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可愛い子には旅をさせよ

第264話

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 参加者の胃袋を存分に満たして終了した試食会の翌日、僕は神薙さんと共に人魚を確認しにお城にやってきた。
 人魚は鬼羅の家に居るらしく、居住区にやってまいりました。

 何度かお城に来た事はあるけれど、こっちに入るのは初めてだなぁ。
 どんな所で暮らしているんだろうとわくわくしていた僕の目の前に広がったのは、のどかなオランダのような風景だった。
 緩やかに流れる川と優しい色彩の花、絵本の中に登場しそうな茅葺屋根の民家、小さな村規模に作られた小さな箱庭、そこが国王と王太子の暮らす場所。

「じじが言うには休日ぐらいゆっくりしたいって、離宮を潰してここを作ったんだって」
「春日のお家はちょっと外れた所にあるんだよ、木がわさーってなっているから通りかかったら多分すぐわかる」

 国王様の趣味だった。
 和風趣味だったら昔話風の家を建てていたんだろうなぁ。
 
「ここだよー」
「ただいま~」

 小さな橋を渡って辿り着いた家は鬼羅の家。
 玄関から入った途端、書物が僕らを出迎えた。
 部屋から溢れて廊下のあちこちを占領してるよ、もうちょっと整理しなさい。

「お帰りなさいませ」

 そう言って出迎えてくれたのはドリアンだった。
 食事や家屋の管理など、生活面を心配したドリちゃんが派遣してくれているらしい、知らなかった、ありがとうドリちゃん。
 もしやドリアンが整頓してこの状態ってこと?

 刀羅は別の家で婚約者と同棲中だと告白されました。
 子供が生まれたらもう少し大きな家に引っ越す予定で現在建築中って……君達まだ学生だからね?

「きら?」
 
 家の奥から聞こえたのはどこかいとけない声音。

「帰ったよ~」

 声にふわりと微笑んだ鬼羅のその表情がなんていうか、甘い。

 ぺたり、ぺたり

 水に濡れた足音が近づいてくる。

「母様、紹介するね」

 水に濡れた艶やかな鱗。
 ぱっちりとした瞳。
 すらりと伸びた手足。

 ああこれは……

「まいど!」

 よっ!と手を挙げたのは、鯛のような外見に手足の生えた魚人。
 シャムス達のトラウマ再来な外見ですね。

 しかもちっさ、僕の膝ぐらいまでしかないんじゃない?
 鬼羅ちゃんこの子にラブなの!?
 僕ちょっと応援しにくい。

「母様、違うから」
「さすがに違うから」

 衝撃を受けていたら双子からツッコミが入った。

「そうなの、ああびっくりした」

 衝撃的過ぎてもう一回転生するかと思った。

「これは春日が遊びで作った魚人」
「気持ち悪いけど愛嬌あって絞めにくくて」
「シャムスに会わせないようにね、パニック起こしてアー君に周囲の魚殲滅されるよ」
「分かった」
「肝に銘じます」

 本当にお願いね。

 今いなくて良かったと初めて思ったよ。

「神薙さんも食べないでくださいね」
「ん」

 静かだと思ったら適当に積まれた本を読んでいた。
 これまたレアな光景だなぁ。
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