胸くそ悪い話だが、あそこであぐらをかいてた『偽勇者』からして腐ってたからな。そんな街に集まる連中もロクなもんじゃない……まったく、犠牲になった奴らのことを考えると心が痛むよ」

「に、『偽勇者』……? ってことは、街に居たのは本物じゃなかったってことですかい……?」
「おっと、こいつはいけない。また口外出来ない秘密を握っちまったな?」

「そ、そんな!? お、俺は聞きたくて聞いたわけじゃあ―」
「その事件の首謀者はクソみたいに悪趣味な奴隷商人だったそうだが……そいつはもう、どこかの誰かが懲らしめてやったそうだ」
「こ、懲らし―え?」

 俺がわざとらしくおどけてみせると、慌てふためく用心棒の言葉に被せるように俺はついさっきの話の続きを口にした。すると、用心棒の男は周囲の仲間達と息を飲みながら視線を合わせ始める。

 そんな男達の行動に俺は笑みを浮かべると、腰を抜かしていた男の肩に片手をゆっくりと手を置く。
しおりを挟む

処理中です...