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16章 『秘薬』の開発

第141話 少しだけ遊んでやれ

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 布を被った少年がそう叫ぶと、盗賊の男はさらに苛立ち声を荒げた。

「テメ―敵に寝返っておいて、何勝手にバラしてんだ!? ぶっ殺すぞ!?」
「っ……!」

 唾を飛ばしそうな勢いで啖呵を切る盗賊に、少年は怯みを見せていた。まったく、弱い犬ほどよく吠えるな。

 俺はそんな少年の前に出ると、盗賊から庇うようにして声を返してやる。

「おいおい、寝返ったとはずいぶんと面白い事を言うな。先にこいつを蹴り飛ばして逃げようとしたのはどこのどいつだよ?」
「ハッ! 所詮はそこら辺で拾っただけのガキだ! こんな野郎の命なんざ、知った事じゃねぇ! ただの道具なんだよ! 俺達が生き残る為に利用してやっただけだ! おい、行くぞ!」

「へ、へい!」

 すると、盗賊のリーダーは他の奴らを連れて一目散に逃げていった。
 それと同時に周囲からニヤニヤと笑みを浮かべた野郎共が顔を出してきやがった。

「……なるほど、さっきお前が言ってた仲間ってのはこいつらか」
「は、はい……。あの人は結構用心深い人で……分け前を渡す代わりに、念の為に用心棒を雇っていたんです……」

「ハッ、ただのごろつきが何匹集まったところで耳の周りを飛ぶ五月蠅い虫程度に過ぎん。そもそも、こんなクズ共が相手として務まると考えている事自体が愚弄している」

「ああ? テメェ……今、何て言った?」

 俺の言葉に、盗賊の用心棒らしき男が声を上げる。
 ただでさえ、頭の悪そうな男の頭の悪い態度に、俺は嘲笑するように声を返した。

「その足りない脳ミソで意味を理解するのは難しかったか? 三下が集まったところで虫と同じだと言ったんだよ」
「こンのクソガキイイイイイイイイイイ!」

 そうして、俺に向かって用心棒が手にしていたナイフを振り下ろそうとしたが―それは通る事なく、ナイフが宙を舞っていた。

「…………あ?」

 何が起こったのか理解出来ず、間抜けな声とツラで周囲へと視線を送る男。
 すると、俺のすぐ横に移動していたムエイとイグンが殺気立った目で睨んでいる事に気が付き、小さく息を飲んでいた。

 そして、そんな男を睨み付けながらムエイとイグンはそれぞれの言葉で俺へと確認を取ってくる。

「……アイド様、今日はなかなかに良い天気の為、虫も湧いているようですな。これではせっかくの気分が台無しです。……少々虫退治をさせて頂いてもよろしいですかな?」

「汚いハエ風情が……例え雇われだろうと、我が主にその牙を向けた事、死してなお後悔させてやる」

 部下がそれぞれの反応を見せる中、俺はそんな二人に答えるように声を返してやる。

「ああ―少しだけ遊んでやれ」
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