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三食昼寝、家族付き
第1044話 実は明暗を分けるお手紙
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今年の夏、我が領地を始め、各地で天候が思わしくなく、作物の育ちが悪い、このままでは王族も民も近く飢えるだろう。
だが隣国は王都を中心に例年通りの収穫率、一部で不作な領地もあるらしいがどうもそこは王家への忠誠が薄いと陰で噂されている家だと言う。
王家への忠誠心、それさえ違えることがなければ安寧を約束された国。
恩恵を手に入れようと戦争を仕掛けた国、画策した国、至宝を奪おうとした国はもうどこにもない。
ある日突然、関わった人間だけが忽然と姿を消してしまったのだ。
残された民と土地を他国同士で奪い合い、消えた事実すらも歴史に埋もれていった。
ただ我が国の王だけは歴史研究の専属機関を設立し、数多の国が消えた事実を残させた。
そして専門家がまとめた全ての書物の最初の一ページには「神の怒りに触れるな」と一言書かれている。
それでも、怒りでこの身を焼かれたとしても、我が身一つで民を救うことが出来るならば惜しくはない。
「陛下、このままゆけば死者が出ます。どうかかの国に使者をたてることをお許しください」
執務室にてこの願いを口にするのは幾度目だろうか、頭を下げ、陛下の言葉を待つ。
「これを見よ」
差し出されたのは美しい封筒。
戸惑いとともに王の顔を見れば、疲れの滲んだ顔だがここ数日に比べれば表情が柔らかい。
「……神は、我らを見捨てなかったのですね」
ふわりと新緑の優しい香りがする紙に綴られているのは、食糧支援の提案とそれに関わる不思議な条件。
「この、代表者は各国最大五人。というのは?」
「民を飢えさせない蓄えはあるが他国を支援するほどはないようでな、その国力がある国と引き合わせてくれるつもりのようだ。ただあちらも話がまだまとまっていないらしく、簡単な通達だけ送られたきた」
手紙はもう一枚あり、そちらは謎の言語とともに肉球のスタンプが押されていた。
「陛下この文字は?」
「我には読めなかったが、第一王子がヒントをくれた」
「殿下が?」
「親しくしている他国の王子の手紙に同じ模様を見たことがあると、今、実物を探して貰っている」
「父上見つかりましたよー」
明るい言葉とともに第一王子が執務室に飛び込んできた。
王子、貴方は一応王太子の第一候補なのですから、ノックと最低限のマナーは守ってくださいといつもいつもいつも言っていますよね?
「宰相死にそうだな! あっそうだ、父上これこれ」
「せめて陛下と呼べ」
「分かった。はい」
軽いな。
本当に分かってくれたのかちょっと不安が残る。
陛下に渡されたのは純白の封筒だった。
少し離れているが質の良さがここからでも分かる。
「……この文字は、筆跡ともにこちらの手紙と一致するな、なんと書いてあるのだ?」
「『俺の弟と仲良くしてくれたありがとな! 今度うちに遊びに来いよ!』って書いてあります、ちなみに古代文字らしいですよ、肉球スタンプは魔除け効果もあるのでそこだけ切り取って持ち歩けって言われたのですが、ペーパーナイフが入らなくて宝石箱に保存してたのうっかり忘れてました!」
うちの殿下の人脈が謎なのだが。
「読めるの?」
「はい! 文通するために覚えさせられましたから!」
「じゃあこっちは?」
「『稲刈り体験やるから大会前に前哨戦しに来ない? この手紙は大会の参加証代わりだからなくさないでね!』だいたいそんな感じのことが書いてありますね。この書き方はアルジュナ様かなぁ、あの人お祭り好きだし」
うちの殿下って古代文字読めたの?
魔術師長でも解読に頭を悩ませているのに!?
もしかして賢いのだろうか……。
「父上、これ俺も参加していいですか? 絶対面白いイベントあると思うんですよねー」
「遊びに行くのではないんだぞ?」
「王位継承権賭けてもいいですよ、向こうは絶対これに乗じて遊ぶつもりです! 確実に屋台がある、父上、小遣いと参加者を選ぶ任命権ください!」
「私がともに参りましょう」
「じゃあとりあえず稲刈り体験は俺と宰相で行ってきます、父上は動かす予算を決めておいてくださいね」
「まだ許可をしておらぬぞ」
「えー、多分ですけど、もう迎え来ますよ? 断るんですか?」
殿下が不平を述べるとほぼ同時に執務室に影が差し、にゅるりと人間の頭と同じサイズの蛇の頭が闇より顔を出した。
「あれ、フライングしたか?」
「パパがダメだって」
「おーさまケチくさいなぁ、難しく考えると頭つるっぱげになるぞ、俺にみたいにな!!」
「イグ様、最初から髪の毛ないよね」
「いっひひひひひ」
現れた蛇と殿下の会話に陛下がとうとう頭を抱えてしまった。
私も逃げたい、うちの殿下なにと仲良くなってるの!?
その後、陛下から許可をもぎ取って稲刈り体験に参加してきたのはいいのだが、普段からデスクワークばかりなのが祟って帰国したら全身筋肉痛に襲われて寝込んだ。
見舞いにきた蛇は筋肉痛で寝込む私を見て大笑いして帰っていった。
私は財布としてついていくだけにして、大会参加者は他の者に譲った方がいいかもしれない。
しかし残念賞として渡されたこの煎り豆美味いな。
だが隣国は王都を中心に例年通りの収穫率、一部で不作な領地もあるらしいがどうもそこは王家への忠誠が薄いと陰で噂されている家だと言う。
王家への忠誠心、それさえ違えることがなければ安寧を約束された国。
恩恵を手に入れようと戦争を仕掛けた国、画策した国、至宝を奪おうとした国はもうどこにもない。
ある日突然、関わった人間だけが忽然と姿を消してしまったのだ。
残された民と土地を他国同士で奪い合い、消えた事実すらも歴史に埋もれていった。
ただ我が国の王だけは歴史研究の専属機関を設立し、数多の国が消えた事実を残させた。
そして専門家がまとめた全ての書物の最初の一ページには「神の怒りに触れるな」と一言書かれている。
それでも、怒りでこの身を焼かれたとしても、我が身一つで民を救うことが出来るならば惜しくはない。
「陛下、このままゆけば死者が出ます。どうかかの国に使者をたてることをお許しください」
執務室にてこの願いを口にするのは幾度目だろうか、頭を下げ、陛下の言葉を待つ。
「これを見よ」
差し出されたのは美しい封筒。
戸惑いとともに王の顔を見れば、疲れの滲んだ顔だがここ数日に比べれば表情が柔らかい。
「……神は、我らを見捨てなかったのですね」
ふわりと新緑の優しい香りがする紙に綴られているのは、食糧支援の提案とそれに関わる不思議な条件。
「この、代表者は各国最大五人。というのは?」
「民を飢えさせない蓄えはあるが他国を支援するほどはないようでな、その国力がある国と引き合わせてくれるつもりのようだ。ただあちらも話がまだまとまっていないらしく、簡単な通達だけ送られたきた」
手紙はもう一枚あり、そちらは謎の言語とともに肉球のスタンプが押されていた。
「陛下この文字は?」
「我には読めなかったが、第一王子がヒントをくれた」
「殿下が?」
「親しくしている他国の王子の手紙に同じ模様を見たことがあると、今、実物を探して貰っている」
「父上見つかりましたよー」
明るい言葉とともに第一王子が執務室に飛び込んできた。
王子、貴方は一応王太子の第一候補なのですから、ノックと最低限のマナーは守ってくださいといつもいつもいつも言っていますよね?
「宰相死にそうだな! あっそうだ、父上これこれ」
「せめて陛下と呼べ」
「分かった。はい」
軽いな。
本当に分かってくれたのかちょっと不安が残る。
陛下に渡されたのは純白の封筒だった。
少し離れているが質の良さがここからでも分かる。
「……この文字は、筆跡ともにこちらの手紙と一致するな、なんと書いてあるのだ?」
「『俺の弟と仲良くしてくれたありがとな! 今度うちに遊びに来いよ!』って書いてあります、ちなみに古代文字らしいですよ、肉球スタンプは魔除け効果もあるのでそこだけ切り取って持ち歩けって言われたのですが、ペーパーナイフが入らなくて宝石箱に保存してたのうっかり忘れてました!」
うちの殿下の人脈が謎なのだが。
「読めるの?」
「はい! 文通するために覚えさせられましたから!」
「じゃあこっちは?」
「『稲刈り体験やるから大会前に前哨戦しに来ない? この手紙は大会の参加証代わりだからなくさないでね!』だいたいそんな感じのことが書いてありますね。この書き方はアルジュナ様かなぁ、あの人お祭り好きだし」
うちの殿下って古代文字読めたの?
魔術師長でも解読に頭を悩ませているのに!?
もしかして賢いのだろうか……。
「父上、これ俺も参加していいですか? 絶対面白いイベントあると思うんですよねー」
「遊びに行くのではないんだぞ?」
「王位継承権賭けてもいいですよ、向こうは絶対これに乗じて遊ぶつもりです! 確実に屋台がある、父上、小遣いと参加者を選ぶ任命権ください!」
「私がともに参りましょう」
「じゃあとりあえず稲刈り体験は俺と宰相で行ってきます、父上は動かす予算を決めておいてくださいね」
「まだ許可をしておらぬぞ」
「えー、多分ですけど、もう迎え来ますよ? 断るんですか?」
殿下が不平を述べるとほぼ同時に執務室に影が差し、にゅるりと人間の頭と同じサイズの蛇の頭が闇より顔を出した。
「あれ、フライングしたか?」
「パパがダメだって」
「おーさまケチくさいなぁ、難しく考えると頭つるっぱげになるぞ、俺にみたいにな!!」
「イグ様、最初から髪の毛ないよね」
「いっひひひひひ」
現れた蛇と殿下の会話に陛下がとうとう頭を抱えてしまった。
私も逃げたい、うちの殿下なにと仲良くなってるの!?
その後、陛下から許可をもぎ取って稲刈り体験に参加してきたのはいいのだが、普段からデスクワークばかりなのが祟って帰国したら全身筋肉痛に襲われて寝込んだ。
見舞いにきた蛇は筋肉痛で寝込む私を見て大笑いして帰っていった。
私は財布としてついていくだけにして、大会参加者は他の者に譲った方がいいかもしれない。
しかし残念賞として渡されたこの煎り豆美味いな。
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