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本編
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しおりを挟むいつもの様に、わたしを誘う王子様は現れず、わたしは壁の花になっていた。
適当に料理を取り、摘まんでいると、顔見知りの令嬢たちがやって来た。
「ヴァイオレット様の義弟は、素敵な方ね!」
「あんな素敵な義弟がいらっしゃるなんて、羨ましいわ!」
口々にそんな事を言う。
ミゲルは誘われるままにダンスをしていたが、申し込む令嬢たちが多く、
それが途切れる事はない。
ミゲルは見目が良い上に、性格も良いし、何といっても、《次期伯爵》だ。
狙われて当然だし、選び放題だ。
下手な女性を選ばなければ良いけど…
両親が反対する様な女性ならば、流石に爵位は継がせないのではないか?
いや、その前に、結婚を許さないだろう。
ミゲルは駆け落ちなんてしないわよね??
馬鹿馬鹿しい考えが浮かび、笑いたくなったが、ミゲルは「愛していれば」と言っていた。
ミゲルにとって《愛》は、比重が大きいと言える。
「ああ、不安だわ…」
つい、呟いてしまったわたしに、目の前にいた令嬢は頷いた。
「そうですわね、キャロラインが婚約をすると聞きましたわ。
お相手は、ヴァイオレット様と一緒にいらしたあの方でしょう?」
わたしは「え?」と目を向けた。
令嬢は「あら!」と驚いた顔をした。
「まぁ!ヴァイオレット様はご存じなかったのですか?
キャロラインはヴァイオレット様から紹介して頂いたと言っていましたけど…」
「それは、スチュアートの事?」
「ええ、そうです、スチュアート・モットレイ男爵子息」
スチュアートとキャロラインが婚約する!?
わたしはこの情報に、愕然とした。
確かに、仲良さそうにしていたが、あれから、一月位しか経っていないというのに…
婚約なんて!!
「そうなのだけど…その後の事は報告を受けてなかったから…」
わたしは動揺を隠しつつ、無難に答えた。
「まぁ!キャロラインってば、何て礼儀知らずなの!」
「ヴァイオレット様には、真っ先にお知らせするべきなのに!」
「スチュアート様からも、聞いておられないのですか?」
「スチュアートには会っていなかったから…」
「それでも、手紙を書く位は出来ますでしょう!」
よくよく考えてみたら、スチュアートとは手紙を送り合う仲でもない。
わたしは、スチュアートとキャロラインが悪く言われない様、慌てて口を挟んだ。
「スチュアートは元々、父の知り合いなの、わたしはたまに館で顔を合わせるだけで、
然程親しくはないのよ。パーティで偶然会って、成り行きで紹介しただけで、
その後も、わたしは何かした訳じゃないし…だから、報告なんて必要は無いわ」
令嬢たちは気を削がれた様で、「ヴァイオレット様がそれでよろしいなら」と目配せし、
去って行った。
わたしは一人になり、安堵の息を吐いた。
スチュアートから報告が無いのは仕方が無いが、
キャロラインは親しい仲だ、彼女からは、一言あっても良かった。
スチュアートとキャロラインが婚約する…
彼こそ、わたしの王子様だと思っていたのに…
あっさりと通り過ぎて行ってしまった。
わたし、このまま、ずっと、独りなのかしら?
わたしは自分の体を擦った。
「義姉さん、具合が悪いんじゃない?」
ミゲルに覗き込まれ、わたしは「はっ」とした。
慌てて体を擦っていた手を下ろすと、笑みを作った。
「別に、いつも通りよ、それより、どうしたの?ダンスはおしまい?」
「うん、ここから逃げ出したいから、具合が悪くなった事にしてよ」
「具合が悪くなった事にするなら、あなたでしょう?
わたしが支えて連れ出してあげるわ___」
「いいから!」
ミゲルはわたしの言葉を遮ると、突然、わたしを抱き上げた。
「ミゲル!?」
ミゲルは「掴まっていて」と大股で歩き出す。
わたしは反射的にミゲルの肩を掴んでいた。
「もう!これじゃ、皆に何て言われるか…」
「足を挫いた事にしようよ」
わたしは「もう!」と言ったが、今更なので諦め、任せる事にした。
令嬢たちは話し掛けたそうにしていたが、ミゲルの歩幅に付いて来れる者はおらず、
残念そうな顔で見送ったのだった。
ミゲルは馬車まで行き、漸くわたしを下ろしたのだった。
「もう!強引なんだから!」
「仕方ないでしょう、義姉さんは全然助けてくれないし。
あれだけ踊れば、僕の体力も限界だよ」
「あなた、楽しそうにしてたから…」
「礼儀だよ、別に楽しんでいた訳じゃないよ」
ミゲルが不満そうに唇を尖らせた。
こんな表情も、以前はした事が無かったのに…
それに、以前よりもずっと、感情の幅が広がっている気がする。
王都に行って変わってしまったのか、それとも、これまでは我慢していたのか…
我慢していたとしたら、ショックだ…
「あなた、昔はずっと良い顔をしてたじゃない…そんな顔しなかったでしょう?
あれは、無理してたって事なの?」
「無理というよりは、僕の習性かな…
僕は実の父に嫌われていたから、無意識に、相手の望む様にしてしまう。
でも、それが嫌という訳じゃない、相手が喜んでくれると、僕も安心出来るから…」
わたしたちは、ミゲルがどんなに我儘でも、嫌いになったりしない!
だけど、ミゲルが、父親や継母、異母弟たちに、酷い仕打ちをされていた事も知っている。
トラウマを抱えていても、不思議ではなかったのだ。
わたしが子供過ぎて、考えが及ばなかっただけで…
「そう…気付かなくて、ごめんなさい。
でも、知っておいて欲しいの、わたしたちは、どんなミゲルでも受け入れていたわ」
「うん、ありがとう、僕も分かってはいたけど、中々、習性は変えられなくて…
でも、成長する内に、自分の欲求が大きくなるでしょう?
僕は天使ではいられなくなった___」
ミゲルがニヤリと笑う。
わたしも微笑み返した。
ミゲルの心が救われていたのなら、嘘でも良い。
誰も自分を知らない場所へ行った事も、ミゲルにとっては良かったのだろう。
もしかしたら、ミゲルはそれを分かっていたから、王都に行ったのだろうか?
わたしに秘密にして…
わたしが反対するから?
「それより、義姉さん、スチュアートって誰?」
いきなりその名を出され、わたしは固まっていた。
「お友達の話では、義姉さんの恋人で、義姉さんを裏切って、
義姉さんのお友達と婚約したと言ってたけど、本当なの?」
「そんなの、信じないで!デタラメなんだから!」
わたしは思わず声を荒げてしまい、深呼吸をして自分を落ち着けた。
「スチュアート・モットレイ男爵子息、彼の家とは取引があるの。
最近、男爵の代わりにスチュアートが家に来る様になって、顔を合わせる様になったの。
この間、パーティで偶然会って、わたしの友達、キャロラインが紹介して欲しいというから、
紹介して…その後の事は知らないわ。
どうやら、婚約するらしいから、きっと気が合ったのね___」
「義姉さんは、彼を好きだったの?」
「いいえ!!」
わたしはキッパリと言ったが、ミゲルのその深い碧色の目は、怪しんでいる様に見えた。
「感じの良い人だったから、彼を嫌いな人はいないわ…」
「好きだったんだ…」
カッと、顔が熱くなった。
「友人としてね!
スチュアートはわたしよりも背が低いのよ、そんな風に考えた事もないわ!
キャロラインは小さくて可愛いし、二人はお似合いだわ!」
「そんな風に言わなくていいよ、誰が誰を好きになってもいいんだから。
想いが届かなくても、好きになった自分を否定しないで…」
ミゲルがわたしの頭を撫でる。
わたしは「そんなんじゃないわ」と、顔を背けた。
わたしはいつの間にか、眠りに落ちていた。
王子様に抱えられ運ばれる夢を見た。
王子様はわたしをベッドに下ろし、
「お休み、良い夢を」と、わたしに優しいキスをしてくれた。
行かないで…
ずっと、待っていたんだから…
どうして、もっと早く、来てくれなかったの?
『ごめんね、ヴァイオレット…』
『愛しているよ…』
目が覚めた時には、わたしは自分の部屋で、ベッドの中にいた。
メイドたちが着替えさせてくれたのだろう、ドレスは脱がされ、夜着を纏っていた。
「夢…」
夢でしか会えない王子様…
ああ、もっと、一緒に居たかったわ…
わたしは再び王子様に会うべく、目を閉じた。
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