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三食昼寝、家族付き
第945話
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豆が無双して奇病が去った地に訪れたのは豆の祝福。
大地も水も枯渇し、栄養がなくて植物すら育つ余裕のなくなったはずのその地にて、魔素を取り込み、海水でも育つ珈琲が爆誕した。
「珈琲の木が水を呼ぶんだ」
「は?」
「本当だって」
『自己アピールが激しいの』
「俺、自分の才能が怖い!」
百聞は一見に如かず。と言われ連れてこられた海岸、海を眺める陸地にずらりと並ぶ珈琲の木が風に揺られている。
ここだけならまぁそこまで不自然じゃない。
視線を足元に向けると、風が波を大地に運ぶたび、海水が不自然に大地をスイーーッと登っているんだ。
水が木まで到達し、珈琲の木の根元にしみこんでいく。
「で、次はこっちこっち」
『驚くと思うの』
「味は保証する、俺には良さわからなかったけど」
味?
不思議に思いながら先導する幼児の後をついていけば、珈琲の木に案内された。
「ママほらこれ、木の幹見て」
「……茶色い樹液?」
「こーちーよ」
「にっがい」
涼玉をそっと下に置いたマールスが、アイテムボックスから木のコップを一つ取り出し、そこに樹液を注ぎこんで僕に差し出した。
飲まなきゃダメなのだろうか。
実は僕、珈琲の味がほぼ分かりません。
珈琲牛乳ならまだ飲めるんだけど、ブラックはちょっとなぁ。
そんなこと目を輝かせる幼児に言えるわけもなく、コップを受け取りちびりと一口飲んでみた。
「っにが」
砂糖ください、砂糖、それか牛乳。
これ大人の味過ぎて僕には無理。
「ママも無理だったかー。これな、珈琲を飲んでた冒険者好みの味らしくてさ、本人は狂喜乱舞して幹に抱きついていた」
『木も照れてたよ』
「珈琲の良さをアピールしようと樹液出しているみたいなんだけど、いまいち受けが良くない」
ちらりと見上げたら照れたのか珈琲の木に成っていた実が一斉に赤く色づいた。
相思相愛で何よりです。
「ここに移住して珈琲の番人になるって息巻いてたな」
『愛が深いのよ』
「世界初の珈琲専門店?」
「研究所も欲しいので費用ください」
会話に横入してきたのは豆が暴走した日に目を吊り上げて説教してきた冒険者だった。
あれは本当に怖かった。そうか、ガチ珈琲勢だったのか。
「なんで俺が費用出さなきゃならないんだよ」
「最高級の珈琲豆を刀雲さんに献上しますから」
「分かった! レシピもやろう! 他に欲しいものがあったらリスト化しておけよ!」
『パパ珈琲好きだもんね』
「珈琲を飲むとうちゃの横顔かっちょええもんな!」
アー君がちょろい。
刀雲が愛されていて何よりです。
騎士様?
騎士様はどちらかというと紅茶派で、飲む姿はとても優雅、子供達が憧れるのは男らしい渋さで、色気が駄々洩れな騎士様はちょっと違うみたい。
「珈琲出すなら軽食もな」
「さんどいっちー」
「ピーナツも美味いぞ」
「涼玉様はチョコ入りクッキーがお好きです」
「僕はキャラメル味が好きだなぁ」
「俺甘いもの苦手なんですけど!?」
「費用は俺持ちだぞ! 出資者! スポンサー! パトロン!」
「生クリームさんどいっちー!」
「アイスも出せーー!!」
「俺一人でそこまで手が回りませんよ!」
幼児の押しに珈琲戦士が涙目です。
すみませんねぇ、癖が強くて。
でもキャラメル味のデザートも捨てがたいので助けない。
「よし分かった! 相方連れてくればいいんだな! 首洗って待ってろ!」
捨て台詞のような言葉を残してアーが消え、数分もしないうちに戻ってきた時には顔に傷やら痣のあるいかつい筋肉の塊を二人連れていた。
「紹介しよう! もふもふと触れ合える茶屋の常連であり、茶屋に通ううちにデザート作りに目覚めた独身野郎二人だ!」
「こう見えても30代前半だぜ!」
傷だらけの人かにかりと笑うけど、髭がもじゃもじゃして分かりにくい。
「ドラゴンの炎に焼かれる前は美形だったんだぜ! 甘いものを作り放題ってマジ?」
相棒さんは40代後半ぐらいで、そろそろ引退しようか迷っていたところらしい。
引退後は喫茶店を開くか茶屋で雇ってもらえないか交渉するつもりだったようで、アー君の話に後先考えず飛びついたようです。
大丈夫ですか、アー君って結構無茶いうよ?
後日、当然のように傷の冒険者と珈琲戦士が結婚し、もう一人の方はなぜか義足の職人と出来上がった。
どっちがどっちだろうか、知りたい気もするけど怖くて聞けない。
大地も水も枯渇し、栄養がなくて植物すら育つ余裕のなくなったはずのその地にて、魔素を取り込み、海水でも育つ珈琲が爆誕した。
「珈琲の木が水を呼ぶんだ」
「は?」
「本当だって」
『自己アピールが激しいの』
「俺、自分の才能が怖い!」
百聞は一見に如かず。と言われ連れてこられた海岸、海を眺める陸地にずらりと並ぶ珈琲の木が風に揺られている。
ここだけならまぁそこまで不自然じゃない。
視線を足元に向けると、風が波を大地に運ぶたび、海水が不自然に大地をスイーーッと登っているんだ。
水が木まで到達し、珈琲の木の根元にしみこんでいく。
「で、次はこっちこっち」
『驚くと思うの』
「味は保証する、俺には良さわからなかったけど」
味?
不思議に思いながら先導する幼児の後をついていけば、珈琲の木に案内された。
「ママほらこれ、木の幹見て」
「……茶色い樹液?」
「こーちーよ」
「にっがい」
涼玉をそっと下に置いたマールスが、アイテムボックスから木のコップを一つ取り出し、そこに樹液を注ぎこんで僕に差し出した。
飲まなきゃダメなのだろうか。
実は僕、珈琲の味がほぼ分かりません。
珈琲牛乳ならまだ飲めるんだけど、ブラックはちょっとなぁ。
そんなこと目を輝かせる幼児に言えるわけもなく、コップを受け取りちびりと一口飲んでみた。
「っにが」
砂糖ください、砂糖、それか牛乳。
これ大人の味過ぎて僕には無理。
「ママも無理だったかー。これな、珈琲を飲んでた冒険者好みの味らしくてさ、本人は狂喜乱舞して幹に抱きついていた」
『木も照れてたよ』
「珈琲の良さをアピールしようと樹液出しているみたいなんだけど、いまいち受けが良くない」
ちらりと見上げたら照れたのか珈琲の木に成っていた実が一斉に赤く色づいた。
相思相愛で何よりです。
「ここに移住して珈琲の番人になるって息巻いてたな」
『愛が深いのよ』
「世界初の珈琲専門店?」
「研究所も欲しいので費用ください」
会話に横入してきたのは豆が暴走した日に目を吊り上げて説教してきた冒険者だった。
あれは本当に怖かった。そうか、ガチ珈琲勢だったのか。
「なんで俺が費用出さなきゃならないんだよ」
「最高級の珈琲豆を刀雲さんに献上しますから」
「分かった! レシピもやろう! 他に欲しいものがあったらリスト化しておけよ!」
『パパ珈琲好きだもんね』
「珈琲を飲むとうちゃの横顔かっちょええもんな!」
アー君がちょろい。
刀雲が愛されていて何よりです。
騎士様?
騎士様はどちらかというと紅茶派で、飲む姿はとても優雅、子供達が憧れるのは男らしい渋さで、色気が駄々洩れな騎士様はちょっと違うみたい。
「珈琲出すなら軽食もな」
「さんどいっちー」
「ピーナツも美味いぞ」
「涼玉様はチョコ入りクッキーがお好きです」
「僕はキャラメル味が好きだなぁ」
「俺甘いもの苦手なんですけど!?」
「費用は俺持ちだぞ! 出資者! スポンサー! パトロン!」
「生クリームさんどいっちー!」
「アイスも出せーー!!」
「俺一人でそこまで手が回りませんよ!」
幼児の押しに珈琲戦士が涙目です。
すみませんねぇ、癖が強くて。
でもキャラメル味のデザートも捨てがたいので助けない。
「よし分かった! 相方連れてくればいいんだな! 首洗って待ってろ!」
捨て台詞のような言葉を残してアーが消え、数分もしないうちに戻ってきた時には顔に傷やら痣のあるいかつい筋肉の塊を二人連れていた。
「紹介しよう! もふもふと触れ合える茶屋の常連であり、茶屋に通ううちにデザート作りに目覚めた独身野郎二人だ!」
「こう見えても30代前半だぜ!」
傷だらけの人かにかりと笑うけど、髭がもじゃもじゃして分かりにくい。
「ドラゴンの炎に焼かれる前は美形だったんだぜ! 甘いものを作り放題ってマジ?」
相棒さんは40代後半ぐらいで、そろそろ引退しようか迷っていたところらしい。
引退後は喫茶店を開くか茶屋で雇ってもらえないか交渉するつもりだったようで、アー君の話に後先考えず飛びついたようです。
大丈夫ですか、アー君って結構無茶いうよ?
後日、当然のように傷の冒険者と珈琲戦士が結婚し、もう一人の方はなぜか義足の職人と出来上がった。
どっちがどっちだろうか、知りたい気もするけど怖くて聞けない。
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