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権力とは使う為にある

第214話

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 ねぇ樹、だめ?

 甘い甘い声で騎士様に囁かれた。

「駄目です」
「堕ちない!」
『あ、あー』
「シャムスどうしたの? 喉痛い?」

 喉に手を当てて声を上げている姿に、口を開けさせて喉の奥を見る。特に赤くはなってないけど、何か喉に良い飲み物をドリちゃんに作ってもらおう。

「ま、まー」
「!!!!!」

 いま、なんと!?

「まーま」

 ちょっと聞いてください奥さん、うちの、うちのシャムスが、喋ったぁぁあ!!

「お赤飯! ドリちゃんお赤飯!」
「ままー」
「今日は宴会! 宴! 今から仕込みを!」
「母上落ち着いて、父上のお話聞いてあげて!」
「樹さーん!」
「あぅあ」
「どうしよう、うちの天使が喋った! 天才! ドリアン、学校に連絡して双子に夕方はこっちに来るように伝えて!」
「ハイ」

 うおおおお、この感動を全世界に発信したい!
 刀雲にも自慢しなきゃ!

「パパのとこ行こう!」
「あー」
「樹落ち着いてー」

 駄目か、刀雲の所に行ってたら夕食の仕込みが追い付かない。

「キーちゃーん」
「きゅるる」
「お昼寝中にごめんね、刀雲に伝言届けてくれる?」
「ぴゅーい」

 高い高ーい、シャムスは可愛いねぇぇぇ!

「アー君、あれだ、黙って家族に加えておこう」
「魔物じゃなくて人間だろう? さすがにバレると思うのだが」
「だめかなぁ、じゃあさ、寝ている樹の横にそっと置いておく!」
「はーいストップー」

 何不穏な会話してくれているのかな、そこの親子は。
 至近距離ですからね、少し落ち着けばちゃんと会話は耳に入るんですよ?

「騎士様」
「ハイ」
「今度は何を、拾ってきたのでしょうか?」
「ソンナー」
「アー君、シャムスに呼ばれたいよね」
「父上が赤ん坊拾ってきた!」
「アー君裏切るの早過ぎ!」

 騎士様がアー君の裏切りに悲鳴を上げているけれど、ひとまず無視しておこう、それにしても赤ん坊を拾った?

「シャムス、アー君の事呼べるかな?」
「あーちゃ!」
「可愛いぃぃ、シャムスが天使! 我が兄こそ至高!」

 妙な方向へ振り切れたかもしれない、まぁいいか。

「で、その赤ちゃんは今どこに?」
「えっとぉ」

 目を泳がせる騎士様に伝家の宝刀「お酒抜き」をちらつかせたら、慌ててラビの群れから一人の赤ん坊を取り出した。
 よく窒息しなかったな。

「生まれたばかりでまだ目も空いてないんだ、神社に捨てられてたのを朝の巡回でもふもふズが見つけて……放っておいたら神薙の餌になるから」

 もう、本当に、仕方ないなぁ。

「皺くちゃ、まだ本当に産まれたばかりですね、ドリちゃんに湯浴みしてもらいましょう」
「!」
「神薙さんの説得はお願いしますね、こっちでも食べ物用意しますけど」
「ありがと」

 刀雲も捨て子だった。
 神薙さんの境内に捨てられていたのを拾われたんだ。

 同じ境遇の子、それも騎士様に拾われた命、見捨てられないよね。
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