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二度目

25 /ルイーズ

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わたしはリアムと一緒に書斎を出た。

「突然の事で驚いたよね、悪かったね、ジスレーヌ」

リアムが申し訳なさそうな顔をし、謝ってくれた。
リアムはロクサーヌがわたしを監視し、今日結論を出すと知っていたのだ。

「いえ、元は、わたしが言い出した事ですから…」

侯爵夫人の資質があるか、見極めて欲しいと。
まさか、他の誰かに頼むとは思っていなかったが…

「君なら大丈夫だと思っていたよ、ジスレーヌ」

リアムが大きな笑みを見せ、わたしの胸はときめいた。
だが、次の瞬間、リアムの顔が陰りを見せた。

「君が、まだ彼を引き摺っているのは知っているけど…」

彼?引き摺る?
わたしは何の事かと、リアムを凝視した。

「以前、君は、想い人がいる、結ばれない人だと言ったよね?」

そういえば…
そんな事を言った気がする。
リアムに想いを知られない為に、真実を織り交ぜたのだが…

「君を見ていて、気付いたんだ、君の想い人は、ジェイドだよね?」

「!?」

意外過ぎる名が出てきて、わたしは思わず目を見開いていた。

「ジェイドは兄ですよ?」

「分かっているよ、だから、結ばれないんだと…
君はいつもジェイドを頼っているし、仲が良すぎる…
誕生日の日も、君はジェイドに抱き着いていた…」

「あれは、頼んでいた本が手に入って、うれしくて…」

「ジェイドの結婚が近付いていく内、君は思い悩み、痩せていった…」

「あれは、兄の結婚とは全く関係ありません!
わたしは心の底から、兄とミシェルの結婚を望んでいましたし、喜んでいます!
兄は頼りになりますが、兄以上ではありません!」

思わず大きく言っていた。
リアムは怪訝そうな顔をし、わたしを探る様に見た。

「それなら、君の想い人は誰?」

わたしは息を飲んだ。
真剣な碧色の目に飲み込まれる___

「相手が誰であっても、僕が忘れさせてみせる___」

リアムの唇が、わたしの唇を奪った。
いつかのキスの様に、熱く____





今日が無事に終わったら…
明日、リアムに自分の気持ちを打ち明けよう___

夜、わたしはそう心に決め、寝支度をし、ベッドに入った。

このまま平穏に夜が過ぎ、朝が明ける___
この時のわたしは、そう信じて疑っていなかった。

まさか、あんな事が待ち受けていたなんて…


◆◆ ルイーズ ◆◆

「ああ!このままじゃ、リアムとジスレーヌが結婚してしまうじゃないの!
これで、侯爵に何かあれば、リアムは私たちを追い出すわ!
そうなれば、私たちは破滅よ!ジェシカ!」

部屋に戻ったルイーズは人払いをし、散々に喚き散らしていた。
ジェシカは書斎に呼ばれなかったので、事の顛末を知りたがったが、
ルイーズがこんな調子なので、想像するしか無かった。

「もー、だから、ジスレーヌなんて早く追い出せって、言ったのにー」

「いつでも追い出せると思ったのよ!
あなただって、ジスレーヌを虐めて楽しんでいたでしょう!ジェシカ!」

「うん!リアムから手紙が来たって言ったら、凄くショックを受けてたわ!
髪飾りも見せびらかしてやったの!ジスレーヌってば、自分に贈られた物とも
知らずに、羨ましそうに見てたわ!ふふふ!
好みじゃないから、直ぐに捨てちゃったけど!」

ジェシカはペロリと舌を出した。

「クソ!あの、婆さんの所為で!私まで疑われるなんて…」

ロクサーヌは、ルイーズが皿を割り、ジスレーヌを追い詰めようとしていた事を知っていた。
ルイーズが美術商のフゥベーと結託し、悪さをしている事も掴んでいるのだろう。
当て擦られ、ルイーズは腹を立てていた。
だが、幸い、侯爵は気付いていない。
侯爵は人が良く、裏を考えたりはしないのだ。
だからこそ、ルイーズは言葉巧みに誘導し、侯爵夫人の座に収まる事が出来たのだ。
だが、息子は誤算だった。

ルイーズは当初、侯爵同様に、息子のリアムも操れると思っていた。
だが、リアムは、侯爵には似ず、疑い深く、ルイーズに懐こうとはしなかった。
それ所か、いつも冷たい目で自分を監視している…
ルイーズにとって、障害以外の何物でもない。

ルイーズは目の上の瘤のリアムを、どうにか遠避けようとしていたが、上手くはいかなかった。
ルイーズがリアムを陥れるか、リアムがルイーズを陥れるか…
ルイーズはリアムの前ではいつも気が抜けなかった。

それが、今回の事で、リアムの方が優勢になってしまった。
あのロクサーヌの所為だ!
ロクサーヌはルイーズを失脚させる《何か》を握っている様に思える。
それを侯爵に話せば、今度こそ、侯爵は自分を疑うのではないか?

ルイーズは苛々とし爪を噛んだ。

「そのお婆さんを殺せばいいじゃない」

ジェシカがあっけらかんと言う。

「今直ぐには駄目よ、私が疑われるわ」
「お婆さんなら、心臓発作で死ぬんじゃない?あたしが脅かしてこようか?」
「もっと、慎重に、確実な手を使いましょう___」

ルイーズとジェシカが話していた時だ、カチャリと大窓が開いた。
二人が振り返ると、テラスから一人の男が入って来た。

「やぁ、お嬢様方、今夜もお美しい」

ダークブロンドの髪に、目尻の下がった目で笑う。

「バヤール!」

ジェシカが喜びの声を上げたが、ルイーズは顔を顰めた。

「バヤール、今夜は不味いわ…」
「どうしたんだい?僕の御姫様」

バヤールはジェシカの額にキスを落とすと、ルイーズの腰を抱き、甘いキスをした。
すると、ルイーズの表情も解けた。

「仕方のない人ね…客が来てるのよ、私の失脚を狙っている、したたかなヤツよ!
あなたとの事が露見したら、私たちは終わりよ。
そうなれば、あなたも困るでしょう?」

ルイーズの手が、バヤールの胸を撫でる。
バヤールはその手を取り、ニヤリと笑った。

「僕と君との仲を引き裂こうとする者は、僕が許さないさ。
丁度良いものがあるんだ___」

バヤールが懐から取り出したのは、暗色の小瓶だった。
如何にも怪しい小瓶を目にし、ルイーズの表情は活き活きとした。

「あなたって、どうしてこんなに気が付くの?」

ルイーズは口角を上げて笑い、バヤールの唇を奪った。


◆◆◆◆
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