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16章 『秘薬』の開発

第136話 『聖女』であるメルト様くらいではないかと

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「―しかし、盗賊に狙われる為とはいえ、待つだけというのも退屈なものだ」

 武器も持たない軽装になり、しばらく森を歩いていた俺はムエイ達に会話を飛ばすようにそうぼやく。

 いつものように『魔王』らしい威厳を保ちながら呟くものの格好が格好なのでいまいち様になっていないが、部下達の手前では仕方ない。

 そんな俺の呟きを周囲を警戒するようにしていたムエイが拾ってくれる。

「退屈な思いをさせてしまい申し訳ありません。仰る通り、今のところ近くにそれらしい気配は感じませんな。動物の気配はありますが、人間の気配は感じません」

「いや、言い方が悪かった。お前達を責めているつもりはなく、盗賊側から仕掛けて来ないことへの不満だったのだ。これだけ少人数で行動していれば、もう少し早く遭遇すると思っていたのでな」

 自分の失言を詫びるように言うと、俺は周囲へと軽く視線を向ける。
 そんな俺につられるようにしてムエイも視線だけ彷徨わせると、気配を感じ取りながら話に応じた。

「アイド様がお気に病む必要などございませぬ。今回の失態は我々の責任なのですから。本来であれば、今すぐにでも責任を持って盗賊のアジトをしらみつぶしに潰していきたいところですが……下手に行動し、それが噂にでもなれば、アイド様の存在が世に知られかねませんからな」

「まあ、そういうことだ。それゆえに、今はただ待つことだけするしかない」

 そうして、俺とムエイ、イグン、ミンクが森の中を歩いていると、ふと耳にセリィの声が響いてくる。

 影の世界から魔法によって俺に連絡を取ってきているのだ。

「一つ気になったのだが……もしや、相手側に魔力を感知できる者が存在する可能性もあるのではないか?」
「たかが盗賊がか? そんな大層なことが出来る奴なら、盗賊に身を落としたりしないと思うが……そうでもないか。例え良い師匠を持っても、破門されりゃグレもするよな」

「その可能性も充分にある。であれば、相手は我々の魔力を感知して襲ってこないのかもしれんな」
「これでも魔力がもれないように抑えてるが、メルトにも気付かれてたしな。まったく、魔力の量が多過ぎるのも面倒だ」

 そうして、俺はセリィとの会話を終えると、俺からかなり離れて後ろを歩いていたイグンへと声を掛けた。

「イグン。お前達の魔法で俺の魔力を抑えることは可能か?」
「アイド様の魔力を抑える……ですか?」

「ああ。もしかすると、敵に俺達の魔力を感知できる存在が居る可能性も捨てきれないとセリィから提案があってな。一度、それで様子を見てみるのも必要だと思ったんだ」

 そんな俺の提案に、イグンだけでなくムエイとミンクが驚いた顔を見せる。
 しかし、それと同時に三人は難しい表情を浮かべていた。

「どうした?」
「いえ……その……大変申し上げにくいのですが……」

 俺が躊躇するように口を開くイグンに先を促すと、イグンは謝罪するように頭を下げながら言葉を返した。

「アイド様ほどの膨大な魔力を持つ方を抑えられるのは、恐らく我々『魔王軍』には存在しません。可能性があるとすれば、セリィ様やレファー様……それと、『聖女』であるメルト様くらいではないかと」
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