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二度目
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しおりを挟むああ、どうか、神様!リアム様をお助け下さい___!!
どうして、どうして、こんな事になってしまったの!?
わたしは、リアムの死など望んでいない!
愛する者の不幸など、絶望など、見たくなかった!!
出来るなら、どうか、時間を戻して___!!
水面から、目映い光が浮かび上がった。
そして、それは周囲を、わたしを飲み込んでいった。
わたしは咄嗟に、リアムを守ろうとした。
だが、実態の無いわたしに、それが叶う筈も無い。
わたしは必死に手を伸ばす___
「大丈夫?」
声を掛けられ、わたしは深い所から意識が戻ってくるのを感じた。
ぼんやりと声の方を見ると、綺麗な碧色の目に出会った。
リアム様___!
わたしはこれまでの事を思い出し、弾かれた様に、彼に抱き着いていた。
声を上げて泣いた。泣きながら、謝っていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!わたしが悪いの!全部、わたしの所為なの!」
「謝らなくていいよ、君の所為じゃないよ、誰も君を怒ったりしないからね、怖かったね…」
リアムは優しくわたしを抱きしめ、頭や背中を撫でてくれた。
それから、優しく頭の上にキスをしてくれた。
わたしはその優しさに包まれ、次第にショック状態から落ち着いてきた。
だが、新たに混乱が生じた。
わたし、魂だった筈なのに…
リアムも死んだとばかり思っていた。
でも、実体があるわ…
わたしは生きているの?
リアム様も生きている?
でも、どうして…?
もしかすると、わたしは自害に失敗して、長い夢でも見ていたのだろうか?
混乱しつつ、確かめようと瞬きをしていると、わたしを覗き込んでいる顔が、
わたしが知っているよりも、随分幼い事に気付き、唖然とした。
「!?」
幼いし、随分…痩せている。
その痩せた体に縋る、自分の手が目に映り、その小ささに驚いた。
もしかして、《時》が戻ったの!?
『ああ、どうか、神様!リアム様をお助け下さい___!!』
『出来るなら、どうか時間を戻して___!!』
あの時…
わたしが願った時、泉が光った。
もしかして、《聖なる泉》が、わたしの願いを叶えてくれたの___?
わたしは震えた。
「直ぐに着替えた方がいいね、行こう___」
リアムがいきなりわたしを抱き上げたので、わたしは「きゃっ!」と声を上げてしまった。
「寒そうだし、こっちの方が早く戻れるから…嫌かな?」
わたしは頭を振り、彼の首元に抱き着いた。
リアムの側は安心出来る。
知っている、彼の匂いがする。
彼が、生きている…
わたしはいつの間にか、すっかり眠り込んでいた様で、気付くと、
伯爵家に戻る馬車の中だった。
隣には兄が座り、わたしが気付いたと知ると、勢い良く捲し立ててきた。
「おまえ、良く寝ていられるよな!こっちは、大変だったんだぞ!
おまえが居ないから、何処に行ったのかと探してたら、まさか、池に落ちてたとはな!
リアムがおまえを運んで来た時は、自分の妹じゃない事を祈ったさ!」
「心配させて、ごめんなさい…」
わたしが謝ると、兄は「ん?」と怪訝な顔をした。
「なんか、おまえらしくないな、頭打ったんじゃないよな?」
わたしはギクリとし、ぶるぶると頭を振った。
「使用人たちは、ずぶ濡れのおまえを着替えさせて、髪も乾かして…
おまえが目を覚まさないから、侯爵家の主治医まで呼ばれて…
それで、主治医は何て言ったと思う?」
わたしは「十歳の娘でない」と診断されたのかと思い、背中がヒヤリとした。
だが、兄はニヤリと笑った。
「『気持ち良く寝ています』だってさ!
ったく、この、呑気者め!俺は恥ずかしかったよ!」
恥ずかしいと言いながら、兄は楽しそうに笑っていた。
一度目の兄も、こんな風だっただろうか?
一度目の時、わたしはリアムに心を奪われ、ほとんど何も記憶していない。
ただ、兄には「恥ずかしいから、絶対に言わないで!」と強く口止めした気がする。
一度、十九歳まで生きた今のわたしには、それが恥ずかしい事には思えなかった。
子供らしく、微笑ましい。
それに、リアムとの素敵な思い出だ___
だけど、二度目のリアムは少し違っていた。
わたしが号泣してしまったからだろうか?
わたしを抱きしめてくれたし、撫でてくれた、頭にキスもしてくれた…
それに、一度目のリアムは、手を繋いでくれて、一緒に歩いて戻ったのに、
二度目では、わたしを抱えて運んでくれた…
全て、同じとは限らないのね…
だけど、それで良いのだ。
もう二度と、あんなリアムは見たくない___!
「おい、泣くなよ!悪かったって!別に恥ずかしいとは思ってないって!」
兄が慌てだし、わたしは自分が泣いている事に気付いた。
わたしは指で涙を拭い、小さく笑った。
「分かってるわ、お兄様、ありがとう」
「ああ、うん…ん?ありがとうって、何が?」
「ふふ…内緒!」
「なんだよ、変な奴―!」
兄は、自害した馬鹿なわたしの為に、怒ってくれた。
報復はして欲しくなかったけど…
わたしが間違うと、いつも忠告してくれていた。
馬鹿だと言いながら、どんな時も、わたしを見放さなかった。
兄だけじゃない、父も母も、わたしを想ってくれていた…
わたしは愛されていたのに、思いやる事無く、自ら捨て去ってしまったのだ。
わたしは自分の愚かさに泣きたくなったが、兄がまた騒ぐといけないので、
ぐっと奥歯を噛み、我慢した。
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兄は項垂れ、「すみません…」と重々しく言った。
わたしは咄嗟に、兄を庇っていた。
「お兄様は悪くないの!わたしが黙って抜け出したんです、
お兄様を心配させようと思って…だから、わたしが謝ります。
お父様、お母様、お兄様、心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
父、母、兄の目が、わたしに集まった。
その表情は、何処か怪訝に見える…
「どうしたんだ、ジスレーヌ、随分…大人な事を言って…」
「頭を打ったのかしら?やっぱり、主治医を呼んだ方が…」
「おまえ、そんなに賢かったか?それに、おまえが俺を庇うなんて…」
わたしはそれに気付き、焦った。
そうだ、忘れていたが、今のわたしは、《十歳》なのだ!
十歳らしい言動でなければいけないが、昔の自分はどんな感じだっただろう?
「あ、あはは!わたし、お腹空いたなぁ…」
誤魔化そうと言ってみた所、父、母、兄は途端に、安堵の表情になった。
「ったく!おまえは、寝て起きただけだろう!」
「長旅で疲れているのさ、直ぐに晩餐にしよう」
「食欲があって良かったわ!ジスレーヌ、沢山食べるのよ」
わたしは、こんなにも愛されていたのね…
一度目の時、わたしはリアムしか見えていなかった。
周囲の事など、気に掛けた事も無かった。
我儘で傲慢…
魂になり、自分の評価を聞いた時には、「違う!」と反発したが、
よくよく考えてみると、確かに、そうだったかもしれない…
こんなに愛してくれていた父、母、兄に、わたしは何か返せていただろうか?
それ所か、自害までしてしまった___
わたしは家族を安心させる為、終始、にこにことし、明るく振る舞った。
夜、寝支度をし、ベッドに入ると、漸く落ち着けた気がする。
ボロが出てしまわないか、気が気では無かった。
「時が戻ったのね…」
わたしは十歳で、周囲も皆、若返っている。
不思議だったし、信じ難くもあったが、夢ではなく、本当だったらいい…
わたしもリアムも生きていて、やり直す事が出来るのだ___
「もう、二度と、リアム様から、何一つ、奪わないわ…」
固く心に決め、わたしは眠りに落ちた。
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