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16章 『秘薬』の開発

第126話 村外れの『秘薬』工場

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 ピーミットとの会話を終え、俺が映像から顔を放すと、それを見計らってムエイが声を上げる。

「さすがアイド様……あのようなご慈愛に満ちた言葉を頂けたのなら、ピーミット達も報われるというもの。この爺、話を聞きながら涙が止まりませんでしたぞ」

「大袈裟だ。俺はただ事実を言っただけだからな。それより、『秘薬』のサンプルを取りに行ける者を用意出来るか? 早々にサンプルを受け取り、ピーミット達を少しでも早く休ませてやりたい」

「もちろんでございます。では、すぐに遣いの者を向かわせましょう」
「頼む。それと、そろそろ『秘薬』量産の為の施設建造にも着手しても良いかもしれないな」

「ええ、確かに。では、そちらも合わせてこちらでご用意させても頂いてよろしいですかな?」

「ああ。頼んだぞ、ムエイ」
「はっ」

 そうして頭を下げるムエイを見届け、俺はゆっくりと席を立つ。
 同時にセリィも同じように椅子の手すりから降りると、俺の横に並ぶように歩き出し、俺達は頭を下げ続ける将軍達の横を優雅に通り過ぎつつムエイへと言葉を向けた。

「ひとまず、村の方には俺から『秘薬』のことを話しておく。サンプルの方は受け取り次第、俺の方に回してくれ。効力がどれくらいか一度この目で見てみたいからな」

「もちろんでございます」
「伝達についてはルディンの方から俺に回してくれ。これでも、村では一応『元勇者』で通ってるからな。直接俺がやり取りしているのを見られ『魔王』だと気付かれると村人達に恐怖を与えかねない。それはそれで面倒だ」

「はっ、承知いたしました」

 俺の言葉にルディンが頭を下げ、俺とセリィの後ろに控えるように歩き出す。
 それを確認した俺達は部屋を後にしたのだった。





「―『秘薬』、ですか?」

 将軍達とのやり取りを終えた後、俺達はメルト達の居る食堂へと足を運んでいた。
 そして、開口一番に俺が『秘薬』のことを切り出すと、『聖女』であるメルトが怪訝な声でそう聞き返してきたわけだ。

 俺は用意された食事に手を付けながらそれに対して言葉を返していく。

「そうだ。まあ、平たく言えば『万能薬』ってやつだな」
「いや、平たく言えばって……確かに『聖水』にはかなりの回復力はありますけど……私が驚いたのはいつの間にそんなことに手を回していたのか、ということなんですけどね……」

「完成しなけりゃ話しても仕方ないだろ? まあ、メルトの『聖女』の力ほど強いものじゃないだろうが、それでも携帯用に持ち運べる物としては上出来らしいからな」

「実際にそんなものがもし量産出来るとしたら、街で治療薬を扱っている店の経営を脅かしかねない話ですね……」

「だったら、そっちにも輸入ルートを作ってやれば良い。なに、向こうも生活が掛かってるんだ、商売話に食い付かないわけはないさ」
「まあ、そうかもしれませんが……」

 ため息交じりにメルトがそう返すと、その隣に座っていた村長の孫娘であるクルゥが不思議そうに声を上げていた。

「言われてみれば、前に街に出た時に『聖水』みたいなものって向こうには無かったかも……でも、『万能薬』ってくらいだから『聖水』よりすごいんでしょ? その『秘薬』って」

「まあな。『聖水』の効力をさらに上げる為に魔法やら何やらと色々と試して出来たものだし、『魔王軍』研究所お墨付きの代物さ」

「そんなものが村で量産してもらえるなんて……嬉しいけど、『魔王軍』お墨付きっていうのも名乗れないのがちょっとね。だって、それじゃ私達の村が作ったってことになっちゃうし、こう……なんて言うか……手柄を横取りしちゃったみたいで嫌かなぁ、みたいなもやっとした感じはするかな」

 クルゥはそう言って「あはは」と気恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。

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【お知らせ】
いつも「『魔王』と呼ばれた『元勇者』」を読んで頂きありがとうございます。

唐突なお話ですが、作中のヒロインの一人であるメルトを『神子』から『聖女』へ変更させて頂くことになりました。

実を言うと連載当初は『聖女』だったのですが、途中で『神子』へと変更しており、書籍化にあたって今回『聖女』に戻すことになりました。

すでに各話の修正も完了しています。
ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。

今後とも「『魔王』と呼ばれた『元勇者』」をよろしくお願いいたします。
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