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16章 『秘薬』の開発
第125話 忠誠心高過ぎ問題
しおりを挟む「ゆえにこそ、我らはアイド様に少しでも早く良い知らせを、と総力を掛けて『聖水』の解明に全力を費やしていたのでございます」
「まあ、なんだ……あまり無理をしないようにな」
「いえ、主の為に身を焦がせることこそ、我らの本懐。それで身を落とせるのなら、それこそ本望でございます。とはいえ、つい先ほどアイド様より慈愛の言葉を頂いた身、この身を何よりも大事にさせて頂きたいと思います」
「そうしてくれ」
忠誠心の高過ぎるピーミットに少々頭を抱えたくなるものの、まずは『秘薬』の状況を確認しておかなければならない。
どうにか気持ちを入れ替えた俺は、玉座に背中を預けながら映像の向こうに居るピーミットへ再び声を掛ける。
「それで、『秘薬』のサンプルはいつ頃届く予定だ?」
「はい。すでにサンプルの用意は住んでおりますので、後は運び出し、アイド様の下へお届けするだけとなっております」
「では、すぐにそちらに遣いの者を送ろう」
「いえ、それには及びません。我ら研究所の者がそちらに直接お伺いすれば良いだけですので―」
「駄目だ。俺はつい先ほどお前達のことを身を案じたばかりだろう? 連日の作業の疲労もある。それに、この連絡をもって、お前達の働きぶりは充分過ぎるほどに伝わっているのだ。これ以上、部下に無理をさせては主としてあまりに情けない。ここは俺の面子を立てたと思って休みを取ってもらえないか?」
さすがにここまで言えば、休みを取ってもらえるだろ。
それなりに長く『魔王』をやっていたが、ようやく部下の扱いには慣れてきたと思う。すると、どうやら「俺の面子を立てる」という言葉が相当利いたのか、ピーミットは立ったまま驚いた顔を見せると、申し訳なさそうに深々と頭を下げてきた。
「何たる不覚……。アイド様の負担も考えず、己の一方的な気持ちを押し付けてしまうとは……このピーミット、軍をまとめる将の一人として至らないばかりか、愚の骨頂でございました。こればかりは許されることはありません……アイド様、私はどのような処罰は甘んじて受け入れます。どうか、愚かな私めに処罰を与えて頂けないでしょうか」
「気にするな。むしろ、お前の俺に対しての忠誠心の高さを再度確認出来たのだ。どこにも責める理由がない」
「しかし―」
「ピーミット」
自分の処遇について不服を申し立てるピーミットだったが、その声は俺の横から聞えてきた声に遮られてしまう。玉座に手すりに座っていたセリィが声を上げたのだ。
セリィはかつての部下に向き直ると、偉そうに両腕を組みながら『元魔王』らしい不遜な態度でその行いを注意していく。
「主であるアイドがこう言っておるのだ。ここは素直に従っておけ」
「セリィ様……そうですね、あなた様の言う通りでございます。私としたことが、またも主の前で恥を晒してしまうとは……」
「恥というほどでもない。アイドの言う通り、それだけ主への忠誠心が高いということだ。とはいえ、アイドが休めというのなら休んでおくのが将の務め。処罰も無いというなら、後は命令通り休んでおけば良い」
「はっ! それでは、遣いの者に『秘薬』のサンプルを渡し次第、しばらく研究所は休暇を取らせて頂きます。また、サンプルには副作用などもなく、詳細については遣いの者にお話しさせて頂きますが、強力な回復効果があることはこちらですでに証明済みですのでご安心下さい」
そう言って、真剣な表情を返すピーミットに片手を上げると、俺は労いの言葉を返す。
「ああ。ピーミット、ご苦労だった」
「ありがたきお言葉、痛み入ります。それでは、失礼いたします」
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